セラムン二次創作小説『メロンジュース(浅まこ)』


一学期の終業式が終わった日。浅沼は行きつけであるフルーツパーラーCROWNへと来ていた。
何の気なしにテラス席を見渡すと、浅沼が絶賛片想いを拗らせているまことが座っていた。しかも珍しく1人で。
ただ、それだけではなくていつもの元気が無いように見受けられた。笑顔が無い。若干、暗い様な雰囲気がする。
どうしたのだろうと思いながら近づいていくと、見ていたのは成績表。

「……ぱい?まこと先輩!」

話しかけるが、気付いてないのか反応が無い。
何度も呼びかけるも応答すら無い。
それならばと耳元で話しかけようと顔を近づけると、成績表を覗き込む形になり、まことの成績を意図せず見てしまった。

「うっわぁ、これは……ひっどいっすねぇ」

通りで落ち込むわけだ、と浅沼は思う程の酷い成績。
家庭科と体育は輝かしいほどの“5”と言う数字に対して、その他は“アヒル”と“棒”と言う有り様。仮にも受験生が一学期にこの成績は救いようが無い。
うさぎが頭が悪い事は衛から聞いていたこともあり、浅沼自身も釣り合わないと思っていたことから“何故頭のいい衛とアホなうさぎが付き合っているのだろうか?”と言う疑問を抱いていた。
しかし、自身も結局衛と同じだったのだと気付くことになった。
それも悪くない。憧れの先輩と同じだったのだからと衛との共通点を持てたことに浅沼は嬉しく思った。

「あ、え?あ、あ、浅沼ちゃん?」

ここで漸く浅沼の存在に気付いたまことは驚き慌てふためいて、咄嗟に成績表を閉じた。時すでに遅しであるが……

「こんにちは、まこと先輩。勉強、苦手なんですね?」

苦笑いをしつつ、成績表を盗み見た事を謝りながら質問をする。

「あはは、お陰様で。どうも性にあわないっていうか、将来の夢に関係無いと頑張れなくて」
「夢って確か、パティシエと花屋さんでしたよね?」
「ああ、小さい頃からの夢なんだ」
「夢があるって、立派だと思います!頑張ってください」
「ありがとう、浅沼ちゃん」

まことは幼い頃からずっとこの夢を抱いてきたという。
一方の浅沼は、夢というものは特に持ち合わせることなく今日に至っていた。元麻布と言う進学校に行こうと決めたのは、頭が良かったこともあるが、学歴があれば将来困らないだろうという打算によるものだった。

「羨ましいです。夢があって、それに向かって頑張っていて。素敵です」
「そんな立派なもんじゃないよ。両親の影響なだけだから」
「確か、幼い頃に飛行機事故で亡くなったって……」
「ああ、その両親との思い出なんだ。お菓子作りもガーデニングも」

笑顔で話していたまことだが、両親との思い出を語りだし顔が曇っていく。
まことによれば、母親は料理が上手い専業主婦。まことを喜ばせたくて、お菓子作りをする事が趣味だったそうだ。
父親は草花が好きで、よく母親やまことの為に花を買ってきては喜ばせてくれる優しい人だったようだ。

「母さんの料理もお菓子もレパートリー多くて、どれも美味しくてさ」

そこで漸く笑顔が戻り、目の前に頼んでいたメロンクリームソーダをまことは啜った。とっくに炭酸の気は抜けてしまっているし、クリームも溶けてしまい一体化してしまっているが。

「父さんが買ってくる花も色々な種類で、両親とも同じものが被ること無かったなぁ……」

幼いながら、鮮明に残る記憶にまことは楽しく語って見せた。
きっともう全ての記憶を思い出すことは出来ないだろう。
“被っていない”とは言うが、幼いが故に同じものだと気づいていなかった可能性がある。あまり長い時間を過ごしていないからこそ被らなかったとも言えるとまことの両親との思い出を聞いて浅沼はそう感じてしまった。

「まこと先輩の“今”があるのはご両親のお陰なんですね」
「そう言うと結構大袈裟に聞こえるな」
「いえ、本当まこと先輩が優しくて素敵で魅力的な女性なのはご両親が大切に育てたからだと思います」

まこと自身もだが、浅沼にとっても全く知らないまことの両親。
けれど、まことの人となりを見て好きになり両親の話を色々聞くと、まことが今日までグレずに成長できたのは両親の愛情の賜物だと浅沼は感じた。
そんなまことと知り合えて好きに慣れたことは尊いことだと、浅沼は神様に感謝した。

「二人が聞いたら喜ぶよ。今度お盆にお墓参りした時、伝えておくよ」

ありがとうと笑顔でまことがお礼を言ったその時だった。

ブォンと言う飛行機の音が聞こえると、まことは“きゃあああ”と大きな声で悲鳴を上げて怯え始めた。

「まこと先輩?大丈夫ですか?」
「浅沼ちゃん、ごめんよ。私の両親、飛行機事故って言ったろ?そっから飛行機の音だけでも拒否反応が出て怖いんだ」

両親が事故死した飛行機。幼いまことにとって深い傷を負うには充分過ぎる出来事だったのだろう。PTSD。心的外傷後ストレス障害と言われるものに悩まされていた。
いつも強く大人びていて、浅沼の前ではあまり弱みを見せないまことが見せた初めての弱みに、少しホッとした。

「大丈夫ですよ!落ちては来ませんから」

空を見あげられないでいるまことを落ち着かせるため、浅沼は飛行機が通り過ぎた事を報告した。
そして、飲みかけていたメロンクリームソーダをまことに勧めて落ち着かせようと気を配る。

「んっくはぁ~、落ち着いた。浅沼ちゃん、ありがとう」
「いえ、こんなことくらいしかできませんが……」

お礼を言われ、改めてまことの大人っぽさに何も出来ないちっぽけな自分を浅沼は恥ずかしく思った。
こんな時、どうする事が正解なのだろうか?浅沼少年は不甲斐なさに自分を殴りたくなった。

まことお同じ様にオーダーしていたメロンクリームソーダを飲むと、記憶とは違ってちょっと大人な味がした。

おわり

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