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12/27

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手元のGショックに目をやると、時刻は22:41を示していた。上下防寒用のウィンドブレーカーに身を包んだ私は、日課のランニングのためにマンションを出た。胸元のアンダーアーマーのロゴは剥がれけている。無理もない。この服を着るようになったのは約4年前であるし、そもそも先輩からのお下がりでもある。冬になると相当な頻度で着用しているので当然の劣化であることは確かだ。中々代替品が見つからないので、今でもなお着続けている。
いつもの川沿いに出る。全長約3km、一周すると約6kmになるこの川は都会の中にありながら、落ち着きのあるこの街の魅力を象徴しているように思える。川沿い両端に等感覚で並んだ街灯を、一点透視図法の構図で眺めていると、なんだか吸い込まれそうな気持ちになる。まるで、鏡面を二枚対峙させた時の感覚のようである。不意に発生する無限ループにはある種の恐怖を感じることがある。無限、や永遠という人間のコントロールの範疇を簡単に家出できそうな膨大な概念は、常に向こう側からの一方通行だからであろうか。意思疎通が取れない諦めだろうか。そんなことを考えているうちに、NIKEのワークアウト管理アプリから、1km通過を告げる女性の声が鳴った。無限についてが頭を占領していた私には1kmなど遥かに小さな概念に感じられた。
ふと空を見上げる。紺色の背景に満月前夜の限りなく円に近い月が一つと、まばらな白い雲が塗の甘い塗り絵のように隙間をたくさん作って浮かんでいた。この夜の白い雲にも未だに違和感を感じることがある。私が18年間生活してきた山梨の山奥で夜の雲が白いと感じたことは何度あっただろうか。目を瞑ったときに瞼の裏側の色がわからないように、電気を消した部屋のカーテンの色が曖昧なように、白が白だと認識できるようになるためには、やはりそれ相応の明るさが必要なわけであり、それに足るだけの光がこの街にも存在しているようだ。改めて東京という街の異様な明るさに魅了された。昼夜を問わずはっきりとなぞることができる空の輪郭にもうしばらく慣れたくないと思った。
残すところ4km、4km/♾️を冗長な思考と共に走り抜ける。
明日は2023年最後の満月、別名"コールドムーン"が見られるそうだ。また同じ頃にここに戻って来たいと思ったところである。

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