セラムン二次創作小説『青春を取り戻せ!(クン美奈)』
梅雨が明け、真夏の太陽が容赦なく照りつけ始めたこの日、公斗は都内の高校へ来ていた。目的は、美奈子の最後の部活の大会を見るためだ。
美奈子から突然見に来るように言われ、渋々来たので気が重い。試合が行われる体育館の前まで来たが、入るのがはばかられて中々進まず立ち往生していた。
周りを見ると私服とは言え、まだ若そうな高校生が多く、公斗はやはり場違い感が半端ないと心の中でため息を着いた。
「来なければよかったな……」
社会人で老けている自分の余りの浮き具合に、ネガティブ思考が発動する。
しかし、ここで帰ると後々美奈子に一生恨まれた挙句、ネタにして揺すられると彼女の性格を鑑みてやっとの思いで思い止まる。
それに最後の試合になるかもしれない。部活にかけていて頑張っている姿も見ていた。
一度もプレーしている姿を目にしていないのも彼氏としてどうなのかと思い、単純に勇姿を見てみたかった。
「空いている所に座るか……」
彼女の応援より先に自分へ“頑張って座れ”とエールを送り、体育館の中へ入って空いている席にやっとの思いで座る。
「一本取ってこーー」
コートを見ると、まだ知らない高校同士が戦っていた。キャプテンと思しき人が大きな声で気合いを入れている。
「ありがとうございました!」
暫くして勝敗が着いたのか、お互いに礼をしてコートを去って行った。
負けた方は皆、泣いていた。当然だろう。最後の大会だ。何としても勝ちたいに決まっている。
そんなことを考えていると、赤いリボンに長い金髪が目立つ女子のいる高校が入って来た。ーーー十番高校だ。
目的の美奈子が出て来た公斗は、真剣な眼差しでコートを見据えた。
すると、視線に気づいたのか美奈子がこちらに顔を向けた。公斗が来ている事を確認した美奈子は、お得意のウインクとピースサインを送って来た。
「余裕だな」
余裕綽々な姿を見たい公斗は、自然と口角が上がる。
“ピー”と言う笛の音で、選手達は各々持ち場に着いた。美奈子は真剣な眼差しでポーズを取っている。
相手側のサーブで始まる第一試合の幕開け。手に汗握る戦いの始まりだ。
「よしっ」
相手のサーブを取ったのは美奈子だった。そこからもう一人がボールを上げて三人目が相手側のコートに入れる。
暫くラリーが続き、手に汗握る攻防戦。
「いけっ!」
点の取り合いが続く。
「なんて卑劣な!」
運動神経抜群の美奈子がこの党の要だと暫くして気が付いた相手チームは、美奈子ばかり集中攻撃して来た。
気付いてはいるものの、体力には自信がある美奈子は笑顔で応戦をする。
「卑怯な手を使いやがって……」
公斗は相手側の攻撃を見て、苦虫を噛み潰したように拳を握りながら悪態を着いた。
相手側の攻撃は絶妙で、コートスレスレを狙って打ってくる。腕っ節の良い頭のいい奴らの集まりだと公斗は察した。
「そこだ!」
強い相手に公斗の応援にも自然と熱が入る。我を忘れ、大声で叫び始めた。
「今だ!やれ!」
熱が入りすぎてしまいには立ち上がる始末。完全に冷静さを失っていた。
「クソっ!」
最初こそ静かに、それこそ借りてきた猫の様に大人しくしていた公斗だが、元々勝負事には燃えやすいタイプ。
高校を卒業して何年も経っていて、久しぶりに触れる試合と言う名の青春に、あの頃の熱い気持ちが蘇ってきた。
「そこで決めろ!」
気が付くと大きな声で応援するだけ出なく、立ち上がって身振り手振りで自分自身もやっている気持ちになっていた。
元来、スポーツ全般が大好きな公斗。勿論、バレーも例外ではなく、ルールは熟知していた。
そして、そこに来て真面目キャラ。前日までにバレーの試合を色々見て研究していた。
気持ちは最早、彼氏というより監督だ。
「行け、美奈子!」
この行動に驚いたのは本人。では無くて、周りに座って応援していた人達だ。
最初こそこ置物か?と言う程存在感を消していたのに、大きな声を出すわ、立ち上がりジェスチャーをするわ、感情剥き出しで我を忘れて応援してる大男に引いていた。
そんな周りの反応を知ってか知らずか、公斗は益々応援は過激になって行った。
「試合終了!」
“ピピーッ”と言う笛の音と共に、試合は終了した。美奈子達は、最後まで諦めることなく食い付いていた。
しかし、相手側はそれ以上に強かった。
文字通り高校最後の試合となり、美奈子のバレー部としての活動は終わってしまった。
前の試合とは違い、美奈子の目からは涙は流れていなかった。スッキリとやりきった凛々しい顔で公斗の方へと向き、ロッカーのある中へと戻って行った。
「頑張ったな、美奈子」
試合終了から20分後、選手達が出てくる出入口で待っていた公斗は、出て来た美奈子に声をかけた。
「頑張ったけど、負けちゃった」
無理に笑顔を作りながら、力なく短くそう呟く美奈子。
そんな美奈子に、公斗は優しく頭を撫でてやると、今にも泣きそうに顔が崩れて行く。
それに気づいた公斗は、優しく抱き締め自分の胸へと美奈子の顔を招き入れる。
「泣きたい時は、思いっきり泣け!」
「うっく、悔しい、よ……ひっく」
公斗にそう言われ、我慢していた物が一気に流れ出た。
暖かいその胸に安心した美奈子は、いつまでもいつまでも泣いていた。
「あーあ、公斗にあんっなにあっつぅ~い応援して貰ったのになぁ~」
泣き終わった美奈子は、試合中に公斗の応援が聞こえていた事を指摘した。
「聞こえてたのか?」
「そりゃあもう、引くくらい熱狂的な大声だったんだもん!」
そう美奈子に言われて初めて、自分が思っていた以上に大きな声で応援していた事を知り、穴があったら入りたい気分になった。
おわり
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