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【短編小説】言葉裏の真意を僕はまだ知らなかった

まだ寒さが残る2月の終わりのころ。

受験も落ち着き、いつものようにクラスメイト8人で集まって、特段意味もなく放課後の時間を教室で過ごしていた。

「おい、今だ!行くぞ!」

私たちは先生の目を盗み、ささっと校門まで走っていきピザの出前を受け取った。

「危なかったなぁ~、高橋先生と目合いそうになったわ。」

そんな微かなスリルを味わいながら、片一方で推薦組は冷や汗を垂らしながら高校最後の生活を精一杯楽しんでいた。

想い出話に熱くなり、体育祭がどうだったとか、文化祭で誰がつまみ食いしてただの、もうすぐ離れ離れになるのがなんとも惜しい。

8人のうち4人は都心から地方へ行くことになっている。私もそのうちの一人だ。

「なぁ、智之。お前んちの母さん、寂しがったりしてるか?」

安田がふと問いかけた。

私の家ではそんな話をすることがなく、まわりの家庭ではどんな話をしているか気になった。

「めっちゃ寂しがってる笑」

智之が答えた。

ーーやっぱそういうもんなのか。けどうちのオカンはそんな素振り一切見せないなー。

気づけば18時になり、すっかり日も沈みかけて冷たい風がわずかに開いていた窓からヒューヒュー音を立ててカーテンを揺らした。

「帰るか!」

私たちはマフラーを巻いて、帰る準備をした。

「ただいまー」

私が帰るとオカンは晩ごはんの準備をしていた。

手洗いうがいを済ませ部屋着に着替えた私は、ふと尋ねてみた。

「智之ん家、実家出ることをお母さんがすごい寂しがってるみたい。うちは寂しくないの?」

寂しさなんて感じてないだろうなと、いつもの様子から期待通りの回答が返ってくるだろうと予想していた私は「そうだろうなー」くらいにしか思っていなかった。

「全然。」

ーーやっぱり。

私は、はぁっとため息をつこうとしたその時だった。

「だってあなたの幸せが私たちの幸せだから。あなたが幸せに大学生活を送ることができるのであればどこにいたって全然寂しくないわよ。」

予想に反しすぎた回答は私の涙腺を危うく崩壊しかけた。

さっと方向展開をして、潤んだ目元を見られないようにうつむいたまま、平静を装いながら、

「へぇー」

と言葉を残し自分の部屋に駆け込んだ。

部屋に入ると急に寂しさに襲われた。

ーーホントにこの家を出て行くんだ、、、。みんなにも会えなくなるんだ。

あんなに期待に胸を踊らせていたのにこの日だけは静かに涙を流した。

翌日にはすっかり立ち直り、またいつものように学校に行くのであった。

ーーーーー

大学出発の日。

私が旅立った後、母は号泣していたらしい。

おわり。

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