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ダメ人間


友達にオモチャをとられたあげく、顔をぶたれた。

わたしは、ただその場で泣いていた。


母が来て、事情を聞き、わたしに「やり返してもいい」と言った。

わたしは、「できない」と答えて泣きじゃくった。

泣きながら話すわたしに、母は少し微笑みながら溜め息をついた。

『自分がされて嫌なことを、人にはできない。例え自分がされたとしても』

みたいなことを母に言ったらしい。


らしいというのは、大きくなって母から聞いた話だから。
私は覚えていない。


私は、やられたらやり返す。


は、できない人間だ。


泣くか、逃げるかしてしまう。

ほんの僅かでも、自分に否がないか探してしまう。


いさかいがあると、ほんと遠くに行きたくなる。
自然に囲まれた人のいないところへ。

海の音を聞きながら、月を眺めていたい。




かけっこで、友達に勝って、悔しそうな顔を見るのが辛かった。
友達の笑顔が見られるなら、負けてもいいと思ったりもした。


もし、人全部に降り注ぐ悲しみの量が決まっているなら、

「自分が涙すれば、他の誰かが少しでも笑顔になれるかな?」って本気で思ったこともあった。


私は争えない。戦えない。


そんなんじゃ、だめだと言われる。




争うことも戦うことも人には必要なのだろうか。

「それが、人間だ。必要だ」と言われるなら、

戦うことが嫌で、ほんわりと手を繋ぐことを人に信じていた私は、きっとダメ人間だ。



でも、私は変われない。



………。



それでも、大人になって少しは強くなった。

戦う強さじゃないけど。


大切な人たちを抱きしめていたい。

ただ、それだけ。




その思いがあれば、


降り注ぐ悲しみを和らげる盾くらいには




なれるかな……
















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