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満たされれば満たされるほど (閑吟集39)

「思ひやる心は君に添いながら 何の残りて恋しかるらん」(閑吟集)

恋をしていないときよりも、
恋をしているときのほうが、
そしてその恋が幸運にして相思相愛ならばなおのこと、
その心は満たされているはずなのに、

欲しくても抱きしめてくれる人がいないときよりも、
体を交わらせる相手に恵まれているほうが、
そしてその情交がその度に燃え尽きてしまうほどならばなおのこと、
その体は満たされているはずなのに、

満たされれば満たされるほど、
欲しくなってしまうのが恋を知った心と体。
恋をすればだれもが欲深くなり、それを自分でも自覚しながら、
その欲深い自分をどこかけなげで愛おしくも思えてくる。

こんなにも満たされているというのに、
なんとまあ、自分の欲深いことだろうと。

「思ひやる心は君に添いながら 何の残りて恋しかるらん」(閑吟集)
あなたを想いやる気持ちはいつもあなたのおそばにいるのに、
まだ何がいったい足りないのかと思うのほど、あなたが恋しいのです。

そして
あなたがまだここまで満たされていない恋をしているならば、
その欲がなみなみと満たされるまでの道のりの先に、
さらにもっと深い欲が待っているのを楽しみにするとよい。

それまでの欲は
たりないものを満たすための欲で、
そこからの欲は、さらに深みを楽しむための欲。
満たされれば満たされるほど、欲深になり、

そんなふうに欲の深い女に、
男はもっと満たされる。

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