セラムン二次創作小説『高校教師クンツァイトと生徒美奈子の恋物語(クン美奈)』
職員室である生徒のテストの採点をして頭を抱える。ーー愛野美奈子の答案用紙である。
「はぁー」と深い溜息まで付録としてついてくる始末。「またか?」と心の中で落胆する。100点満点中25点。いくら高2で中弛みの時期に差し掛かっているからと言ってもこれは流石に酷い。
俺の授業はそんなに分かりにくいか?それともテストが難しすぎるのか?と自分の非力さを反省してしまう。
他の生徒の採点を進めると、皆普通に点数が取れている。平均64点前後と言ったところか?完全に赤点落第レベルである。
仕方ない、補習するしか無さそうだと思い、職員室に個別に呼び出すことにした。
「2年1組愛野美奈子、職員室の西東の所まで来るように」
校内放送で呼び出すと、数分後に綺麗な金髪をなびかせて職員室に少女が現れる。
「せんせー呼んだ?」
なぜ呼ばれたか当の本人は皆目見当もつかないと言った様子で困惑とも嬉しいとも取れるような何とも読めない表情を浮かべている。
「ああ、愛野来たか?この前の中間テストの結果だ!一学期も酷かったが、今回もやらかしてるぞ……ほら!」
「25点!?マジ!?何この点数!何で?」
「マジだ!どうしてこうなったかこっちが聞きたいのだが?」
「あ~…いや、私の誕生日と中間テストが被ったんだもん、仕方ないじゃない!」
「それはめでたいが、結果はおめでたくもなんともないぞ?せっかく腹を痛めて産んだ親御さん泣かせるなよ?」
「ウッ…せんせーのいじわるぅ~」
文字通り意気消沈した美奈子は来る時とは違い、明らかに落ち込んで職員室を出ていった。
確かに自分は決して頭がいいとは言えない。
寧ろ自他ともに認めるバカである。
でもまさか25点はダメだ。
誕生日で舞い上がっていた事を言い訳にしてもダメな点数である。
けれど、西東の記憶には強烈に印象に残ったので一先ず美奈子の作戦は甲を制した。
そう、何を隠そう美奈子は西東の事が好きだった。
今から遡ること1年ほど前、バレー部に所属していた美奈子は部活に勤しむ日々を送っていた。
そこにたまたま別の部活の顧問だった西東が現れ、部員に指導して竹刀を振っている姿を見て恋に落ちてしまった。
そこからはどうアプローチしようかと無い頭で考える日々を過ごしていたが、中々名案が思い浮かばないまま高校2年生になってしまった。
焦っていたが、美奈子のクラスの現代国語に西東が担当する事が決まり、喜んだ。
一先ず覚えてもらう事が大事だと思い、積極的に質問した。
その甲斐あってか、名前と顔をすぐに覚えて貰えて美奈子は手応えを感じていた。
そして最後のひと押しにテストの点数を悪くする事でもっと近づこうと考えた。
作戦自体は成功したが、予想外に点数が低く、落胆する。
これは逆効果で嫌われてしまうのではないかと悪い方向へ考えてしまう。
とは言っても国語はどちらかと言うと苦手で、頑張って勉強した所で大して変わらなかったと思う。
私の場合、国語以外の五教科も全滅だけど。まぁ何故か英語は普通だけど。
頭より体を使う方が向いている。
「体育は得意なんだけどなぁ……」
テストに関係無いのが悔やまれる。
項垂れながら自分の教室へと向かう。
教室へ入ると視線は美奈子へと集まってきた。
突き刺す様な視線が痛い。
“呼び出しを食らうクラスの問題児”と言う好機な目で見られる。
アイドルを目指している美奈子的にはどんな事であれ注目を浴びるのは気持ちいい。
「美奈Pまた呼び出されてたね」
美奈子の事をよく知るうさぎが笑顔で話しかけてきた。
「あぁ、まぁねぇ……アハハハハハ」
「その様子だとテストの結果は散々ってとこか?」
「うっまこちゃん鋭い」
「誕生日だって浮かれすぎてたんだから当然の結果よね!これを機に心を入れ替えてちゃんと勉強しないと、先生に嫌われるわよ」
「わぁん、亜美ちゃんキツい……」
亜美から正論を言われ、ぱあの音も出ない。
いくら勉強が出来ないからと言ってそれを活かして近づくと言うのも危険度が高い。
下手すると嫌われる可能性がある。
「“手のかかる子程愛しい”ってゆーじゃない?」
「それを言うなら“手のかかる子程可愛い”よ、美奈!何勝手にランクアップさせてるのよ、全く……」
「アハハ、そーともゆー」
「そうとしか言わないのよ!本当、勉強した方がいいわよ」
「でも良かったね、美奈P。憧れのせんせーと2人で話せて」
厳しい亜美とは対照的にうさぎはマイペースだ。
「うさぎだけよ、私の事分かってくれるのは!」
「応援してるよ、美奈P♪」
「ありがとう、うさぎ。私、頑張る!」
始業のベルが鳴り、担任で現国の西塔先生が入ってくる。
「席つけ~、授業始めるぞ!」
言われて慌てて自分たちの席へと各々が着席する。
「この前のテストの結果、返すぞ~。呼ばれた奴から取りに来い!先ず、愛野」
「はいはーい」
結果は先程呼び出され分かっていた。
単純に憧れの先生から呼ばれて嬉しかった。
席に向かいながら先程見た時と変わらない点数にまた落胆する。
席に着き、答案用紙を見るとさっきはなかった文字が書かれており、驚いて慌てて読む。
“毎週金曜日放課後補習。教室で待たれたし。”
現国の教師なだけあり、漢字のオンパレードに美奈子はゾッとした。
しかし、果たし状みたいな最後の文を見て心が和む。そして、毎週合法的に会える事が決定し、単純に嬉しく思った。
「うっさぎ~、テストどーだった?」
「うーん、まぁまぁかな?」
授業終了後、私ほどではないけど、同じ位バカ仲間のうさぎにテストの結果を聞いた。
微妙な返答が帰って来る。
「なぁにぃ?その微妙な反応は?何点だったの?正直に言いなさーい!」
「50点よ?」
50?え?うさぎの癖に50?私の倍?え?嘘でしょ?私、どんだけアホなの?
もしかして赤点、私だけなの?
果たし状の様なせんせーの補習の話に喜んでる場合じゃないんじゃないの?
でもプラスに考えると私とせんせーの2人きりの補習なんじゃ?
そう考えるとそこまで凹む事でも無くない?
ん?凹むべきなのかな?
えぇーい!もう、全く分からなくなったわよ!
思考回路はショート寸前って奴よ!
脳みそが考える事を放棄したわよ!
教師生活は決して長くは無いが、その中で25点と言う点数を俺は見たことは無かった。
学生生活に置いても周りを見ても現国でそんな点数を取っている奴もいなかったと記憶している。
それだけに愛野の点数も彼女自身も興味をそそられた。
点数こそ悪いが、間違えた全ての回答は惜しかった。
頭が悪い、と言う訳では無いらしい。
では何故間違えるのか?
彼女に何が足りないのか?
それを率直に知りたくなった。
これは期末までに何とかしてやりたい。
ただそれだけで週一で補習を提案するに至る。
本人は部活もあるし、勉強嫌いそうだから嫌がるだろうが、彼女のためでもある。
文句を言われようが、憎まれようが受け入れて根気強く付き合ってやろう。そう思った。
「西塔先輩、難しい顔してますね?」
愛野の答案用紙と睨めっこしていると、英語教諭の田中先生に話しかけられる。
「ああ、いや、愛野の点数に悩んでまして……」
「愛野さんですか?そんなに悪かったんですか?」
「ええ、まぁ……英語はどうなんですか?」
「彼女、英語は得意みたいですね。67点でしたよ。彼女は昨年も持ってましたけど、大体いつもこの位の点数ですね」
は?一体どういうことだ?
母国語の現国が25点で外国語の英語が67点?
いっそ英語圏に移り住んだらどうだろうか?
そんな馬鹿な事を考えてしまった。
他の教科はどうなんだろう?
フッとそんな事を頭に過り、他の教師に聞いてみたくなった。
お節介ではなく、興味本位だ。
「すみません、北川先生。愛野の数学の点数ってどうなってます?」
「ああ、西塔先生。愛野さんね?ええっとぉ……41点、ですね」
「そうですか。ありがとうございました」
「いえいえ、気になります?」
「ええ、まぁ……」
「あの子、不思議な子ですもんね!」
数学の北川先生は女性だが、変な意味に聞こえて来るのは何故だろう。
っと言うことはさて置き、数学も余りいい点数では無く一先ずホッとする。
その後も俺は各教科の先生に愛野の点数を危機に回るということをやってのける。
自分でも何故ここまで気にして余計な仕事を増やしているかは分からない。
ただ分かったことは英語関係は平均を取れていること。それ以外は赤点スレスレ、国語関係は赤点と言う事だった。
何とかしなければ、何とかしてやりたい。
そんな気持ちになっていた。
そんな思いで、気づけば愛野の答案用紙に補習をする事を書いていた。
他の生徒はみな赤点を免れている。
愛野だけの特別補習と言う事になる。
部活がある為、嫌がって来ない事も想定済みだ。
そうなれば課題のプリントをやらせるだけだ。
我ながら世話焼きと性格が悪いと嘲笑う。
「あーあー、早く金曜日にならないかなぁ~」
西塔の苦労とは裏腹に、当の本人である美奈子は補習の日を待ち遠しく思っていた。
「美奈P金曜日に何があるの?」
「な・い・しょ、よ☆」
「ええーずるぅーい!教えてよ。私たち、親友でしょ?」
「どーしよっかなぁ~」
「勿体ぶるなぁ~。好きな人とデートとか?」
「当たっても遠いって所かな?」
「えー何なに?詳しくキボンヌ」
「しょーがないなぁ~。西塔先生と補習なの♪」
「補習?全然楽しくなさそうだね……」
「何でよ!楽しいわよ!好きな人に教えてもらうのよ?うさぎだってまもちゃんと勉強は楽しいでしょ?色々教えて貰えて!」
「ううーん……」
歯切れの悪い返事に美奈子は、日常茶飯事的に衛に教えて貰える環境に置かれているから麻痺していて、この些細な幸せも分からないなんて贅沢だと思った。
その時はそんな事を思い舞い上がっていた。
しかし、現実は中々に厳しかった。
金曜日の補習当日。
西塔の不安とは他所に美奈子は自分の席に座って待っていた。
「ちゃんと残ってたか」
「残ってますぅ~。一応、この前の点数は反省してるので!」
嘘である。いや、本当だが、一番は下心でここにいた。
「そうだったのか?」
「あ!疑ってる?ひどーい」
「まぁこれを機にもっと頑張っていい点数取ってくれ」
「……頑張ります」
「さっさと始めるぞ。今日はこの前のテストの理解だ。いいか?愛野、お前は頭は悪くない。現に間違ってるものはケアレスミスばかりだ。要は最後の詰めが甘い」
「なるほどー、私、頭いいのか?」
「何故そうなる?」
「違うの?」
「頭のいい奴はケアレスミスなどしないし、満点とってるぞ」
「そっか、そうだね」
最早憧れの先生と2人きりの補習に完全に舞い上がっていた。
美奈子にとっては何でも褒め言葉として聞こえてくる。
「何故間違うと自分で思う?」
「うぅぅ~~~ん、集中力?」
「それは大前提として、勘違いと詰めの甘さだな。頭は悪くないんだ。もう少し理解する力を身につけろ。お前に足りないのはそこだな」
「なるほど~、それを克服すれば点が取れるのか?……出来るかな?」
「出来るかな?じゃない!やるんだ!お前なら出来ると、俺は信じている」
的確なアドバイスと絶対的な信頼感を得て、美奈子は嬉しくなった。
勉強は変わらず苦手だが、好きな先生に信じて貰えている。それだけで頑張れる。期待に応えたいとそう思えた。
「美奈子、頑張る!」
「口より手と頭を動かせ。まぁ心意気と威勢は買ってやるが」
単純に素直で良いと西塔は思った。
こういう空っぽな頭のやつの方が伸びしろがあって、教えがいもある。
「ところで愛野は英語が得意みたいだが?」
「何で知ってるんですか?」
「全体の学力を知っておくのも教師の勤めだからな」
何でもない教師あるあるだったが、美奈子には自分を知ってもらえる事が嬉しかった。
「そー言えば何で得意なんだろ?分かんないや」
期待はしていなかったが、見事裏切ってくれる美奈子に西塔はガックリした。
これでは対策も何も出来ない。八方塞がり状態である。
ひたすら教えるしかないという事か?
「今日はここまでにするか?」
この前のテストを一通り回答し終えたタイミングで夕方となり、長くやって詰め込むのも効率が悪いと打ち切った。
「終わったぁ~」
嫌いな勉強が終わるのは単純に嬉しい。
だが、先生との時間が終わるのは寂しかった。
「また金曜、同じ時間だ」
「わっかりました~♪せんせー、今日はありがとうございました」
「お、おお。お疲れ様。気をつけて帰れよ」
まさか補習で感謝されると思わず、驚き動揺する。
それから毎週金曜日の放課後、補習は繰り返された。
当初、部活がある美奈子はサボる日もあるかと思われたが、毎回バックれること無く出席した。
想定外に真面目な美奈子に西塔は見直し、感心していた。
「ところでせんせー?」
「ん?何だ?」
「この補習授業、いつまでやるの?」
ある日の補習で美奈子は素朴な疑問を投げかけた。
文句も言わず補習を受けている美奈子を感心していた西塔は、やはりこの疑問にぶち当たるか?と少し残念に思った。
「ああ、二学期の期末まで続けるぞ!」
「そっか」
「嫌か?」
「ううん」
そうだろうな、と予想した結果を聞いた美奈子は、12月半ばまで一緒だと喜んだと同時に、勉強は嫌だと複雑な気持ちになった。
そして、何とかこの残された期間で少しでも発展させなければと少し焦る。
ただ勉強してるだけで、色恋に発展していない。
「毎週補習してるんだ。今度はいい点取ってくれよ?」
「ええ~、ちょ〜プレッシャー!」
「最初の日にも言ったが、頭は悪くない。毎週頑張って理解力もアップしてる。大丈夫だ。俺はお前を信じてる!」
「何点目標?」
「そうだな……60点だな」
「60点?中間の倍以上じゃん?ジョーダンでしょ?」
「冗談など言わん」
いくら補習で頑張っているからと言ってもそんなに取れると美奈子は思えず、途方に暮れる。
これは、やる気の起爆剤が欲しいところ。
恋の逆転満塁ホームランを狙い、勝負に打って出る。
「何かご褒美があれば頑張れるんだけどな……」
「……何が欲しいんだ?」
「せんせーと一日デート出来る権利♪……なぁんてね?ダメよね……」
「ああ、構わんぞ」
「そーよね。やっぱりダメだよね~……って、ええ!良いの?」
「ああ、良いぞ?」
「何で?」
「いつも頑張ってるからな」
だからって了承されると思わなかった美奈子は単純に驚いてしまった。
一方西塔の方も、まさか自分がOKをすると思っておらず、気づけば了承していた事に驚いていた。
自分自身でもわからないが、毎週頑張っている事や前向きで明るい性格の美奈子に不思議と惹かれていたのかも知れない。
心の中で、出来の悪い子ほど可愛いとはよく言うが、全くもってその通りかと実感していた。
「やったぁ~♪美奈子、頑張る!」
「やる気が出たようで何よりだ」
「期末って事はクリスマス付近よね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、クリスマスデート予約で♪」
「考えといてやるから頑張れよ」
「わぁーい、美奈子、頑張る♪」
ご褒美デートの約束を取り付けた美奈子は、その後の残りの補習を今まで以上の集中力で頑張った。
その頑張りを見て西塔は、年頃の女の子の恋愛の動力は凄まじいと感心した。
そして同時に、これは60点は軽く超えてくる。
冗談半分で二つ返事をして約束したデート、実現してしまうなと嬉しい様な複雑な何とも言えない気持ちになっていた。
「デートか……」
男と女である以上、恋愛感情と言うものを持つのは悪いことでは無い。
しかし、愛野は生徒で自分は教師。
デートの言葉に深い意味は無いのかもしれないが、どうしても身構えてしまう。
しかし、愛野の様に明るくて美人で、話していて楽しく、自然と笑顔になれる子にデートの誘いをされ、思いの外嬉しく、楽しみにしている自分がいることに驚いていた。
問題は彼女が60点以上を取らなければデートは出来ないということだ。
何としても高得点を取ってもらわなければならない。
残りの補習は下心も相まって今まで以上の熱量で教える事になった。
運命の日はすぐそこに迫っていた。
そして2人の距離も気持ちも縮まるまであと少し。
おわり
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