セラムン二次創作小説『たいしたことなくね?』




「え?たいしたことなくね?」


何でもないと言わんばかりに発言したのは勇人だ。


「お前……」

「衛の真剣な悩みをそんな軽々しく!」

「身の程を弁えろ!」


余りの言い方に、他の四天王は頭を抱えた。

当の本人である勇人は悪い事を言ったと思っていない。それどころか、何故こんなに詰め寄られなければいけないのか、心底疑問だった。


「何でだよ?たった6年の記憶だろ?無くたって良くね?」


なおもこの態度である。


「なんて事を言うのよ、この男は!」


これだからガサツな男は嫌なのよ、と彩都はため息をついた。

勇人以外の四天王は、黙ったままの衛の顔を伺った。ポカンとしている。驚いているのか分からないが読み取れない。


「いや、だって……悲観的になる必要あんのかなって思ってさ」

「あるだろ!記憶が戻らないんだぞ?大問題だろ!」


ったく、アホなのか?と和永は、話の通じない相手にやるせない気持ちになった。

六歳の時に事故にあい、それまでの記憶がなく、何も思い出すことなくここまで来た。

前世の記憶は色々思い出しているというのに。寧ろ今でもポツポツと補填の様に思い出すのに、地場衛として過ごした六年間の幼少期の記憶は頑なに思い出さない。

五人集まったこの日に前世の記憶の話になった次いでに打ち明けて冒頭の勇人の発言からの今までの流れとなっていた。


「高々小さい頃の六年間の記憶なんて持っててもなぁ〜」

「まだ言うのか、お前は!」


なおも続ける勇人に公斗は心底イライラする。殴りたい。一発ならいいだろう。四天王リーダーだ。許されるだろうと考え始めた。


「じゃあ聞くけどさ、お前らは六歳までの記憶ってあんのかよ?俺は、ない!大した記憶は持ってねぇんだけど?」

「……言われてみれば、俺もねぇな」

「バカ、和永!バカに吊られちゃダメよ!しっかりしなさい!」

「ほれ、ねぇじゃん!じゃあ、その六歳以前の記憶持ってなくて不便だった事あるか?俺は全くねぇぞ」


勇人は何でもない風に記憶が無い事、それを不便では無かったことを暴露した。


「そりゃあ、あんたはね!」

「三つ子の魂百までと言うことわざがある。性格や才能がリセットされるんだぞ!それでも大したことないとのたまうのか?」


勇人の、まるで六歳までの記憶など取るに足らない、持っていても仕方が無いと聞こえる発言に公斗は否定した。


「いや、公斗、冷静になろうぜ?今現在事故って記憶を全て無くすことに比べたら六年間なんてその辺の蚊を潰すようなもんだろ?」


逆転の発想をしろ!頭を柔軟に考えろと勇人は主張する。


「失ったものより六歳から今までで得た事を考えた方が多いだろ?うさぎちゃんと出会えたり、俺たちもいるぜ?今、幸せだろ?」

「……言われてみれば」


勇人の言葉に、やっと衛が口を開いた。

今の今までネガティブ思考全開で、悲観ばかりしていた。

しかし、勇人はポジティブに物事を捉えている。

確かに勇人の言う通り、たった六年間の人生を失っただけに過ぎない。その六年の記憶は、一般的には幼少期のため、生きて行くと忘れていってしまうらしい。それ程微々たる年月なのだ。


「だろ?思い出す必要、あんま無いんだって。そりゃあ両親の事も忘れているのは辛いと思うけど、無理に思い出す必要ねぇだろ?」

「勇人の言う通りかもしれない」


言われれば言われる程、勇人の言う通りに聞こえて来る。不思議な気持ちだった。


「それに一般的に記憶喪失って、思い出したくない事があるから脳がセーブしてるらしいぜ」


衛とは違い、医学の知識は無いもののそれでも少しは理解があった。

記憶を思い出せない。それ即ち思い出す事で何か罪悪感があり、心が壊れてしまう可能性が高い。

それを回避するため、思い出す事をしないのだ。もしも思い出してしまうと衛の心が壊れてしまうかもしれない。


「何となく考えていたんだが、事故の直接の原因は俺なんじゃないかと思うんだ。それを思い出したら、多分、きっと……」


もしそうなら心が死んでしまうだろう。衛は、最後まで言い切ることが出来ず、言葉を続けられなかった。


「だから、無理矢理思い出す必要も、思い出さないといけないってことも無いんだって」


今これからを大事に生きていけばいいと笑顔で勇人は衛に諭した。


「前世ばかり思い出すのも、その方が衛にとって幸せだからだろ?プリンセスとの恋愛とかさ、俺らと過ごしたこととかさ」

「ありがとう、勇人のお陰で心が軽くなったよ。本当に、ありがとう」

「おう!」

「まさか、こんなガサツな奴が感謝されるとは……」

「何なの、あんた!無神経かと思ってたのに、悔しい!」

「何故こんな奴が衛の心を軽く出来たのか謎が深い」


勇人の歯に衣着せぬ物言いがまさか衛の心に響くとは思わなかった公斗たちは、心底衝撃だった。


「って事で衛!俺と想い出作ろうぜ」

「はあ?調子乗ってんじゃ無いわよ!私とよ?」

「いや、俺だろ?」

「馬鹿言うな!四天王リーダーの俺に権利と権限がある。弁えろ!」


暗い話が一転、パァーっと周りの雰囲気が明るくなった。衛の取り合いが始まってしまった。


「みんなで、な!」


衛の一言でその場を治めた。


そう、大切なのは失った記憶では無い。今までの想い出とこれからの出来事だ。





おわり




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