見出し画像

人と違うことをしたい凡人

どういうわけか、僕は昔から、人と違うことがしたいと思っていた。

それは日々の生活でもそうだし、例えば、小学校時代の作文でもそうだ。


先日、久々に帰省し、実家に置いてある昔の思い出の品を眺めていたときのこと。

小学5年生のときの文集が出てきたので、表紙をめくってみた。

最初のページに目次があって、約40人のクラスの生徒たちの作文のタイトルがずらっと並んでいた。

クラスメート達が皆似たようなタイトルをつけている中、僕だけは少し変わったタイトルをつけていた。

クラスの皆がつけていたタイトルは『5年生の1年間を振り返って』とか『5年生になってから』とかそういう類のもので、それに対し僕のタイトルは『笑われた文化祭』だった。

僕のタイトルだけ、突出して目立っていた。
それを見て、ふと懐かしくなった。
そういえば僕は小学生時代から、作文でもなんでも、創作物が他の人と重ならないように、ということをいつも考えていたな。

隣に嫁がいたので、僕はその文集の目次を嫁に見せて、少し得意げに言った。
「これ、自分が5年生のときに書いた『笑われた文化祭』ってさ、なんてことないタイトルだけど、意外とオリジナリティあるよね。他の人たちのタイトルはみんな一緒で、面白くないもん」

すると、嫁はこう言った。
「え、それ他の人のじゃん」

ん?僕は耳を疑い、嫁に聞き返した。
「ん?どゆこと?」

嫁は、冷静に答えた。
「いや、その『笑われた文化祭』ってタイトルの作文、他の人のやつじゃん。その人の名前、キミと同じ苗字だけど、下の名前違うじゃん」

いやそんなアホなと思いながら文集の目次をもう一度よく見ると、嫁の言う通り、『笑われた文化祭』は僕のタイトルではなく、他の人のものだった。
小学校5年生のとき、僕と同じ苗字の人が、クラスに一人いたのだ。そのタイトルは、その子が書いたものだった。

追い討ちをかけるように嫁は言う。
「キミの作文のタイトル、『5年生を振り返って』じゃん。皆と一緒じゃん」

たしかによく見れば、僕のタイトルは『笑われた文化祭』のすぐ横にある、『5年生を振り返って』という一番無難でオーソドックスなものだった。
僕はさっきの得意げだった自分が恥ずかしくなって、そのまま固まってしまった。

僕は幼い頃から人と違うことをしたいと思っていたはずだったが、なんてことはない、普通のタイトルをつけて普通の作文を書く、普通の少年だったようだ。

結局、恥ずかしさのあまり、その作文の中身は読まずに文集を閉じた。


おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?