セラムン二次創作小説『遠くの星と近づく距離(クンヴィ)』




「うわぁ~すっごく綺麗」

「そうだろ?お気に召してくれたか?」


この日私はクンツァイトと夜空を眺めていた。


夜に地球に降り立ったのは初めてで、クンツァイトが絶景ポイントに案内してくれた。


クンツァイトが言った通り、夜空に浮かんだ星が一面に広がりとても綺麗で目も心も奪われ感動した。


何故夜に来る事になったかと言うと公務が思った以上に長引いてしまい、中々終わらなかったから。


今日も今日とて王子と会う約束をしていたプリンセスは待ち合わせの時間が近づきソワソワしたりチラチラ時計を見てとても落ち着きが無く、心ここに在らず。


夕方に漸く終わるといの一番に行こうとしたのをもう遅いから行ってもいないとプリンセスを止めると泣きながら訴えてきた。


「あの人は約束をきっちり守る人よ。絶対まだ待ってくれているわ」

「もう夕方で日もくれてます。地球に行った時には夜も深けて危険です」

「一目で良いの。行かせて?ちゃんと約束は守りたいの」

「分かりました。私が護衛でついて行きます。あまり長居はしませんからね?ひと目会うだけですよ?」


約束が守れない人だと嫌われたくないと泣いて訴えるプリンセスに折れて護衛と長居しない事を条件に地球へ行く事にした。


私だって鬼じゃない。

プリンセスにはいつも笑顔でいて欲しいし、幸せであって欲しい。

キツいことを言いたくはないけど、将来シルバミレニアムを継ぐ身、しっかりと自覚を持ってもらわないと。


笑顔にも涙にも弱く、プリンセスの意見に折れてしまう私も大概ダメダメだ。


地球に降り立つと案の定もう真っ暗ですっかり夜になっていた。

それでも行って納得するのならと約束の場所へ向かう。


プリンセスが言っていた通り王子は待っていた。

王子もまたプリンセスが約束を守り来ると信じていた。


そして王子を心配して護衛でクンツァイトがついていた。


せっかく初めて夜の地球に来たんだから堪能していけばいいと言われ、ここに連れてこられて話は冒頭へ戻るというわけ。


月から見る星々も綺麗だけれど、地球から見上げる星々も素敵で言葉を失った。


「地球にも素敵な場所があるのね」

「ここは私のお気に入りの場所だ」


クンツァイトがお気に入りだと言うこの場所にどうして私を連れてきたのか。意図が全く分からない。

顔を覗き込んでも暗くて読めないし。見えたとしてもまたいつもと同じように仏頂面を下げているんだろうけど。

クンツァイトの心の内と顔色が分からず、私は絶景の下でイライラしてしまった。


「あれが見えるか?」

「え、どれ?」


クンツァイトが指差す方向へと視線を移す。

するとそこには星が一際大きく輝いていた。

その星を見て私はドキリと胸が高鳴る。

まさか、これは……。


「ヴィーナス、貴女の星、金星だ」

「……そう、みたいね」


そう、その星は金星。私の故郷だ。

でもそれがどうしたって言うの?

何を意味するの?分からなくて、困惑する。


「私はここからあの星を見るのが好きだ」



……ドキンッ



「そう」


高鳴る鼓動とは裏腹に、私は知られない様になんでも無い風に素っ気なく一言相槌を打った。


金星を見るのが好きってだけで、私を好きとは限らない。深い意味なんてない。

分かってはいても何故かどこかで期待してしまう。私の事を思って見ているんじゃないか、なんて思って。自意識過剰だ。そんなことあるわけないのに。


ボーッと星を眺めながらそんなことを考えていると、腕を引っ張られたかと思うと視界が真っ暗になる。

な、何?何が起こったの?状況を把握しようと思うと、腕が腰に回された感覚がした。


「……!!ちょっ!」


そう、私はクンツァイトの大きな胸の中に抱きしめられていた。

止めてと大きな声で抗議するものの私はそれ程強い力で離すことをしなかった。出来なかったのだ。


「止め、てよ……」


弱々しく反抗するものの心裏腹でずっとこうしていたいと願ってしまった。

きっと力いっぱい離そうとしても体格差と男と女と言う絶対的な差があるから出来なかっただろう。これだから女の体は窮屈だ。女として男に愛される事を知ってしまうなんて、こんなにも弱くなる。だから嫌だったのよ、本当に恋をする事が。

私は不特定多数の男に騒いでいる方が楽。一人の男に心酔するなんて窮屈よ。


「愛している、ヴィーナス」

「……ズルい!」


クンツァイトの背中に手を回し、マントをギュッと握った私はその言葉が嬉しくて時が止まればいいのにと思ってしまった。


今日だけはこのまま幸せに浸らせて。

明日からはまた強い守護戦士としてプリンセスを守るからーー





おわり


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