セラムン二次創作小説『白昼夢」


ある日の朝、衛は目覚めて隣を見るとそこにはうさぎ、では無く月影の騎士が寝ていた。

起きたと思っただけで、まだ夢の中なのか?余りの現実味の無さに、そんな事を思い自身の頬っぺを抓ってみる。


「イテッ」


……夢では無かったようだ。

普通に痛みが走り、これが夢では無い事を衛は悟った。と同時に現実である事に激しく落胆した。

何故、又月影の騎士が分離して出てきたのだろうか?

衛自身にも全く覚えが無く、困惑した。

うさぎとの関係は上手くいっている。それどころか、周りも引く程に付き合いを深めれば深める程ラブラブだと感じていた。

それなのに、月影の騎士が現れたと言うのはうさぎの身に何か起きる兆候なのかと衛は勘ぐる。


「おい、起きろ!」


ともあれ、本人に聞かなければ始まらない。一先ず衛は、呑気に眠っている月影の騎士を起こすことにした。


「ん?ここは、何処だ?」


どうやら月影の騎士も寝惚けているらしい。右目を擦り、置かれている状況を把握しようと必死に頭を回転させる。


「俺の部屋だ」

「地場衛か?」

「ああ、そうだ。何故、分離して現れた?」


間髪入れず衛は聞きたいことをストレートに尋ねる。

その質問に、月影の騎士は困った様に考え始める。

その姿を見て、衛は心底ガッカリした。


「……分からない」

「そうか……」


欲していた回答は得られず、衛は落胆する。

理由が分からなければ月影の騎士は消えてくれない。衛は途方に暮れる。


「したい事はあるか?」


月影の騎士がしたい事をすれば、消えてくれるのではないかと思い衛は質問する。


「うさこのこと以外で、だ」

「ケチだな。衛も余裕が無いな。ま、いい兆候だと受け取っておこう」

「で、したい事は何だ?」

「そうだな……明るい時間帯に外へ散歩に行きたい」

「そんな事で良いのか?」

「ああ、夜にしか出歩けなかったからな」


月影の騎士の要望を聞いた衛は、ハッとなった。

その奇抜なファッションのせいで、夜にしか堂々と出歩けなかったことに気づけなかったことに不甲斐なさを感じた。

怪しい姿とは言え、悪い奴ではない。堂々と明るい時間帯にどうにか出歩かせてやりたいと思案し始める。


「そうか、今の世の中なら可能だな!」


色々考えを巡らせていると、ある事に衛は気が付いた。

今のこの世の中は、コロナと言う伝染病が流行っている。外に出るにはマスクを付けるのは必須。マスクを付けていない方が目立つくらいで、そんな奴がいたら非国民扱い。

こんな月影の騎士に打って付けの世の中はない。逆に言えば、月影の騎士の為のこの世の中といった感じだ。


「行けるのか?」

「ああ、今からでも出かけられるぞ!」

「よし、では行こう」


善は急げでは無いが、そうと決まると早速行動に移す。衛も、出かける為にパジャマから散歩用の服に着替える。


「ほう、明るい時間帯の散歩はやはり清々しいな」

「そうだな」


外に出ると月影の騎士は嬉しそうに饒舌になった。

そんなテンションの高い月影の騎士とは裏腹に、衛のテンションは下がっていく一方だった。

何故なら、今日うさぎと会う約束は無かったものの、月影の騎士と男同士散歩をしているのは衛にとって心外だったからだ。

そんな衛の心を知らずに月影の騎士は、外を楽しんでいるようだ。


「私と同じような格好をしている人達ばかりだな!これは好都合で、愉快だ」


正に時代が月影の騎士に追いついたと言わんばかりの勢いで上機嫌。そんな月影の騎士がどこか気に入らない衛。


「変な格好なのは変わりないけどな」

「これは正しい戦闘服だ。衛の方は何だ?流行っているのか?」

「放っておいてくれ!」


月影の騎士に指摘された衛が来ていた服は、例の蚊取り線香Tシャツだった。

衛自身は結構お気に入りのTシャツだが、それに反して周りの反応はどれも良くない。そこに加えて、月影の騎士の言う通り流行ってもいない。

痛い所をつかれたばかりか、“流行り”と言う意味では完全に月影の騎士に完敗した衛は、面白くない。

早く目的を達成して、消えてくれないかと衛は願っていた。その時だった。


「まーもちゃーん」


笑顔で手を振り、衛の名前を呼んでこちらに走って来た。

何の約束もしていなくても会えたのは衛とて嬉しいが、月影の騎士も一緒なので罰が悪い。


「って、あれ?月影の騎士様?どうして?」


普段はとびきり鈍いうさぎだが、こう言う時だけセンサーが発動するらしく電光石火の如く早くその存在に気づき、疑問を感じた。


「ああ、彼は散歩がしたかった様だ」

「うさぎ、相変わらず可愛いな。会いたかったよ」

「可愛いだなんてぇ~」


可愛いと言われ、身体をクネクネしながら照れつつ喜ぶうさぎ。それを見ていた衛は面白くない。

そして次の瞬間、うさぎは飛んでもない行動に出た。


「えへへぇ~、両手にまもちゃん♪」


何と、右手を月影の騎士に、左手を衛の腕に手をからませて腕を組んで来たのだ。

誰にでも距離が近いとは言え、警戒心がないにも程がある。予想外の行動だったが、うさぎの行動ならしそうではある。

そして、そのうさぎの無邪気過ぎる行動は、衛にとっていい方向へと向かっていった。


「どうやら時間が来たようだな」


うさぎと触れ合えた事により、月影の騎士の目的は達成された様だ。身体が透けて消えかけている。


「もう、消えちゃうんですか?」

「ああ。いつまでも 君の幸せを 祈っている。アデュー」


お得意の俳句を読み、月影の騎士は完全に消えてしまった。

その方向を、うさぎはいつまでも見つめていた。そして、呟いた。


「月影の騎士様って不思議な人だねぇ~」


突然現れたかと思えば、突然消える。オマケに訳の分からぬ俳句を読んで去って行く。

うさぎには不思議以外の何者でもなかった。

そんなうさぎの言動を見て衛は、結局月影の騎士はうさぎとイチャイチャしたかっただけかと心の中で溜息をつき、どっと疲れた。





おわり



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