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出席番号20番の苗字に生まれたかった〜出席番号1番人間の夢〜

あなたには、トップランナーの苦悩がわかるだろうか。

烏合の衆に追いかけられながら、常に先頭をひた走る孤独。

道なき道を、光を求めて、がむしゃらに前に進み続ける恐怖。

あなたには理解できるだろうか。


あたかも壮大な話かのように書き出してみたが、なんてことはない、これは、ただの出席番号の話。

僕は、小学校、中学校、高校、どのステージにおいても、出席番号が1番だった。


僕の座席は、いつも一番左前。

教室という大海の左奥にポツンと浮かぶ陸の孤島。それが僕の定位置だった。


高校を卒業してからも、大学や会社でも、出席番号は1番だった。

大学や会社では正確には出席番号という概念は存在しないが、入学時や入社時をはじめ、名前順に席に座らされる、名前順に呼ばれる、名前順に自己紹介させられるという場面は、大人になっても確かに存在するのだ。

そんなとき、僕はいつも「やれやれ、また1番か」とため息をつくのである。


たった一度だけ、小学5年生のときに出席番号が2番になったことがあったが、それを除くと、笑ってしまうくらい、毎回毎回、出席番号1番だった。

そんな「1番」に関して実績十分の僕に敬意を表し、以後「ミスターナンバーワン」と呼んでもらっても差し支えない。


僕は、出席番号1番がずっと嫌だった。

出席番号20番ぐらいだったらどんなによかったか、と何度も思った。

生まれ変われるなら、ナ行かハ行の苗字に生まれ変わりたかった。

中田とか、広瀬とか。

だって、出席番号20番付近の人たちって、いつも楽しそうなのだ。

もし僕が中田や広瀬だったら、もし出席番号20番ぐらいだったら、教室では、前にも後ろにも、そして右にも左にも仲間がいて、新学期からワイワイガヤガヤやれたことだったろう。

クラスの雰囲気を作るのは、教室の真ん中でワイワイガヤガヤやっている、彼らなのだ。


出席番号1番が嫌だった理由として、「何をやるにもトップバッター」ということが挙げられる。

新しいクラスで自己紹介タイムとなると、出席番号1番人間は、当然一番手となる。

自己紹介となると、僕は持ち前のサービス精神で、聞き手を楽しませてやろうと、なにか面白いことの一つでも言ってやろうと意気込むのだが、よく空回りしていた。

爪痕を残すどころか汚点を残して、教壇からトボトボと陸の孤島に戻るのだ。

そして、いつもこう思っていた。

僕が出席番号20番だったら、もっとウケる自己紹介をできたのに。

なぜトップバッターである自分の自己紹介がウケにくいのか、僕の中では一つ仮説があった。

最初から変化球を投げられると、人は戸惑うのだ。

最初のうちは、みんな笑う準備ができていないのだ。

ある程度普通の自己紹介が続いて流れができてきて、「今回のみんなの自己紹介はこんなもんかな」と慣れてきたときに突然変わった自己紹介をブッこまれると、笑いが起きやすい。

つまり、緩急が重要なわけで、トップバッターに緩急の「急」は求められていない。

出席番号1番の奴がフルスロットルで変化球に全振りしてきたら、笑いが起きるどころか、引かれてしまうだけなのだ。

一番手に求められていることは、無難さや、その後に続く人たちのお手本となることである。

まあこんな仮説を組み立ててみても、自己紹介でウケなかったことは自分の力不足以外の何物でもないのだが、いずれにせよ、「人と違うことをしたい」と子どもの頃から思っていた僕は、一番手として後続者たちのお手本扱いになることが、とても嫌だった。


さらに、小学校時代の身体測定も嫌な思い出の一つだ。

身体測定も、例に漏れず名前順である。

僕の小学校では、身長・体重・その他諸々を、保険の先生が大きい声で読み上げることが通例だったため、後列の人たちにもそれらの情報が全て丸聞こえとなってしまう、地獄の仕組みがあった。

「おれの個人情報、クラス全員にダダ漏れやん」と悲しい気持ちになり、「出席番号1番じゃなけりゃ、こんな思いをせずに済んだのに」と健康診断の度に思っていた。


そんな悲哀に満ちた出席番号1番人間にも、たった一つだけ、良いことがある。

それは、名前と顔を覚えてもらいやすいということだ。

出席番号1番人間は、何かにつけて、とにかく一番前にいるので、みんなの目に入りやすく、覚えてもらいやすいのだ。先生からも、同級生からも。

だから、出席番号1番人間は、何をせずとも、初めから一定の存在感がある。

皆さんも、小学校時代、中学校時代のクラスの出席番号1番の人の名前と顔を、なんとなく思い出せるのではないだろうか。

少なくとも、出席番号10番の人よりは、思い出せるはずだ。

僕は、小・中・高どれも、先生ウケがかなり良かったのだが、それは一番目に覚えてもらった生徒だから、スタートが既に有利だったのかもしれないなと思っている。


まあ、出席番号1番にそんなアドバンテージがあったとて、出席番号20番の誘惑には敵わない。

だから僕は、生まれ変わるなら、中田シロになりたい。

いや、中田シロは、見ようによってはちょっと下ネタっぽくなってしまい、危ういか。

中田シロでは、多感な思春期を乗り越えられるかどうかわからない。

決めた。生まれ変わるなら、広瀬シロがいい。

来世では、僕は広瀬シロになれますように。


みなさんは、出席番号何番人間ですか。

憧れていた出席番号はありましたか。


おわり

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