セラムン二次創作小説『節分と豆撒きと過去(クン美奈)』

　節分の日。久しぶりに美奈子が公斗の家へとやって来た。両手にはスーパーの袋や高級なショップの袋を持っている。

「恵方巻きと豆まき用の豆持ってきたよ」

　笑顔でそう言いながら、スーパーの袋から買ってきたであろう巻き寿司を数点と、豆を取り出す。

「それと……」
「まだあるのか？」

　美奈子の買ってきた恵方巻きを見て普通に美味しそうだと公斗はホッとした。インスタントの味噌汁でも入れようかとポットに向かおうとしたその時だった。スーパーの袋以外の高級な袋に手をかけた。
　そこから出たきた物を見て、公斗は絶句して固まった。

「堂○ロールとクラブ○リエのバウムクーヘンよ」

　出てきたものは何故か甘いもので、普通にスイーツだった。甘い物が兎に角苦手な公斗は絶句した。

「何故、ロールケーキとバウムクーヘンなんだ？」

　当然の疑問である。恵方巻きとは全く関係ないどころか、かすってもいない。日本発祥の食べ物というだけである。

「さっきまで大阪で仕事だったから、お土産よ」

　堂島ロールもクラブハリエも関西で生まれた食べ物という知識は甘い物が苦手な公斗でも有名な菓子屋だから流石に分かっていた。
　しかし、甘い物が嫌いと知っている美奈子がわざわざ自分の為に買ってきたにしては嫌がらせが過ぎる。何故、自分と食べたいのかと考える羽目になってしまった。

「甘い物は苦手と知っていて、何故だ？」
「良くぞ聞いてくれましたぁ〜♪」

　素朴な疑問をストレートに質問すると、笑顔を弾けさせ大喜びし始める。聞かずにはいられなかったが、思惑に乗らされたようで、単純な自分に腹がたった。

「恵方巻き、スイーツバージョンよ♪」
「……」

　美奈子の説明に、理解ができず絶句する。

「あ、分かんなかった？要するに、ロールケーキもバウムクーヘンも巻かれてるでしょ？巻かれてるものなら何でも良いかなと思って」

　テヘペロと言いながら、美奈子は得意気にそう言ってのけた。
　言われてみれば巻かれているが、ナイスアイデアという程のことではないし、ましてや威張るほどでもない。
　寧ろ、盛大なダジャレから来るものなので、呆れてしまう。只でさえ寒いのに、余計寒くなる気がした。

「後、これも！」

　再びスーパーの袋に手を入れて、出てきたものを見た公斗はまたまた絶句した。

「伊達巻……だな」
「ピンポーン♪これも巻かれてるから丁度いいかと思って。和食は好きでしょ？」
「確かに和食は好きだが、伊達巻は甘いからなぁ……」
「そのなりで和食好きなのに伊達巻は嫌いとか詐欺ね」
「甘い物全般が苦手なんだ」
「ふーん、ま、覚えておいてやるわ」

　会話を終えると寿司の方の恵方巻きを手にして、今年の恵方を向いて二人共静かに食べ始めた。
　公斗は、美奈子とこのままずっと幸せに暮らせるよう。美奈子は芸能界で益々の活躍を願いながら一本丸々黙って食べ切った。

「さぁて、次は伊達巻よ！」
「……全部、恵方向いて食べる気か？」

　美奈子の飽くなき食欲に、公斗は呆れ果てる。
　まさか、巻かれているもの全て恵方を向いて無言で食べ切るつもりではないだろうかと疑心暗鬼になっていた。

「モチのロンよ！」

　呆れる公斗を他所に、美奈子は伊達巻を切らずにそのまま恵方を向きながら一本丸々口の中に入れ始めた。

「……よくやるな」

　美奈子の食べる姿を見て公斗は、単純にその食欲に驚いた。幸せそうに食べている姿は輝いて見えた。

「はぁ〜、お腹いっぱい♪」
「そりゃあ良かったな」

　満足そうな美奈子を見て、つい口元が綻ぶ。

「次は豆食べるわよ」

「豆撒きはしないのか？」

「もう私達、そんな年でも無いでしょ？」

「以外だな。いつまでもはしゃぐタイプだと思っていたが」

「私もいつまでも子供じゃないのよ」

　豆撒きをするかと思っていたが、やらずに食べると言い出した美奈子に公斗は驚いた。

　一方の美奈子は、ここ最近の仕事で豆撒きをしまくったため、単純に飽きていた。それと、豆撒きした後の片付けを考えると単純に面倒臭く感じてしまった。

「そうか。お前もいつの間にか大人になっていたんだな」

「まぁねぇ～♪」

　褒めてやると美奈子は得意気になり、綺麗な金髪の髪を右手でかき上げた。

「大人といえば、あの頃のヴィーナスは一体何歳だったのだ？」

「え？あの頃って、前世？」

「ああ、見た目は若かったが、千年を生きる種族。見た目と年齢は違う。だろ？」

　ずっと、気になっていたことだった。月の王国の者たちは、見た目は銀水晶の力で若いまま。しかし、その見た目とは裏腹に、歳を取っているとクンツァイトは考えたいた。

　つまり、あの頃年下だと思っていたが、実はもっと自身が考えているよりも歳上だったのではと思った。

　あの頃は、失礼に当たる。質問する事で、好意を持っているのではと悟られることも怖かった為、最後の最期まで聞くことはなかった。

　しかし、こうしてこの世界で付き合うことになり、それなりに関係性も築けている。今なら、昔はタブーだったこの質問を満を持して思い切ってしてみた。

「その通りよ。あなた達より､ずっと大人だったわ。そうね、あの頃はもうとっくに100歳は超えていたかな？」

「やはりそうだったか……」

　公斗は、ヴィーナスがクンツァイトよりもずっと歳上だったと知り、少しショックを受けた。

「あんたは成人してたんだっけ？」

「ああ、一応な。マスターよりも四天王よりもずっと歳上だった」

「今くらい？」

「27だったかな」

「結構いってた！」

「お前は結局､何歳だったんだ？」

「うわぁ～乙女の年齢聞くなんて、デリカシー無いわねぇ～」

　前世は主君の手前、護衛や公務関係でのみでしか会わず、お互いのことは余り話さずに終わった。

　お互いの年齢すら知らない関係だったことに、お互い今更ながら衝撃だった。余りにも知らなさ過ぎると。

「それはすまなかった。言いたく無ければ、構わない」

「何それ、聞いておいて放置？言うわよ！373歳よ！死んだのは375歳だった」

「結構、いってるな……」

　先程美奈子が言っていた言葉が、そっくりそのまま返ってきた。当たり前である。

　そして、片想いの初恋の女性が実は自身よりはるかに歳上だった事に少なからず衝撃でショックを受けた。

　しかし、それも遠い過去のこと。今は自身より歳下だ。その事実に、ホッとした。

「お互い様ね。それにしても私達、前世のお互いのこと実は全然知らなかったのね」

「そうだな。関係性を壊したくなかったのもあるが、やはり掟は絶対だからな」

「お互い、主君命だったしね。これからは、前世のことで気になっていた事、質問していこう！」

「そうだな」

　お互いのことを何も知らずに、想い合っていた事に改めて二人は愕然としたが、これからはずっと一緒に生きていける。何でも聞ける関係性を築こうと心に誓い合った。

「さて、次はロールケーキとバウムクーヘンよ！」

　前世のことを話しながら豆を年の数程食べ終わった美奈子は、次はスイーツだと早々に頭を切り替えて宣言した。スイーツを食べるのが嫌だった公斗は、先延ばしのためにわざと話題をふっていた。

　最も、本当に気になっていた事だったから聞いたのだが。そのお陰でそこそこ時間は稼げたし、有意義な時間を過ごせたとも感じていた。

「本当に食うのか？」

　流石に気が重いので、何とか回避したいと年を押してみた。

「私が、食べさせてあ・げ・る♪」

　目に見えて嫌そうなのが美奈子でも伺えたため、食べさせて上げることを思い付いた。

　その方法とは？

　フォークで適量を取って口に運ぶ、所謂“あ～ん”ではなく、自身の口に入れて公斗の顔に近づいてきた。

「んっ」

　互いの唇と唇が触れ合う。同時に、美奈子の舌が公斗の中へと入って来た。顔が近づいてきた時から何となく予想出来ていた公斗は、甘んじて受け入れ、激しく互いの舌を絡ませあった。

　久しぶりの美奈子とのキスに溺れて堪能したいが、ロールケーキの生クリームの味の甘さに、それを許さない。

　ただ、生クリームの甘さを置いても、美奈子とのキスは最高だった。美奈子からというのも、自分とこうしたいと思ってくれていたことが伝わり、嬉しい行為だった。

「はぁ〜」

　ロールケーキが無くなったのを確認した美奈子は唇を離した。

　そこに、まだ足りないと感じた公斗は、美奈子をぐっと抱き寄せ、最初から深く激しいキスを贈る。

　恵方を向いてはいないが、確かにこれだと黙って食べ切れると美奈子を堪能しながら公斗は思った。

「まだ、足りん！」

「ちょっとぉ〜、あたしは恵方巻きじゃないのよ！」

「やり始めたのは、お前だ。責任を取れ！」

「そんな、屁理屈な……」

　こんな節分の日なら悪く無いと、美奈子と甘い時を過ごした公斗は満足気にそう感じた。

おわり