セラムン二次創作小説『泡沫花火(まもうさちび)』


“手持ち花火セット買ってもらったから一緒にしよ”とうさぎから突然の呼び出しに月野家へとやって来た衛。
すると庭先から楽しそうな高い声が2つと、気だるそうな低い声が聞こえてきた。ーーうさぎ、ちびうさ、そして弟の進悟だ。

「楽しそうだな」
「「まもちゃん♪」」

双子かとツッコミたくなるほど同じタイミングで衛の名を呼ぶ未来の親子、うさぎとちびうさの仲のいいハミングに衛の口角は自然と上がる。

「衛さんいらっしゃい!」

最初はうさぎを騙す悪人と疑っていた進悟だが、すっかり懐いて本当の兄のように慕うようになっていてウェルカム状態だ。

「すっかり上機嫌ね、進悟」
「喧嘩でもしたのか?」
「ただ男一人で寂しかっただけよ。でしょ、進悟?」
「誰が寂しいなんて言ったよ!」
「顔に書いてあったわよ?」

衛は男一人と聞いて疑問に思った。
父親がいるはずではと。

「謙之パパは?」
「パパは残業。ママが寂しがってる」
「そうか、大変だな」
「喋ってないでやるよ!」

3人で話していると1人黙々と花火を楽しんでこちらの会話に入ってこないちびうさが痺れを切らして割って入ってきた。

「そうだな。やるか!」

花火セットを見ると色んな種類があった。
適当に火をつけてやり始める。
よく考えるとこうして花火をするのは初めてだとしながら衛は思っていた。
6歳で両親を失い、そこからは天涯孤独の暗闇の人生を歩んで来た。こうして当たり前の事をせずに生きてきたし、そんな記憶も無い。
うさぎと付き合った事で初めて日陰の人生から一気に煌びやかな人生へと一変した。それは月の光のような、銀水晶の様な眩しい人生。
うさぎのお陰で今まで経験して来なかった、出来なかった事が出来る。当たり前の事から全く縁のなかった衛の人生はうさぎによって今漸く動き出そうとしていた。

「花火って綺麗だね~」

そしてここにも1人、花火をするのは900年生きてきて初めての人物が感嘆の声を上げている。
ずっとプリンセスとして生きてきたちびうさは衛とは違った意味で普通の人生が送れないでいた。

“花火をする”と言う事もそのうちの一つだ。

実は数日前、ひょんな事から花火の話になった時、ちびうさがやった事無いと寂しそうに言っているのを見ていたうさぎは何とかしてあげたいと育子ママに頼んだのだ。
事情をうさぎから聞いた育子ママは両親から離れ、1人頑張ってるちびうさの為にと買ってくれたのだった。
そしてどうせなら衛とも一緒にしたいと思い、呼んだと言う経緯だった。
衛とも一緒にしたいのは勿論だが、衛もちびうさと同じでもしかして花火を家族で出来ていない、記憶が無いのではと考え、楽しい思い出を作りたいと計画した。

「本当だな。花火って暖かいな」
「まもちゃん……」

うさぎの予想通りだった為、少しせつない気持ちになるが、そっと衛に寄り添い優しい笑顔を見せる。

「色んな種類の花火があるんだね♪」
「それぞれ光り方も違うしな」

そんなちびうさと衛の花火初心者の会話が展開されながら、あっという間に残りは自然と線香花火を残すだけとなった。

「線香花火はね、終わったあとの残り火を落とさないようにするのがコツよ!」

そう言って先に火を付けて見本を見せようと意気込むうさぎだが、すぐに落ちてしまった。

「落ちちゃった……」

笑顔だったうさぎの顔は見る見る曇り、悲しそうな顔になってしまった。

「やっぱり、永遠なんて無いのかな……」
「うさ……」

寂しそうにボソッと呟いたうさぎに衛は優しく寄り添いそっと抱きしめる。

「俺はずっと、死ぬまで変わらずうさを愛してるよ」
「まもちゃん♪私もずっとまもちゃんの事大好きでいるよ」

弟やちびうさ、そして育子ママがいるのも全く関係なく愛の言葉を囁き、甘い雰囲気にして周りの方が赤面状態だ。
更に周りの目など関係なく自然とキスをする衛とうさぎ。完全に2人だけの世界を作り出し、花畑と化した。
そんな2人の姿を目のやり場に困る3人。

「ママとパパに会いたいなぁ……」

2人のラブラブな姿に遠く離れた両親を重ね合わせ、恋しくなるちびうさ。
線香花火をしながらしんみりしてしまうちびうさを目にしたうさぎと衛は頭を撫でて慰めてやる。
そして2人は心の中で、将来どんな道を選んでも自分たちの子供には寂しい思いをさせず、色んな経験をさせて思い出をいっぱいさせてあげようと誓った。

おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?