2023年4月の記事一覧
「Arroganz」5話
5話/陽の輩 ノウェルズの住まいは地上を離れて三階、集合住宅の一室である。
外観は縦の長方形、外壁は街並みに馴染む白。窓枠を飾る彫り模様が洒落ていて、張り出たバルコニーの鉄柱と、住民が使用する階段のみが黒い。
扉の前に何者かが佇んでいた。黒の外套を着込み、長髪の毛先を肩で一つ結わえにした青年、ユゼリウスである。
「手紙、届けに来たぜ」
ユゼリウスは職人の徒弟として工房を間借りしていたが、
「Arroganz」4話
4話/夜へ 書斎の窓辺に立つカリヴァルドは、背中でノックの音を聞いた。硝子越しに映りこんだ扉が許しを待たずして開く。
入室してきたのは、カッツェ・ロートヒルデ子爵である。暖色系の派手な色で流行の型を着こなすのが彼流の主義で、今夜も黄色のジャケットを羽織っていた。笑顔が第一印象に残る朗らかな男で、カリヴァルドとは学生時代から付き合いがある。
青い火の灯る手燭をカッツェが差し出す。
「君に
「Arroganz」3話
3話/淫魔 カリヴァルドが馬車に乗り込み、遠ざかる車輪の響きが届いたか、リーベン邸内に横たえられたノウェルズは意識を取り戻す。寝台に肘を立てて半身を起こすと、視野の端に控えていた女中が介助しようと女の肩に触れた。
「結構です」
ノウェルズは生来の体質から身体的接触を嫌う。介添えを拒絶された客間女中は背筋を正すも、眼差しは変わらずに優しい。
「承知いたしました。クディッチ様のリボンはこちらに
「Arroganz」2話
2話/合議 柱時計が午後零時を指し、鐘の音が地を這う低さで鳴り響く。
革張りの肘掛け椅子、職人の手になる家具と調度品の数々。壁の柱は深みのある木肌に蜜が如くの艶を流し、長椅子や卓子の脚でさえ経年の光沢を走らせる。
全ては輝くシャンデリアの下。計算尽くしの設計、配置の織り成す美しさによって贅を凝らされた談話室は、入口から奥までを見通せる長方形型の造りをしている。塵ひとつなく整えられた絨毯に乗るの
「Arroganz」1話
あらすじ
厳寒の地、グライブに出現したのは氷の大樹、フリーレン。曇天を裂き、逆さに伸びる枝が地に触れたれば土地は滅ぶという。大樹の手がかりは五枚の石版、解読できるのは言語学者のみ。
災厄により二年の余命宣告を受けた吸血種達の元へ、隣国からの使者が訪れる。
主人公カリヴァルドは種族性管理を担う立場から賓客を遇し、彼の妹ノウェルズは言語学者として古語の解読を急ぐ。国の大事に足並みを揃える兄妹だったが、