駆けて行く少女の両手は広げられて

本日は成人式、というわけで巷には着物、袴、スーツ姿の「新しい大人」のジャンルの方々が溢れているわけです。

綺麗な着物姿にホクホクした視線を向けると、なんか奇妙な振る舞いの新成人が歩いてきました。どこぞの御嬢さんがそれは素敵な振袖をお召しになっていらっしゃるのですが、その振る舞いが見ていられない。

長い袖の袂から襦袢をだらりとはみださせ、扱いに内心キレたのか袖も襦袢もかき寄せて胸元に抱きかかえてしまいました。

普段着物に袖を通さないのは承知していますが、それはあんまりだ。たしかに御嬢さんの行動は合理的ですが、美しくない。頼むから、着物の時は所作を綺麗にしておくれ、と青鳥(あおどり)は見送りました。

もう少し年齢を重ねたら、その行為が他人にどう見られるのか、という視点を持ってくれるのを願っていますよ。

他にも袴姿の一団や、スーツ姿のお兄さんたちがあちこちにたむろしていました。みんなその姿に馴染んでいなくて、どこか仮面舞踏会な雰囲気なのは毎年の光景です。最近の子たちは細い体躯が多いように感じられます。だから体にフィットしないのかな? まあ、袴もスーツもこの日の為に用意した人が大半だろうから、馴染まないのも当然ですが。

ちょっと用事を済ませてお家の近くを歩いてるとき、ここでも新成人のお兄さんがいらっしゃいました。

背の高いすらりとした体躯は同年代の女の子に人気だろうなあ、と思いました。顔も中々のイケメンなのです。あー、これはモテル、誰もがそう思うようなお兄さんです。

確かにモテていましたよ、妙齢のご婦人たちに。

囲んでいたのはご近所のきっと顔なじみのママさんたちと、お兄さんのお母様らしき女性でした。ご婦人方の途切れないマシンガントーク、そのテンション、流石無敵です。

その中でも御一人、お兄さんのお母様だと思われますが、嬉しそうにお話をされていらっしゃいました。お兄さんは所在なさげに「はあ」なんて相槌を打ちつつ、ちょっぴり心の距離と実際の距離をとっていました。

けれどね、お兄さん。あなたのお母様は嬉しくてそんなハイテンションなのですよ。本日成人式を迎え、立派な羽織袴姿の息子を自慢したくて仕方ないのですよ。おまけにイケメンだしね!

きっと周りを囲んでいらっしゃるママさんたちも、お兄さんの小さいころからの顔なじみの筈です。だからこそこちらもハイテンションの応酬になるのです。「あんなに小さかったのにねえ」の共通認識が出来上がっているからお兄さんはその場を逃げられません。

耐えろ、お兄さん。きっとすぐに終わる・・と、思うよ?

その場を後にして、目的を果たしに行こうと歩いていたら、少し遠くにピンクのセーターに黒のスカートにレギンス姿の幼稚園に満たないような女の子がこちらに背中を向けて立っていました。女の子の10メートル先、ぐらいでしょうか、男性がひとりキャッチャーのように座り込んで両手を広げて待っているのです。

女の子は走り出しました。女の子の持てる全ての力を総動員した躍動感のある走りです。両サイドに縛った長い髪が激しく揺れています。

女の子は両手を大きく広げて、その男性目指して駆けて行くのです。途中速度が遅くなったり、ちょっとよろけたりもしながら。

それでも両手は広げたまま、女の子は走るのです。

男性も、両手を広げたまま、待っているのです。

男性へ飛びついた少女の腕は首へしっかりと回され、男性の腕は少女の体を抱きかかえ、立ち上がり歩き始めました。

あの男性はきっと父親でしょう。可愛らしい娘さんに抱き着かれて嬉しいのかな?

お父さん、今のうちにいっぱい両手を広げておくといいですよ、そのうち無くなってしまいますから。娘さんの両手は、別の人を抱きしめるようになりますから。

娘さん、あなたの両手は、しっかりとお父様に大切にされているのですよ。

ふたりともたくさんの「ギュッ」をしてくださいね。

素敵な着物だけじゃないホクホク気分を味わった青鳥でした。

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