セラムン二次創作小説『デートしてあげる♡(クン美奈)』


「で?こんな所まで連れて来て、私をどうしたいのだ?」

すっかり暑くなり、夏間近に迫って来たある日。美奈子は石のクンツァイトをデッド・ムーンのアジトであるサーカステントへと連れ出していた。
呪いで病に伏せている衛に一言許可を得て持ち出した。
不服そうなクンツァイトを他所に、美奈子は楽しそうにしている。

「何よ?デートしてあげるって言ってんのに、あたしじゃ不満なの?」
「そうでは無い!こんな時にマスターから離れるのは気が引けるだけだ」
「素直じゃないわね。こんな時だからこそ、気晴らしが必要よ!」

デッド・ムーンの侵略からずっと呪いで病に伏せている衛。四天王リーダーとして心配するのは当然の事。
だが、それと同時に石で何も出来ずただ見ているだけしかできないことにクンツァイトは歯がゆさを感じていた。
こんな時だからこそマスターの傍で見守りたい。その気持ちとは裏腹に外へと半ば強引に連れ出され、クンツァイトは明らかに面白くなかった。

「何を強がっている、ヴィーナス」

気晴らしに敵地へとクンツァイトだけを連れ出す様な人間では無いとクンツァイトは思っていた。
責任感のある四守護神のリーダーだ。潜入捜査をするのであれば仲間やアルテミスを連れてくるはず。
しかし、今回はアルテミスさえいないばかりか、他の四天王の石には目もくれなかった。これは何かあると踏んだクンツァイトはカマをかけて見た。

「今はヴィーナスじゃないわよ!そもそも、今はそのヴィーナスにすら変身出来なくて悩んでるの。……どうすれば、良い?」

勝手に連れてこられ、不貞腐れて怒っていたクンツァイトだが、目の前の少女は素直に不安を吐露して落ち込む姿を余すことなく見せて来て動揺する。
今にも泣きそうな少女に、手を差し伸べる事が出来ずもどかしい。

「その事を、仲間の戦士は?」
「誰も知らない。みんな最初は私と同じで変身出来なかったみたいだけど、今ではちゃんと変身して戦っているわ。リーダーなのに最後まで変身出来ずに足でまといになるのは嫌!」

状況は深刻だった。誰より責任感のあるヴィーナスがたった一人、変身出来ずに悩んでいる。
状況は違えど、今の自身と似ている。力になりたいとクンツァイトは単純にそう思った。
仲間にも言えず人知れず悩んでいたが、抱えきれなくなり最終手段だとしてもこうして頼って弱っている姿を余すこと無く見せてくれている。男として、そしてかつてヴィーナスに恋い焦がれ慕っていたものとして単純にクンツァイトは嬉しく思った。

「白猫の相棒は知っているのか?」
「アルテミス?勿論よ。これは特別な変身だって楽観的に考えてるわ」
「そうか……」

決して楽観的に考えている訳では無いだろうが、美奈子が深刻に考えているから少しでも慰めになればとアルテミスなりの気遣いだろうとクンツァイトは考えた。

「このままじゃ、戦力にならないばかりか足でまといになっちゃう。うさぎを守れない……」

リーダーとして示しがつかないと美奈子は感じていた。
レイ達には言えない。実際、はるかやみちる、せつなに対して信頼していたし頼りにしていた。そんな中、“実は私、今変身出来ません”等とカミングアウトしたらどうなるだろうか。考えただけでも恐ろしかった。

「何の慰めにもならないとは思うが……私とは違い、お前はちゃんと生きている。マーズ達もそうだった様に、ヴィーナス、お主も必ず変身出来る。きっとその時まで力を蓄えているのだ。君は誰より責任感が強い。その事は誰より知っている。ずっと、応援している、ヴィーナス」
「クンツァイト……」

普段寡黙なクンツァイトが不器用ながら励ましの言葉を紡ぎ出してくれている。美奈子は、その事が凄く嬉しかった。
普段は何を考えているか分からない仏頂面を下げているが、こんなに心配してくれていると言う事実に胸がいっぱいになる。

「もう!何で石なのよぉ!」

こんな時、抱きついて涙を流せられたらスッキリするのにそれが出来ないことへのもどかしさに悔しさが滲んだ。
生身の人間であれば、もっと素直に甘えられるのに石であるが故に何も出来ない。

「それを承知で連れ出して来たのだろう」

美奈子の嘆きにご尤もなツッコミをする。

「そうだけど……」
「悩めるヴィーナス殿に免じて、今日は貴女におつき合いさせていただきますよ」
「ふふっ素直じゃん。根を上げたって知らないんだからね!」

そうして美奈子とクンツァイトは、デッド・ムーンサーカスへとデートと言う名の偵察へと仲良く向かった。

おわり

20230903 クン美奈の日

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