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二人を濡らした雨の行方 (宗安小歌集2)



「濡れぬ前こそ露をも厭へ 濡れて後には兎も角も」(宗安小歌集)

雨雲は必ず西から東へと動する。
つまり今降っている雨は明日になれば、東のある場所に降り、
東に想い人がいるならば、この雨が明日にはあなたのもとに届きその服を濡らし、西に想い人がいるならば、この雨はすでにあなたの髪を濡らしてきたのかと思えば、
一滴の雨にもなにかが宿っていると想えよう。

共に過ごすことが出来る日に雨が降ったならば、同じ空の雨の下にいる幸せもあるのだろうが、せっかく着飾った服も整えた髪も濡れ、雨を憎むことにもなるかもしれない。
しかし、二人で一つの傘に入ることも、雨宿りをして動けなくなることもあり、時に宿に避難しそこで情交に陥ることもあっても不思議ではない。

あわてて駆け込んだ部屋で濡れた服を脱ぎ捨てた時の開放感は、不思議と気持ちの良いものだろう。

いつもよりも湿気を含んだその服を脱ぎ捨てれば、自分がなんと重たくて、息苦しいものを身につけていたのだろうと思うはず。
そして服を脱ぎ捨てて想い人と裸で乾いたシーツに飛び込めば、今度は濡れるのは心。そんな時ならば、どんなに濡れても厭わない。

「濡れぬ前こそ露をも厭へ 濡れて後には兎も角も」(宗安小歌集)
外で雨に降られた時はあんなに濡れることを嫌がっていたのに、

情事になったなら濡れることをこんなにも喜んで。あなたはなんて、わがままな人だ。

そして、再び東西に別れ、翌日に東に降る雨は、
二人で濡らした昨日の雨の行方。

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