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人生のエッセイ第二話「祖父と発表会」

 今では私は人前で何かをすることにそこまで嫌を覚えていない。大学では軽音学部で人前でライブをしていたし、研究内容の発表をすることですら苦しいとは感じていないほどだ。しかし、幼少期の私は全く人前に出たいと思わないタイプの人間であった。それもタチが悪いのがみんなの前に出る前の準備段階、そこではやる気満々なのである。発表会では1番目立つ役をやりたい!などといい、ただ人前でやる段階で恥ずかしくてできない人間であった。保育園で運動会があった時も、おそらくダンスなどをしていたのだが、本番で恥ずかしくてできず、また障害物競争は父に腕を持ってもらいながら出ないとできなかったらしい。そんな意気地なしの私を象徴するようなエピソードがある。

 ある時保育園で歌の発表会があった。父が歌が好きな関係もあり練習段階では1番大きな声で歌っていた。先生にも「歌上手だね」と褒められたほどで、自信は満々であった。本番の日は土曜だったが、父と母は仕事が休めなかったため、祖父が大阪からわざわざ来て発表会を見てくれる予定であった。そして本番の日。そこで急に発表したくないという気持ちが持ち上がった。この感情を説明することは難しいが今でもその嫌な気持ちはありありと覚えている。頑張って回避しなければ死んでしまう...それくらいの気持ちであった。そこで事情を知らない祖父に「発表会は今日は年少さんだけ(当時年中)だから帰りたいから帰ろう」と提案した。祖父はいいよーと言って帰る流れにすることができた。帰り際他の先生が「アオくん、他の子はもう集まってるけど行かないの?」と言われたがその時も、いらないことを言うな!俺は帰るのだからと思い、忙ぎ家に帰った。完全犯罪成立である。しかし、夜には事情を知っている母がおり、こっぴどく叱られた。ただこの思い出は妙な成功体験として自分に残っている。

 その話を最近父にした。祖父を騙すことに成功した!という思い出であった。しかし父が「小さい子の嘘がわからないはずがない。絶対に嫌がるお前が無理矢理出ないでいいようにしてくれただけ」と言った。確かにそうである。自分は祖父の優しさに知らずに触れていた。

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