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君たちはどう生きるか

はい、観に行きました。
ネタバレしかない感想文になるので、ご注意願います。



§冒頭の火事のシーン

ここの描き方がすでに今までの「ジブリ作画」と明らかに違ったので、「なるほどね…」と思った。特に宮崎さんの描き方はエンタメとしての迫力シーンとして落とし込むところを崩して「主人公視点での恐怖心全振り」の作画で描いていた。多分千と千尋の神隠しの冒頭の両親がいきなり豚にされて右も左もわからず逃げ惑うシーンも、エンタメフィルター解除して千尋視点で描くとこういう風になるんだろうな…と思った。思えばジブリ作品全般通して「主人公視点でのシーン」ってないように思う。いつもはあくまでも俯瞰視点だよね。


§性癖の煮こごり

序盤で眞人が初対面であるナツコに手をつかまれて妊娠中の腹をさすらされてるシーンで「おい!!!!すでに何か出てるぞ!??!(歓喜)」ってなった。
「そこに反応するお前も同類だろ」と言われたらそれまでです。
でもあの艶めかしさは何!?特にあの手の動き!!フェチズムを感じないほうが無理では???初対面の男の子相手に初手で自分の妊娠の腹をさすらせる女現実にいたら怖すぎる。眞人の反応も相まって序盤からかっとばしてんな…と思ったし、この勢いのままでいくんだろうなという謎の期待もあった。
つわりシーンでナツコがお母さんの妹というのが発覚するところで本格的に「おいおいおいおい…」となる。家柄の血筋を重んじるところなら妻と死別するとその「妻の姉妹」を向かえたというのは当時珍しい話でもなかったそうだけども…。

§ファンタジーシーン

ファンタジーシーンは完全にエンタメとして楽しんで観てました。「死の島」モチーフのあの一連のシーンなんかは宮崎さんの死生観がゴリゴリ出てて面白かったし、積み木を重ねて世界を構築する後継がいないんだけど、やってくんない?血は濃い方がいいんだけど、という大叔父の無茶振りに「いややらんけど」と拒否されてファンタジー世界が崩れていく様はまあ色んな意味でわかりやすい描写ではある。

世界を作るための積み木を「穢れなきもの」と言わせてる辺り、宮崎さんって自分の世界を創作することを穢れのない、神聖なものとして思ってるのかなあ…と思った。個人的には欲も悪意も全部含めた積み木で積み重ねていった露悪的な「世界」という作品も、それ自体の善悪は置いておいてそれはそれで凄みがあって好きなんだけどね。

食欲旺盛で飢えたペリカンがファンタジー世界から解き放たれて現実世界にやってきたシーンも、あれが「スタジオジブリ内にいた、もしくはアニメーション世界にいた人材たち」のことなら、描写はホラー感あるけど見方を変えるとある意味希望でもあるんではないかな?同じ鳥でもインコはファンタジー世界だとあんなに残忍だったのに現実世界に来た途端に力を失って自分たちがよく知る可愛いインコちゃんになってたので、同じ鳥類でも生きるためには獰猛にもなる(言い換えれれば生きることに貪欲な)ペリカンとそうでないインコの対比なのかな?とも思ったり。そして自分たちで狩りすら出来ない黒い人たちはあの空間から出ることすら出来なかった…。

ああいう理不尽なファンタジー世界でキリコさんみたいな、主人公の味方をしてくれるナビゲーターポジションのキャラがいると、理不尽な世界だとしてもかなり見やすくなるな、と思ったので、宮崎さんはなんやかんや言いつつも食べられるように「エンタメ」の味付けをしてるんだな、と感じた。
あと個人的にキリコさんの部屋によそ行き用のおしゃれなワンピースが掛けてあったのが好き。

§「エンタメ」としての形

上の流れに続くけど、アオサギのキャラ付けや、眞人とアオサギのくちばしの穴を埋めるシーンの天丼ネタ、ヒミがなぜあの空間にいたのかという理由をちゃんと中盤で「幼少期に神隠しに合っていた」という伏線を張っている様子(ご丁寧にシルエットまで出してくれているのでわかりやすい)、緊張の潜入シーンの演出を見て、一見好き放題しているように見えて描きたいシーンだけの書きなぐりではなくちゃんと「エンタメ」としての形にしているんだと思った。無意識なのか意識的なのかは分からないけれど、そのバランス感覚の良さが宮崎駿の持ち味だと個人的には思う。

§唯一なかったもの

個人的に観ていて「今回はないのか」と思ったのが、いわゆる「ジブリ飯」シーン。
「生きることは食べること」ということで毎度こっちの食欲をそそる食事シーンを入れるのがジブリ作品の十八番ともいえるところだと思うんだけど、この作品にはなかったように思う。
現実の戦時中の世界では食べるものがないので質素な食事(しかも何を食べてるのかが分からないような演出)だし、キリコさんのシチューとパンは美味しそうではあるけど、「美味しそうに見せる演出」はなかった。逆に印象強いのはジャムパンのシーンだけど、あれを見て美味しそうかと言われると、あのやり過ぎなくらいのドロドロのジャムの作画がどっちかというと沼とか、それこそお母さんの姿をした水がドロドロに溶けていくあの水っぽい作画と似てて、食欲をそそるような描き方ではないと思う。し、多分意図的にやってそうだと思った。

§ジャムバタートースト

バターとジャムがたっぷりのったトーストを食べた時の反応が「懐かしい味」なのが眞人のお坊ちゃんぷりが出てる。
眞人に限らずだけどジブリの戦時中のキャラって何気に裕福な環境のパターンしかないよね。火垂るの墓の節子が食べたいものに挙げたのが「天ぷらにな、おつくりにな、ところ天。アイスクリーム」なのもそうだし、風立ちぬの堀越二郎もいい所のボンボン。

同じ年代なら「この世界の片隅に」のすずさんは「アイスクリーム描いてほしい」と言われて「あいすくりいむ…??うえはー…???(って何?)」という反応なのが対比としてわかりやすい。

甘いあんパン、クリームパン、ジャムパンは大正時代から一気に人気に火が付いた菓子パンだけど、お母さんの思い出の味ってことはジャムを手作りしてたんじゃないかなって推測した。

劇中の年代が1945年で、おそらく眞人の年齢は12,13歳くらい?本にお母さんからのメッセージが書かれていたのが昭和12年、つまり1937年だから、だいたいそのくらいかそれ以前頃に「思い出のジャムバタートースト」を食べていたと仮定して、1936年の砂糖の価格が現代換算で約1,140円、さらにそこに現代でもお高くてなかなか手の出せない果物やバターの価格も乗ってくるわけだから、「思い出のジャムバタートースト」がどんだけやばいブツなのかがわかる。

§眞人少年

眞人少年のビジュアル、単純に好みです。
ジブリ作画の少年の謎の色気はなんなんだろう。
どアップになるたびに「まつげバシバシだね…」って思ってた。
そっちの方面のフェチズムを作画から感じる。
お母さんを思い出すときの目に涙がたまっていく様子が特に好き。

眞人はもののけ姫のアシタカとゲド戦記のアレンを足して2で割ったような性格みたいだなって見てて思った。
自分の父と継母のキスシーン見て察して音を立てずに部屋に戻る賢さ、豪胆で弓を自作するしお手伝いさんをたばこで買収する悪知恵(たくましさ)もあるが年相応の好奇心旺盛さと臆病さもある、親の愛を求めるもろさもある。
絶妙な味付けのキャラでジブリ作品の中でもかなり好きなキャラクターになりました。

§謎多きナツコ

ナツコ側の心情が一切描かれないので謎の部分が多い。
ナツコの激しい感情がようやく見えるのは産屋で眞人に「あんたなんか大嫌い!!」と叫んだ時。
なかなか自分に心を開いてくれないし、問題行動ばかり起こす眞人に次第に病んでいったというのはわかる…?かな?でも初対面で妊娠の腹に手を当てさせるのはキモイし、そもそも正直年ごろの男の子がすぐに年上の女性と馴染むわけなんてないし、臨月で色々しんどい時期にしたって眞人に当たるのは理不尽では…?って思う。

そもそもナツコは初対面の時にすでにわかるほど腹が大きくなり、臨月も近いみたいな描写があったので妊娠7.8か月くらいだと思うんだけど、そうなると時系列がおかしくならない?
眞人の語りで「戦争が始まって3年目に母が死に、4年目に父と東京を離れた」というナレーションが入るのだけど、具体的にはサイパン陥落からの空襲激化で1944年11月24日から東京の本格的な空襲が始まる。お父さんがサイパンの陥落に言及しているので、サイパン陥落後なのは確定。空襲での火事なのかははっきり言及はないので確実かは微妙だけど、冒頭の火事のシーンでも厚手の長袖の服装をしてたから多分時期は秋ごろであってると思う。(その後街中を戦車が通るシーンではみんなマフラーにコートだったので冬なのがわかる)そして眞人が疎開した作中の季節は新緑の季節なので1945年5月ごろ。だとすると、お母さんが亡くなってから疎開するまでの期間が約5,6か月で、お母さんが亡くなってから疎開先で出会ったナツコがすでに妊娠7.8か月目…?

お父さんとナツコ、いつそういう関係になったの…?

って考えると眞人が心を開かないのは当然じゃないの?って思っちゃうんだけどどうなんですかね…。
父と継母のキスシーンでそっと退場する察しのよさを持ってるんだから、そういうことに眞人が気づかないとも思えないし。
あの妊娠中の腹を撫でさせられた時の眞人の顔が分かりやすく動揺、からの俯いて帽子で表情が見えなくなる、そして口は固く結ばれる、という流れから、眞人が少なくとも「やった!僕にも兄弟ができるんだ!」みたいなポジティブな印象を抱いてるわけではない、というのがわかるし。
そもそも冒頭で「眞人に妊娠中の腹を撫でさせるシーン」を生々しく差し込んできた時点で「今までは意識的につけていたであろう子供向けアニメのフィルターを取っ払ってるな」と思ったので、そういう意味もあってもおかしくはないと思ってる。

そう考えるとナツコの捜索シーンで、キリコさんが眞人を引き止める際に「坊ちゃんだってナツコさんが居なくなった方がいいと思ってるんでしょ!?」と言ったのも、なんとなく辻褄は合っちゃうんですよね。
なんでナツコを探してるの?と聞かれた時も徹底して「父さんの好きな人だから」って回答だしね。

あともっと不可解なのはナツコと眞人が疎開先の家に着いた時、お手伝いのおばあさんたちが「本当に奥様によく似ている…」「何か間違いが起こらないといいけど…」みたいな反応だったところ。
ん?ヒサコとナツコは実の姉妹だよね?
ここの家はヒサコ、ナツコの家で長い間お婆さんたちはおつかえしてるんでしょ?
だからヒサコの幼少期の神隠しの話も出来たわけでしょ?
あの家でずっと一緒に暮らしているにしてはお手伝いさんたちとナツコの距離感なんかおかしくない?よそよそしくない?

ナツコ側の事情が一切書かれてないので妄想するしかないんですけど、少なくとも健全ですくすく育ったような家庭環境ではなさそうなんですよね。
そう考えるとナツコが「帰りたくない!!」って拒んでいたというのもわかる…のかな?
ナツコ捜索シーンで眞人が「ナツコさんも行きたくて行ったんじゃないと思う」と言ってたけど、眞人もナツコの事情をある程度知ってたんじゃないのかな…と思うんですよね。

一応あっちの世界のシーンでヒミとナツコが最後に話してるシーンがあるし、ヒミもナツコを妹として認識してて妹のために石の主に上告するくらい大事にしてる、というのは分かるので、姉妹間の関係は悪いわけではなさそう…?
でもそう考えると冒頭のナツコの「眞人が赤ちゃんの頃に一度だけ会ってる」ってのもよく分からないんだよね。仲良い姉妹で10年間以上もの間、お互いの家族と合わない、ってどういうこと?うちにもいとこいるけど毎年正月かお盆とか彼岸には顔合わせてるし、由緒正しい家なら尚更そういう顔合わせもきちんとやりそうなのに。

うーん、謎が多すぎる…。本題とは逸れちゃうから省いたんだろうけど、気になる…。


§眞人の生きる選択をした世界

個人的に一番うわっ!???ってなったのが眞人が産屋でナツコと再開するシーン。

ナツコのブチ切れを受けて眞人が「ナツコお母さん!!」という呼び方に変わったのがちょっと、いやかなり怖かったんだけど。
もっと詳しく分けると、最初はお母さんそっくりの姿で「お前なんか大嫌いだ!!」と言われて、「まるでお母さんに嫌いだと言われたようなショックを受ける眞人」が「お母さん!!」と叫ぶ。
その後に紙が眞人の顔に張り付き、視界が遮断され、闇雲の中で紙を引き剥がしながら「お母さん!!」から「ナツコお母さん!!!」と呼び方が変化する。

ここをナツコと眞人が分かり合えたシーンとして見てる人が多い印象だけど、自分はどっちかというと完全にヒステリー起こした母親を宥めるために「お母さんが一番欲しい言葉をあげる」子供の図にしか見えなかったよ…?

実際ナツコは「ナツコお母さん」の言葉で正気に戻るしね。
しかも「ナツコお母さん」って純粋なお母さん呼びじゃないところにうっすら闇を感じてしまうんですが…。

眞人、それちゃんと本心で言ってる?
大人のために、もっと言うと自分の居場所を守るために都合のいい言葉を投げかけてあげるヤングケアラーになってない?

って思ってしまった。

題名が「君たちはどう生きるか」で、作風全般も「自分の示したいものを好きなように描いている」って感じだけど、当の主人公である眞人は「機能不全の家族の間を取り持つ、やたらと聞き分けと物分かりのいい、半ば無理矢理にでも大人にならなければ生きられなかった子供」のように感じた。
眞人がアクティブに動くときって父親やナツコさんがいない所でだし、そういうやんちゃな面はむしろお手伝いさんたちのほうが知っているっていう。
個人的にはアオサギとどつき漫才してる時のクソガキの眞人のほうが好きなので余計そう思う。

火垂るの墓の清太は親戚のおばさんと迎合することを拒んで妹と2人で理想の世界で生きようとした結果、孤立して妹と共に死んでしまったという結末になったけど、そう考えると眞人は反対に生きるために(おそらく)お母さんを裏切った継母と父と一緒に暮らす方を選択した、という風にもとれるんではないかな…と思うとラストの家族がそろうシーンでも微妙な気持ちになってしまった。

逆に言えばそういう世界でも逃げずに生きていく、というのが眞人の決断なんだろうね。
眞人…たくさん友達作って楽しい思い出もたくさん作ってその世界でも幸せに生きなよ…というどこから目線?みたいな気持ちになった。


以上自分が2回君どうを鑑賞した感想になります。
お粗末さまでした。

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