ロンドンの広告代理店で働いた1年間 2月

ロンドン拠点の広告代理店に正社員として雇ってもらい、本格的に色々な案件に関わるようになったYMS後半の1年間。具体的にどんな仕事をしていたのかを1月から順に振り返ってみる。今回は2月。

2月 観光団体のセミナー運営、セールス同行
日本のとある地域の観光団体が、外国人観光客増加のために世界数カ国でプロモーションを計画。プロモーションの施策は大きく分けて、現地旅行会社を集めたセミナー開催と、現地旅行会社を訪問する営業同行の2つからなる。
この事業の座組は、まずそれら数カ国を管理する日本の大手代理店が主催者である観光団体から受注、その大手代理店から各国の現地広告代理店に再委託するという構成だ。弊社はロンドン会場の運営を担当することになった。
セミナー運営に関して難しいことは2つあった。1つは訪日ツアーを扱っているイギリスの旅行会社をノルマの数だけ集めること。なぜならこのセミナーの前週に東京都が小池都知事も講演する大々的な観光プロモーションイベントを実施するため、日本に興味ある旅行会社の大半はそちらに参加したら満足してしまう。2つ目は集客の惹きになる目新しい情報がないこと。なぜわざわざ旅行会社に足を運んでもらうに値するほどの情報量がないのにセミナーを開催するかというと、コロナ以前も同様のセミナーを開催していたからというのが実際の理由だ。効果的に予算を使ってプロモーションを行うことより、前年の仕様書に沿って予算を使うことが目的になっている典型的なお役所仕事だ。
セミナーの集客より過酷だったのが訪問営業のアポ取りだった。ロンドンではリモートワークが主流になっているため、事務所への訪問をなかなか受け付けてくれない。コロナが明けてから事務所をロンドン外に移した企業も多い。オンラインならOKしてくれる企業はいくつかあったが、事務所に訪問して対面で商談するというのが必須条件であったため、アポ取りは難航した。もちろん直接会って話すことの大切さは分かるが、先方がそこまで興味持ってくれていない状況でゴリ押しで対面に持ち込もうとするのは逆効果だと思う。
ただ、日本を旅行先として取り扱う英旅行会社は意外と多くあり、その中でも以前から弊社と付き合いのある企業も少なくない。そういった企業に片っ端から(半ば懇願に近い)招待を送ることでなんとかノルマの企業数は集客できた。過程で丁寧に断るイギリス人のメール文をたくさん読めたのは良い思い出。

案件を進める中で気になったことがある。日本側代理店の担当者がなんだか頼りない。主催である観光団体と現地にいる弊社の間に立ついわば伝言係なのだが、伝達事項に抜け漏れが多い。おそらく全体像を分かっていないから、主催が意図していることをこちら側に正しく伝えられていない。おかげで弊社側が二度手間になることが多かった。1度や2度なら気にしないが3度や4度続くと流石にイラついてくる。ちゃんと仕事しろよなと。
冬のロンドン。曇り続きの天気の下、1日中家でパソコン仕事をして、仕事が終わる頃にはもう日没。日光を一瞬も浴びれない日も少なくなく、鬱屈とした気分に拍車をかける。
クライアントだから丁寧に接するのは分かってはいるが、改善してもらわないとこちらもクオリティを保って仕事ができないから一度メールで直してほしいことを伝えた。
その後彼とオンラインでミーティングする機会があり、その時初めて顔を合わせて驚いた。新卒かと思うほど若くて、気の弱さが滲み出ている顔付きだった。実際新卒なのかもしれない。とても恐縮した表情で自分の不手際を謝罪してきて、その後もずっと弱々しく会議に参加していた。
数年前の自分を見ているようで苦しくなった。右も左も分からないのにいきなり海外案件任されたってうまくできないよな。会議に同席していた彼の上司も怖そうだし周りに聞ける人がいなかったんだよねきっと。毎晩遅くまで働いているのに上司から怒られて、下請けである僕からも突き上げられて、本当ごめんな。
その後、本番直前で判明した彼のミスにより主催者が怒って激詰されていた。
気の毒だが、こちらも被害を受けているので何もしてやれることはない。

主催者とはずっと間接的にやり取りしていたので本番までどんな人か分からず、勝手に堅物のイメージを持っていたが、会ってみると気さくで程よく力が抜けた接しやすい人だった。セミナーは無事に終了して、その後は三日間かけてロンドンの旅行会社への訪問営業の同行。自分としては英国企業とのミーティングはこれまでほとんどオンラインだったため、直接会って英語で商談するのは新鮮だった。オンラインなら影でAIツールを使えるが対面だとはそうはいかない。始まる前はビビっていたが、意外となんとかなったので自信もついた。
その三日間は珍しく晴れて、小春日和の気持ちの良い天気だった。
主催者とは移動中には一緒に食事もしてだいぶ打ち解けた仲になり、今度ロンドンに来た時は一緒にハンバーガーチェーン店であるFiveGuysに行きましょうと約束した。次年度予定している英国市場での案件も教えてもらい今後は直接依頼すると言ってくれたので弊社としては大成功だった。

数ヶ月後、新卒の彼の会社は不祥事が発覚して社長が辞任したというニュースを読んだ。彼が今何をやっているのかたまに気になる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?