セラムン二次創作小説『花想(遠うさ)』
「月の王国 シルバー・ミレニアムのプリンセスを抹殺し、“幻の銀水晶”を奪って来るのだ」
クインベリルと名乗った女首領から、そう命じられて目覚めた俺は、地上へと向かった。
それまでの記憶の一切がない俺だったが、何故だか身体が勝手にその場に向かっていた。
確信があった訳では無いが、自信があったようだ。
“月のプリンセスに繋がる人物と出会える”
遠藤と言う男を抹消し、なりすまして潜入捜査をゲームセンターCROWNにて開始する。アルバイトと言うていで。
そこにはセーラーVゲームと言うものが置いてある。これは好都合。セーラー戦士の秘密をさぐれるのではないかと考えた。
「ひょっとしてうさぎちゃんと一緒にいた事ないか?見かけたことあるよ」
少ない記憶を頼りに辿り着いたゲームセンターCROWN。オーナーの息子で、ここでバイトをしているという古幡元基に初めて会っときに出てきた名前。聞き覚えがあった。益々好都合。
きっとその子に会えば、色々わかるだろう。
「うさぎちゃんがセーラーVゲーム上手いんだ。今度来たら紹介するよ」
夢中でセーラーVゲームをしていると古幡からそう言われる。これは益々俺の言い様に働いて行く。ここに来て正解だった。
そして、待つこと数日。その時は割と早く訪れた。
制服姿で入って来た女の子。その子こそ、“うさぎちゃん”その人だった。
記憶の中のセーラームーンと同じおだんご頭に、思わず手が動いていた。何も考えることなく、おだんごを触っていた。
「うさぎちゃん、こいつは新しくバイトに入ったオレの親友、遠藤だよ」
「古幡と同じKO大学の一年、遠藤ですーーーよろしく」
セーラームーンの事をよく知っていそうなうさぎちゃんと是非お近付きになって仲良くしたい。下心から手を差し伸べ、握手を求めた。彼女もおずおずとだが、握り返してくれた。まずまずのスタートといった所か?
暗示にかけるのもいいが、少し様子を見ようと決めた。女性には紳士に行こうと思った。
しかし、これが裏目に出るとは思わ無かった。
来る日も来る日もうさぎちゃんとセーラーVゲームをしているのに、中々手中に落ちてくれない。
トレードマークのおだんご頭を褒めても、セーラーVゲームの腕前を褒めても全く落ちない。何故だ?
得意の洗脳も試みるが、やはり何故か聞かない。
まるで、互いにどこかストッパーがかかっているようだ。
やはり、うさぎちゃんを通してセーラームーンを見ている事が、かけられない様になってしまったのか?
うさぎちゃん自身も、何処か俺を通して違う誰かを見ているように感じる。
「うさぎちゃん、君は俺を通して誰を見ているんだ?」
俺はそいつの代わりになれないのだろうか?
いや、それ以上の存在になりたい。
「何を思っているんだ、俺は……」
ただの任務で近づいただけのはず。
それなのに、いつの間にかうさぎちゃんを手に入れたいと思う様になってしまっていた。この気持ちは、何だ?
何故、うさぎちゃんをこんなに手に入れたいと思っているのだろう?
振り向いて貰えないから、ムキになっているだけでは無いのか?
否、やはりうさぎちゃんが可愛くて、とてもいい子だから惹かれているのだ。
そう、いつしか俺は、うさぎちゃんを一人の女性として見ていた。落とすつもりが、俺が彼女に落ちていた。
「手に入れたい!銀水晶も、うさぎちゃんも……絶対に!」
彼女自身も、何処か俺を通して違う誰かを見ている。誰なのかが、知りたい。
「うさぎちゃん、明日もおいで?君の秘密をもっと知りたい、な。うさぎちゃん」
セーラームーンと同じおだんご頭の君こそ、セーラームーンだろ?
司令室や銀水晶の事。そして何よりうさぎちゃん自身の秘密をもっと知りたい。
君が隠している全ての事を知りたい。うさぎちゃんの全てを知りたい。
そして、何故うさぎちゃんが中々俺に落ちてくれないのかも……。
「俺はこんなにも君の事が好きなのに、うさぎちゃん、君は誰を思っているんだ?」
うさぎちゃんが俺に惹かれないのは、そいつが原因だろう。そんなにそいつが良いのか?
そして、俺が暗示をかけられないのもそこに起因しているのだろう。
俺自身も、遠藤としての以前の記憶が思い出せない。頭の中にある記憶は、他の誰かの記憶の様に感じる。ーーー他人事。そう呼ぶのに相応しい。
そしてそのもう一人の誰かによって、俺の意思とは裏腹に暗示がかけられない。誰かが俺を止めている。
「お前は誰だ?」
俺の心をコントロールするお前は、一体誰なんだ?
そして、それは俺自身にも言えることだと知った。
「俺は、一体何者だ?」
どこの誰で、今まで何をしていたのだ?
俺自身の記憶はどこだ?俺の想いはどこにある?
“うさぎちゃんが好きだ”
この想いも、果たして俺自身の、俺が感じている感情なのか?それとも……。
うさぎちゃんを思う気持ちは、紛れもない遠藤、俺自身の感情のはずだ。
それを確かめたい。
「うさぎちゃん、また来てくれたんだね」
「遠藤、さん……」
「今日はどこかに行かない?うさぎちゃんとデート、したいな」
「え?」
「嫌?」
「イヤ、じゃ……ない、です」
誘えば、やはり優しいうさぎちゃんは断らない。
うさぎちゃんに触れたい。感じたい。この気持ちにちゃんと向き合いたい。そして、俺自身の事も、うさぎちゃんの事も知りたい。
だから、良いだろう?ねぇ、うさぎちゃん?
おわり