セラムン二次創作小説『初めての感情(エリちび)』





自分がこんな気持ちになるなんて、思ってなかった。

こんな感情が湧き上がってくると思ってもいなかった。

あたしの中に、こんな醜い心があるなんて知らなかった。


その感情とは、単純な単語。ーーー嫉妬だ。


何故こんな感情を持ってしまったかと言うと、エリオスの行動にある。

きっと彼は、何でも無い行動だったはずで。彼にとってはごく当たり前のことで、日常茶飯事。


だって、いつも一緒にいて、同士であり、家族も同然。そんな彼女たちと触れ合う事なんて、エリオスもメナードたちも普通の行為のはずで。そんな事でいちいち嫉妬していたって仕方ないのに。


頭では理解していても、心が追い付かない。

それも、エリオスが特別で本当に心から好きと言う証だろう。

それを証拠に、まもちゃんを好きだった時はこんな感情に押しつぶされたりしなかったんだから。最初っからまもちゃんはうさぎのものとキチッと分かった上で想いを寄せていたんだもの。


それと同じで、メナードだってエリオスにとって家族も同然なのだから。あたしと出会う前からこの距離感だと理解すればいいだけ。そう何度も言い聞かせたけれど、上手くいかなかった。


絆の深さ、過ごした時間。どれをとってもメナードには劣っている。仕方のないことだと思いつつも、考えたくないけれど、考えてしまう。益々自己嫌悪に陥る。


あたしってこんなに醜かったんだ。エリオスに恋をするまで知らなかった。知りたくもなかった。


エリオスとメナードたちの距離感が気になってしまう。仲良さそうなのは勿論だけれど、やたらと距離が近い。いつも笑顔で楽しそう。入り込める隙がないと感じる。

極めつけは、ボディータッチ。これは参った。気が滅入る。これが一番心に来る。

恋人では無いのに、お互い体に触りまくる。付き合ってたのか疑惑さえ浮上している。

今も、目の前でイチャイチャしていて、恋人は、彼女はあたしのはずなのに、惨めで仕方がない。目から涙がこぼれそうになるのを堪えるのがやっとだった。


「スモールレディ、どうしたのですか?」


あたしが一言も喋らずに大人しく黙っていると、エリオスが不思議に思いコチラに顔を向けて覗き込んできた。

嫌だ!涙をこぼさないようにと我慢しているこんな顔、見られたくない!


「何でも、ないもん!」


あっちゃー。こんな言い方したら、何かあるって言ってる様なもんだ。

子供っぽい言い方なんてしたら、笑われちゃう。


「スモールレディ、なにか」

「放っておいて!」

「しかし……」

「……やだぁ」


逃げようとしてエリオスに左腕を強く、でも優しく掴まれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。

とうとう我慢していた涙が頬を伝う。やだ、本当に泣くつもりなんてなかったし、エリオスにこんな顔見せたくなかったのに。


「一体、何があったのですか?」


問われて、もう涙が止めどなく流れてしまう。

あたしが泣いてる理由が分からないのだ。ショックだった。

いや、まぁあたしもこんな感情を持つなんてつい最近まで思ってもいなかったのだから仕方の無いことだけれど。

それよりも自然に、無自覚にメナードたちに恋人の様な振る舞いをしていることに、酷く傷ついてしまった。


「うっ、ひっく……エリオスは、あたしが、好き?」

「どうしたのですか、いきなり?」

「……答えて、エリオス」

「勿論、好きですよ」

「……メナードたちのことは?」

「好きですよ」

「エリオスの言うあたしの好きとメナードの好きは同じ?」


なんて嫌な聞き方をしてしまったんだろう。我ながら意地悪な質問に、自己嫌悪。


「どうしたのですか?あなたらしくないですよ?」


本当にそう。あたしじゃないみたい。あたしの中にもう一人、あたしがいるんじゃないかってあたし自身が思う。


「う、うえーーーん……あたしだけを、見てよぉ〜〜」


バカバカ!と言ってあたしはエリオスの胸を激しく叩く。そんなあたしの言動に、驚き困った顔で固まるエリオス。

当然だよね。あたしだっておかしな事言ってるって思っているもの。


「どうして、そのような事を?」

「分かんない?」

「ええ」

「メナードたちと仲良くしてるのを見て、その、し、し、嫉妬したの!」


泣きながら、勢いに任せて言ってしまった。


「分かってる。メナードたちはエリオスにとって家族同然で、兄妹のように育って来たってこと。だけど、やなの!なんでか、心がギュッとなって辛いの!エリオスが、大好きで、シンドいのぉ〜」

「スモールレディ……」


泣きじゃくりながら心の中のモヤモヤを吐き出すと、エリオスに優しく包み込まれた。


「すみません。気づいてあげられず……」


あたしは抱きしめられながら、頭だけブンブンと左右に振った。


「確かにメナードたちはあなたの言う通り兄妹のような関係です。ですが、私が心からお慕いしておりますのは、あの日からスモールレディ、あなただけです。あなただけを愛しています」

「エリオス……」

「すみません。不安にさせていて」

「ううん。あたしの方こそ、ごめんね」


何でだろう。エリオスにそう言ってもらっただけでホッとした。胸のつっかえが取れた。


「これからは我慢せずに、何でも仰ってください。スモールレディを傷つけて、泣かせたくないのです」

「うん、分かった。そうする。エリオスも、何でも話して」

「ええ、勿論です」


さっきまで悩んでたのが嘘のように晴れて行った。

きっとこれからも又、不安になる事もあると思う。

でも、またこうして話せば何とかなるとエリオスに抱き締められながら思った。





おわり




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