太田葵

神奈川県在住の高校一年生男子です 短編小説書いていきます 目標:書籍化 インスタnicoraus22

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最近の記事

作成途中

未完成な空の下、不完全なメロディを聴いた。 青藍の空の下、赫く光る陽を見た。 緋色の空の下、塵の反射する硝子を見た。 人工の空を見つめ、ベッドに横たわる。 いつ目を覚ましても、天井の色は変わらない。 辺りは静けさが漂っていたが、いつしか騒がしい電子音が響くようになった。 心臓の音が聞こえる。 ゆっくりとした呼吸に合わせ、心臓も動いている。 常闇の空の下、瞼の裏を見つめた。 何も見えなかった。 重力に沈んでいくように、僕は眠った。 2022年12月24日2

    • キミイロ

      凛と澄んだ巻雲の狭間から漏れ出た陽が草原の緑に橙を混ぜる。 蒼い空は陽に照らされ、その色は少しぼやける。 パッとしない春の天気も、今日は東風(こち)がほんのり赤い暖かさを運んできた。 夜が来た。 群青に染まった空の中で、恒星が煌めく。 人工の港を淡い黄色の月が灯りを添える。 赤文字で時刻を示す観覧車も、余韻を持たせるかのようにゆっくりと回る。 赤いレンガの建物も淡い月明かりを反射し、少し橙に染まっている。 ………らしい。 周りの人によるとそう見えるらしい。

      • ようこそ 眠れない夜へ

        もう午前2時になったと言うのになかなか寝付けない。 外の冷気に晒され、窓には結露ができている。 冬の静けさに文明の灯りがアクセントを添える。 6畳半の部屋、眠れない俺は天井を見上げる。 真上では電球のフィラメントが燃えんばかりに光っている。 今日は眠れずにこのフィラメントを眺め続けた。 その不安定な灯りにどこか吸い込まれる感じがする。 螺旋状のそれを眺めると、少し動いて見える。 こんな事を考えているうちに、眠れないと言いつつ、目を開けている自分がいることに気づ

        • 嘘と静寂

          ※この作品を読み終えたら、もう一度冒頭部分を読んで下さい。 貴方の横で、少しだけ背伸びをした。 散り行く花火を同じスピードで見ていたかったから。 「これは、俺が作った花火ですよ」 背伸びしてようやく届いた目線の中に入る。 花火を見つめている皺の刻まれた貴方の目を覗いた。 その半透明の瞳の中に、花火の煙が映った。 灰色が瞳に入り、さっと渦を巻いた後その灰は深く、深く染まり、夜の闇と同化した。 屋台が明るすぎるせいか、夜が来るのが少し遅いと錯覚していた。 その夜

          ハンドシグナル

          小春の澄んだ暖かい空気の中、群青に染まった空を見上げる。 拳を握り、その状態から親指、人差し指、小指を立てる。 そのハンドシグナルを僕は毎日続けている。 耳の聞こえない彼女に向けて。 僕と彼女も最初は至って普通のカップルだった。 休日は2人で海にも行ったし、遊園地でも遊んだ。 終電を逃して、2人で笑いながら長い距離を歩いて帰ったこともあった。 僕らはまだ大学4年生だった。 バイトで貯めたお金をタクシーに使ってしまうのは勿体無い。 それが彼女の見解だった。

          ハンドシグナル

          嘘にまみれ

          俺は小さなサーカスの名も無きピエロ。 サーカスと聞いて最初に思い出すのはピエロだろう。 目立つ様に無駄に明るく塗られたデカブツのボールに乗っては転んでみせる。 転ぶたびに観客は笑う。 観客は知らない。 知らなくて良いから知らないのだが、ピエロと言うのは元来、サーカス団の中でも下手な人がやるものだ。 理由は簡単、失敗しても笑われるだけで済むから。 これがピエロにとってどれほど屈辱か。 かれこれ1年以上ピエロをやっているが、この悔しい気持ちだけは忘れてはいなかった

          嘘にまみれ

          誕生日

          最近、笑わなくなった。 他の人が笑っていることも何が面白いのか分からない。 面白くないから笑わない。 いや、笑わないから面白くない。 そんなある日、ニュースの中で気になることがあった。 自分が生まれた日のニュースを見ると、良いらしい。 そんなはずなかろう。 何せ、僕が生まれた日はハイジャック事件が起き、24人が死亡したのだから。 まぁ良い。 少しでも自分の笑える何かが欲しかった僕は、図書館に行って新聞を探した。 10分程して、司書の人から「こちらです。」と

          唆散花(さざんか)

          ※これは「封筒」を父視点で描いたサイドストーリーです。 「僕は、間も無く死ぬ」 その言葉は自分でも驚くほどすんなりと口をついて出てきた。 春が始まろうとして、少し背伸びをしたような気がした。 早咲きの河津桜の花弁が1枚、さっと空を舞いながら落ちていった。 桜は散り際まで美しい。 半年程前、ふと思った。 僕は数年前、大腸癌を患った。 幸い、早期発見となり命には関わるようなものではなかったが、その後の定期検診で転移が見つかった。 見つかっては手術、また見つかり、

          唆散花(さざんか)

          灰色の世界で

          遠く離れたものは美しく見える。 俺の中で何かが歪んで腐る。 梅雨らしい雲の下、背丈いっぱいの大きな露を抱えた若葉が風もないのに少し揺れた。 僅かな窓から見える景色はそれくらいだった。 外は不気味な灰色をしている。 少し風が強くなってきた。 かといって、特に何もすることはなく、狭い部屋の中を行ったり来たりした後、壁に寄りかかる。 腰骨のあたりの僅かながらに露出した皮膚から壁伝いにひんやりとしたものを感じた。 先月、芸人を始めてから20年が経った。 18才で始めて

          灰色の世界で

          手品

          今年の冬は寒い。 いや、冬ならば寒いのは当たり前なのだが、今年の寒さは肌を刺すように痛む。 雪が轟々と降り積もる中、結露した窓をぼんやりと見つめた。 僕の父は手品師だ。 でも、その事を人前で言った事はない。 小さい頃まではたくさん手品を教えてもらった。 父が得意だったのは、自分が箱に入り、箱を閉じ、次に箱を開けると、中に父の姿はなく、別の場所から出てくると言う手品だ。   定番といえば定番かもしれないが、僕も初めて見た時は驚いた。 小さい頃は父が誇らしかった。

          封筒

          ガチャ… ネジの緩んだ蝶番が軋み、秋晴れの空気の中を波となって伝わる。 10月もまだ始まったばかりだというのに肌寒さを感じる。 今日という日は突然に現れた訳ではない。 小さい頃に母を亡くし、父親に男手一つで育てられてきた。 周りにはそう言っている。 はたから見ればいい父親かもしれない。 私はそうは思わない。 小学校1年生の時から父親と2人きりの生活だった。 母が亡くなるまでは楽しかった。 共働きだったが、小さいながらにも事情は理解し、寂しさも我慢した。 父親