セラムン二次創作小説『あなたに届け、この音色(メロディー)』


今日もヴァイオリンの音色が家中に響いている。弾いているのはみちる。では無く、ほたるだ。

ここの所毎日毎日学校から帰って来て宿題を済ませて弾いていた。


「今日も頑張っているな」

「小さなプリンセスを想って弾いているんですって」

「……寂しいのね」


こんつめて毎日ヴァイオリンを弾いている理由。それは、発表会がある訳ではなくて未来に帰ってしまったちびうさを想って弾いていたのだ。

寂しいと言う事も勿論あるが、ほたるにはそれ以外にも違う意味があった。


それはまだほたるがサターンとして記憶を取り戻す前のこと。みちるのヴァイオリン教室で弾いていると、ペガサスとそれを追いかけ、泣いているちびうさの幻影が何度も現れていた。

未来予知とはまた違い、危機を察知して自身は何者であるのか思い出す様に導いていたに過ぎないが、ヴァイオリンを弾くと必ず現れた。


その事を思い出したほたるは、何とか幻影でも会えないかと考え、毎日毎日来る日も来る日もヴァイオリンを奏でていた。

しかし、やはり何か危機が訪れなければ現れないのか。ちびうさは現れてはくれなかった。

けれど、それでもほたるはヘコタレる事無くヴァイオリンを弾き続けていた。


「ちびうさちゃん……」


ちびうさは元気に修行と勉強をしているのだろうか?自分はちびうさにとって必要とされていないのだろうか?

幻影が出て来ないと言うのは、吉兆であるはずなのにほたるにとっては凶兆の様に思えていた。


「ちびうさちゃんの好きな曲じゃないのかも!」


それでもほたるは、前向きにヴァイオリンに向き合った。

ちびうさの幻影には会えないが、毎日弾いているお陰でかなり上達していた。傍で聞いていたみちるもほたるの上達に驚く程。難しい曲を弾けるほど、急成長していた。


「難しい曲も、間違えずに難なく弾いているのよ」

「へぇー、やっぱり成長しているんだな」

「その内私を超えるんじゃないかしら?」

「天才ヴァイオリニストの貴女を?」

「それくらい恐ろしいスピードで、成長しているのよ」


ほたるの急成長は、これで二度目だ。

赤ん坊だったほたるは、恐ろしいスピードで成長した。それと同じ現象がヴァイオリンでも今、されようとしている。


「まぁ、毎日アレだけ熱心に弾いていれば、上手くもなるよな」

「私が赤ん坊の時から子守唄として聞かせていた事もあって、ほたるは絶対音感の持ち主でもあるから」

「蛙の子は蛙って奴ね。貴女も負けていられないわね、みちる!」

「そうね。私も毎日レッスン頑張るわ!」


動機はどうであれ、毎日熱心にヴァイオリンを奏でて練習している事はいい事だとはるか達は思った。

楽器は毎日レッスンしないと感が狂うし、忘れてしまう。ピアノを弾くはるか自身も楽器への向き合い方は分かっているつもりだ。

しかし、ほたるやみちるの様に毎日出来るかと言われると別問題である。


「絶対音感、末恐ろしいな……」


頭もいいし、音楽の才能もある。その上、運動神経もはるかも驚く程あるほたる。才能に満ち溢れている若干まだ小学四年生の10歳の今世のほたるの将来は選り取りみどりで何にでもなれるとはるかは感じていた。


「今日は後一曲で終わろう」


時間も忘れ、一心不乱にヴァイオリンを奏でていたほたるだが、いくら弾いてもちびうさに会えないので諦める事にした。

最後にと選んだ曲は、“蛍の光”だ。ほたるの十八番で、〆にこれ以上打って付けの曲はないと毎日最後にこれを弾いて終わりにしていた。


「あら、そろそろ終了かしら?」

「その様だな」

「今日はいつもより早いのね」


ほたるの奏でるメロディは、心地が良く三人はいつまでも聴けると思っていた。


「お疲れ様、ほたる」


自室から三人がいるリビングへと降りて来たほたるにみちるは労いの言葉をかける。


「今日もちびうさちゃんには会えなかったな……」

「仕方ないわよ。今は未来にいるし、平和な日々だから」


私もスモールレディには会いたいけれど、時間軸が違うから仕方ないわ、とせつなも残念そうに呟く。


「また、きっと必ず会えるさ」

「そうだね!それまでもっともっと練習して色々弾ける様になっておかなきゃ」


いつになるかは分からない。確証もない。そんな未来を想いながらほたるは、その日の為に頑張ろうと決意した。





おわり





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