月と太陽に挟まれて

風、ハンパない。超カゼ。

全く意味のない言葉を心の内でつぶやきながら頑張ってふよふよしてきたのです、青鳥(あおどり)です。完全防寒でおそとに出たことが救いなのです。もう一つの救いは、雲一つない空、ということ。だから寒いのですけれどもね。

そんな日だけれども、嬉しいこともあるのです。

進行方向の左手の低い空に薄い姿のお月さま。右手の高い位置にくっきり太陽。とっても贅沢なのです。首をかわるがわる振って一人で堪能し、遊んでいました。そんな青鳥を見た方々はさぞ気味悪かったと思います。が、それでもそんなことをしつつ歩くのです。そして、そんなことをして歩いているのは青鳥だけなのです。

皆さん、風と戦いつつ体を小さくしているみたいです。元気なのは子供たちくらい。何せハーフパンツに半袖の小学生を見ましたから。ただ疑問があるのは手袋をしっかり嵌めていたこと。雪山で使うくらいしっかりしたものを使用していましたが、気を遣うのはそこだろうか・・もっとあるよね! こう、布の面積の多い服を着るとか! 重ね着とか! ここ南国じゃないから! なのに手袋装着・・うーん、東京、奥深い。東京の小学生はアグレッシブなのかな? なかなか青鳥の深いところをくすぐってきます。どうしてあの子だけそんなアグレッシブな姿だったのだろう・・朝、とっても寒かっただろうに。お友達もちょっと薄着に見えるけれども、普通のこの時期の服装なのに。聞いてみたかったなあ。本当、気になる。というより心配になる。人のおうちの事だけれども、おうちはちゃんと機能しているのかな、なんて余計なことを考えてしまうのです。

けれど、信号待ちをしていたあの子はお友達と楽しそうに元気いっぱいに見えたから、大丈夫かな? そうならいいのだけれど。

月の方から轟音が響いて首を振ると、ひこうきが泳いでいました。ここからは月よりも高く泳ぐひこうきが見えます。いまならひこうきよりも低い位置にあるお月さまを機内から見られるのかー、贅沢だなあ、なんてちょっぴり羨ましかったり。

目的地に辿り着き、用事を済ませておそとへ。やっぱり寒い。さっきより寒い。太陽がさっきより低い位置にいます。お月さまが高い位置に昇っています。空の色も変わっています。儚い白が、くっきりとした輪郭を見せるお月さまになっているのです。太陽は今、最後の大仕事をしている最中で、それが終わるころには、もっとお月さまは冴えるのでしょう。

力を譲る太陽と、それを受けてくっきりするお月さま。今度は左手に沈む太陽、右手に昇るお月さまなのです。やはり首をフリフリ青鳥なのです。綺麗なものはずっと見ていたいのです。

ひこうきがまた泳いでいます。今度はお月さまよりも低い位置に。随分お月さまの位置が高くなっています。

寒さがきつくならないうちに、おうちへ帰りましょう。と、歩道に植わっている椿の木を見ながらふよふよしていたら、ある一本の椿の木が目に留まりました。その椿の木から50センチは離れていたでしょうか、一輪の椿の花が上向きに落ちていました。他にこんな落ち方をしている椿の花はありません。風に飛ばされたとは思えません。

きっと手折られてしまったのでしょう。徒された赤く艶やかな花びらは、とても瑞々しいのです。雨が降ればその水滴を弾くでしょう。萎れる、なんて想像も出来ないほど、今が盛りの椿の姿なのです。太陽と月の光をたっぷりと受けた一輪の椿は、冷たい地面の上であってもとても綺麗でした。

あの椿の花は、まもなく枯れるでしょう。美しい赤い花弁が色を失い、萎れ、寂しい姿を晒すでしょう。地面に落ちた段階で、もう誰にも見て貰えないのでしょう。

だからこそ、青鳥は見るのです。

そんな綺麗な時があの椿にもあったこと、青鳥は覚えていくのです。あの美しい赤い色を。


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