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Evraak ~2024.05.11 Tokyo Doom Fest Vol.1ライブレポ~

今、日本のインディ・プログレシーンがアツい。コロナ禍で制限されていた有人ライブが解禁されていき、次々に実力あるアーティストが発掘されていくと、プログレシーンは、特にここ日本ではまだ「死んで」はいないと実感する。その中でも最も勢いがあるバンドの一つがEvraakだ。実際、2023年の不思議ロックフェスVol.2でトップバッターだったEvraakは、ライブで聴いて一発でノックアウトされてしまった。もしこの後に演奏されたのがCrescent Lamentや曇ヶ原じゃなければ、もうEvraakしか記憶に残っていなかったかも知れない。

※2023年不思議ロックフェスのレポはこちら

5/11の両国SUNRIZEのTokyo Doom Festで初めてEvraakを知った方もおられると思うので、バンドの紹介に軽く触れておく。


◆Evraakの紹介

Evraak(イヴラーク)のメンバー構成は6名で、結成当初から現在まで変わっていない。
・瀬尾 マリナ (Voice and Performance)
・菅野 ハヤヲ (Guitar and Composer)
・川嶋 弘治 (Bass and Composer)
・吉田 タケシ (Drums)
・長谷川 ミキ (Piano and Synthesizer)
・今川 天國 (Saxophone) ※1stアルバム発売時点でのクレジット表記はテナー万太郎

2018年に中学以来の付き合いである川嶋さんからハヤヲさんへプログレバンド結成の話が持ち掛けられ、そこに二人の知人であるBill Brufordファンであるドラムのヨシダさんが加わった。バンド名の由来は、アトラスというPCゲーム中に存在する幻のレア・アイテムである聖牛「イヴラークの骨」に由来するらしい。
※Youtubeに解説動画あり
Evraak - Sacrifice 【MusicVideo】 2019

その後King Crimsonファンである瀬尾さんがVoとして加わり、Saxにプロ奏者の今川さんが加入、瀬尾さんとSchiffというインプロユニットを組んでいるRadioheadファンであるKeyの長谷川さんが加入し、現在の6名体制となった。

https://note.com/marinaseoxxx/n/n93b7ead51d34
最近になって偶然瀬尾さんのこちらのNoteの記事を見つけたのだが、この日の2019年2月の瀬尾さんのバースデー・イベントでの出演が、Evraakとしてのデビューライブであったようだ。
その後2019年8月にSacrificeを収録したデモ音源を発表、2020年2月に「EP I」を発売。その後、「EP II」制作予定をフルアルバム制作に切り替え、2021年11月に1st Album「Evraak I」をリリース。2021年12月の那由他計画との合同レコ発ライブを収めたライブBD「Evraak LIVE 2021.12.05」を2022年3月にリリース。
不思議音楽館が主催する「不思議ロックフェスティバル」には2022年の実質Vol.0回である「不思議音楽館フェス」から参加の常連であり、幅広いプログレ・ファン層から支持を得ている。
現在は来るべき2ndアルバムの2024年内リリースに向けて、新曲もライブで披露されつつある。

Evraakの結成当初から現在までのもっと詳細な紹介は、「不思議音楽館 Vol.6」にて、ハヤヲさん自身の文章とメンバーへのインタビュー含め5ページにわたって特集されている。ハヤヲさんの書く文章も大変素晴らしく読み応えがあるので、もし正規ルートで手に入れる機会があれば是非本誌も手に取ってご覧いただきたい。

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◆2024.05.11 Tokyo Doom Fest Vol.1 ライブレポ

セットリスト

☆:アルバム未収録曲

・Fata Morgana ☆
・Sanctuary ☆
・Asylum Piece
・Sacrifice
・Saethi

さて、そんなEvraakが、世界各国にオーロラが降り注ぐ特異な夜2024年5月11日にどんな音楽を届けてくれたのか、ここに記したいと思う。
筆者は当日体調を崩していたため、Evraakの出番の少し前に両国SUNRIZEに到着。そんなに客入りしないのではと油断していたが、予想以上の客入りの大盛況ぶりだ。土地柄なのか生粋のDoomファンなのか、外国人ファンや女性客も多く、まさにEvraakでもっとアピールしたいファン層が多いライブだったことも幸いかと思う。

Evraakが演奏する前には会場客BGMでKing Crimsonの「赤い悪夢、再び」が流れていたが、この雰囲気で聴くとなんだかとてもメタリックに聴こえる。ステージの転換中はスクリーンで会場と遮られているのだが、こういう仕組みだとライブが始まる前の音出しも聴けるので楽しい。コーラスワークのインプロっぽいものや、KCのフレーズを聴くことができた。
そしていよいよ会場の幕が上がり、アルバム未収録のFata Morganaが演奏される。いつも以上に分厚い音圧、ヘヴィなギターリフとベースラインの音色。これまでのライブよりもだいぶDoom寄りにチューニングしていたように感じた。とても温かでノリのいい客の雰囲気も相まって、皆が自然と身体を揺らし、軽くヘドバンする。前から薄々思っていたが、やはりメタル系のファンのほうが親和性が高いかも知れない。
そして続けて2曲目は、昨年の不思議ロックフェスから初披露された新曲・Sanctuary。少しオルタナを思わせるヘヴィなユニゾンリフがまさにDoomフェスにぴったりだ。中間部の瀬尾さんのソプラノパートは美しく妖しく、ハヤヲさんとヨシダさん二人のコーラスワークとの掛け合いはどこか教会音楽のような神秘性がある。
そしてどんどん凶悪になっていく楽曲に比例し、瀬尾さんはシャウトやグロウルで狂気を表現しつつも、時々ソプラノボイスも混ぜるという切り替えがとにかく器用で凄い。そして終盤部にはEvraakではプログレ楽曲では珍しい語りが入っているのだが、これが見事にカチッとハマっている。瀬尾さんは2024年2月に「天使の聲」というJ・Aシーザーの国境巡礼歌を再現するプロジェクトにも、歌と少し演技で参加されていた。その経験が活きているからか、より語りにシアトリカルに命が吹き込まれているように感じた。

ほんの2曲の演奏で完全に焦土へと焼き尽くしてしまった会場を、ハヤヲさんが明るいMCで和ませると、「サイコー!」と会場からも歓声が上がる。おそらく外国人勢であろう観客から「イヴ・ラーク!イヴ・ラーク!」コールが上がったのは面白かった。これは以降のライブや不思議フェスでも是非やってみたい。
長谷川さんの静かなピアノソロと瀬尾さんの優しいソプラノボイスからAsylum Pieceが演奏されると、一気にプログレの空気へ。AreaっぽいメロディがKeyで奏でられると一気に東欧の市場に足を踏み入れたような雰囲気に変わり、この熱量とお祭り感はまさにフェスにぴったりの楽曲だ。この楽曲のように時折東欧の風を感じるメロディは、Evraakの大きな特色だ。わかりやすくAreaを引用したが、正確にはAreaへのオマージュというわけではなく、ハヤヲさんが中学の頃に吹奏楽部でアルメニアン・ダンスに触れ、以降アルメニア音楽に傾倒した原点が活きている。そして、ドラマチックな展開を迎え、熱量を増していくヨシダさんのドラミング。「千の巨人を待つ人よ 天に遍く星たちよ」のあたりからの、表拍と裏拍が裏返るドラムフレーズが個人的に好きなのだが、高いテンションのままバッチリと決めてきた。

続いてEvraak結成初期に作られたというSacrificeは、12分にもわたる、暗黒ヘヴィネスと切ないメロディアスさの両方を持つプログレ曲だ。今日の演奏は、これまでになく更に緊張感が増していて凄みがあった。今川さんは今日はずっとサックス一本吹きかと思っていが、エアロフォンで二胡の音色を情緒豊かに奏でる。
スタジオ盤では引っ込んだミックスだったり、ステージでもライトの当たらない後方に立っていたりとリーダーながらも控えめなギタリストのハヤヲさんだが、ここぞと前に出て来て披露したギターソロが、なんともエモーショナルで素晴らしい。そしてギターを高く掲げてお辞儀をした後、今川さんへサックスソロが引き継がれた場面は音楽への敬意とメンバーへの信頼を感じ、グッと来た。ここは個人的に本日のライブのハイライトだ。

そして、唯一のDoom曲とのハヤヲさんの紹介の後、ライブの締めは1stアルバムの第一曲目であるSaethiへ。いきなり冒頭からグロウルを披露する瀬尾さん。全曲歌詞は瀬尾さんが書かれているのだが、このSaethiは全編オリジナルの言語で歌われており、一層呪術めいた世界観を表現している。表現の幅を広げた瀬尾さんは、グロウルやシャウトからワンフレーズの間にソプラノボイスへと瞬時に切り替え、悪魔に取りつかれている少女を表現しているかのようだ。ヨシダさんはマレットにスティックを持ち替え、瀬尾さんのボーカルに遠慮することなく容赦なく力強くタムを叩きつける。これも今回のライブでの新境地だ。
そして緊張感が最高潮に達した後、ホイッスルシャウトで咆哮する瀬尾さん。女性ボーカルの「美しく、可憐で、清らかで・・・」といった固定概念を完全にぶち壊し、一人で狂気や人ではない何かまで表現しきってしまう。

大盛況でライブは終了。「名前だけでも覚えて帰ってください」とハヤヲさんは言ったが、きっとプログレファンだけでなくドゥームメタルファンも忘れるはずがない。メンバーが挨拶を終えて会場のスクリーンが下りきるまで拍手が鳴りやまない、大盛況のライブであった。

本日のベストアクトは間違いなく女性ボーカルの固定概念をぶち壊し表現力の幅を振り切った瀬尾さんであるが、個人的にはヨシダさんもベストアクトにあげたい。これまでのライブでは、常に目線は川嶋さんなど他メンバーを見ていて、冷静に周りに合わせる縁の下というイメージだったが、今回のライブではVoが歌っていても音量MAXで叩いたり、ドラムからテンポを前へ引っ張っていくような流れを作っていたりと、「安定して成熟した演奏のEvraak」というイメージの殻を破るのに貢献したと思う。

Evraakの音楽性が持つヘヴィネスや重厚さに着目して今回のTokyo Doomフェスに呼んだ方は、本当に先見の明があると思う。プログレ界の未来を担う重要なバンドではあるが、プログレファンだけのものにしておくのは惜しいと以前から思っていたので、多くのドゥームファンから注目を浴びるようになったのが嬉しい。Evraakには、年齢層も性別も国籍も普段聴いている音楽のジャンルも、境界を越えて多くの人の心を掴む力があると思う。

今後のライブだが、早速5月18日に早稲田Rinenで観ることができる。しかし、この日すでに予定が入ってしまって行けないという方も、8月24日の新宿WildeSideでライブで観るチャンスがある。
もちろん、9月の不思議ロックフェスVol.3にも出演するのでここでEvraakを観ることはできるが、きっと「まだまだ聴きたい!聴き足りない!」という気持ちに駆られると思うので、その前に是非スケジュールの都合のつく日で一度観ておくことをお勧めする。

◆今後のライブ予定

5月18日 早稲田Rinen
※各バンド・メンバーへDMにて予約

・8月24日 新宿Wildside Tokyo

9月14日 不思議ロックフェスVol.3 秋葉原Club Goodman


◆リンク集

公式HP

公式Youtubeチャンネル

アルバム未収録曲の新曲・Fata Morgana

2021年の不思議音楽館フェスで披露された、チリのプログレバンド・Rin del angelitoのVioleta Parraをカバーしたもの

King CrimsonのRedをEvraak男性陣メンバーでカバー演奏したもの

1st Album 「Evraak I」


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