セラムン二次創作小説『留学するその前に(まもうさ)』


『留学するその前に』



もうすぐ衛さんはアメリカへ医学の勉強の為に留学する。うさぎちゃんが聞いたのは留学する一ヶ月近く前の事。それからほぼ毎日、衛さんと会っている。

そして、あっという間に後少しでその日を迎えるというある日、うさぎちゃんからのお願い事に私は驚いた。

「ルナ、まもちゃん家に一緒に来て欲しいの」

「そんな、私なんか行ったら邪魔でしょ?二人の時間、大切にして」

いくらうさぎちゃんの頼みでも、残り少ない二人の時間を邪魔したくなくて断ろうとした。

「まもちゃんからも、是非ルナも一緒にって言われているの」

「え?衛さんが?」

「だから、ね?お願い!」

衛さんからもそう言われたと知り、断る理由も無くなった私はうさぎちゃんに付いて衛さんの家へと行く事にした。

その日のうさぎちゃんの服装は、この前のデートで衛さんに買って貰ったと嬉しそうに言っていたセーラー服に似た胸のリボンが特徴的な濃いピンクと淡いピンクのワンピース。

「この服を着てきてほしいってまもちゃんに言われたの」

うさぎちゃんに似合うワンピースは衛さんの好みでもあって、旅立つ前に目に焼き付けておきたいんだろうと思った。


***


「いらっしゃい、うさ。ルナも、良く来てくれたね」

衛さんの家へ着くと、優しい笑顔で出迎えてくれた。歓迎されているとホッとした。

「こんな時にお招き頂いて……」

「気にすんなって!俺が来て欲しいって頼んだんだから。こっちこそ無理言ってすまない」

「ううん」

「さ、上がって」

そんな会話をしながら久しぶりの衛さんの家へと上がる。

リビングへ行くと、見慣れないアンティークな椅子が一脚目に付いた。そこに視線を集中しているとうさぎちゃんが口を開いた。

「あれ?家具が増えてる」

うさぎちゃんも知らない椅子みたい。その言葉から最近買ったことが伺える。

「ああ、うさそこに座って」

「え?いいの?」

「その為に買ったんだ。座ってくれると嬉しい。ルナも一緒に座ってくれ」

「え?私まで良いの?」

「ああ、うさの隣に寄り添ってやってくれ」

衛さんのお言葉に甘えてその椅子へと腰掛ける。その間、衛さんはリビングを出てどこかに行ってしまった。

「ふふっフカフカで気持ちいい♪」

「本当ね。それに、温かいわね」

そんな椅子の座り心地の感想を言い合っていると衛さんはリビングへと戻ってきた。

でも、その手には出ていった時には持っていなかったカメラを持っていた。

「まもちゃん、それは……」

いつぞやにうさぎちゃんが言っていた。まもちゃんはカメラが趣味で、私の事をしょっちゅう写して来るんだと。なるほど、そういう事ねと私はことの成り行きを察した。

「ああ、留学前にどうしてもうさを撮りたくて」

「まもちゃん……」

「うさ、笑って」

そう言ってカメラを構える衛さん。

けれど、中々シャッターを切らない。

どうしたのかとうさぎちゃんを見ると、笑っていない。と言うかこの場合、笑わない。笑えないのかな?

「うさぎちゃん……」

実はうさぎちゃん、アレから余り笑えていない。きっと衛さんの前でも寂しそうに無理して笑っているんだと思う。うさぎちゃんと違って衛さんは察しがいいから隠しているつもりがバレているんじゃないかな。

「ルナ、くすぐったいよ。アハハハハ」

うさぎちゃんには私も笑顔になってほしい。私の腰に当てていた手をペロペロ舐める。するとくすぐったくてうさぎちゃんは心からの笑顔で笑ってくれた。

「うさ、そのままこっち向いて」

万遍の笑みのうさぎちゃんに衛さんが慌てて呼ぶ。又とないシャッターチャンスに、衛さんはカメラを構える。

「うふふっ」

それに答えるように、うさぎちゃんは衛さんの方向を向いた。

「いい笑顔だ!」

そう呟きながら衛さんは必死でカメラを何度も切った。

「そのワンピース、似合ってるぞ」

「まもちゃんったら!褒め上手なんだから♪」

歯の浮くような台詞をサラッと言う衛さんにハニカミながら喜ぶうさぎちゃん。すっかり笑顔になって、左目を閉じてウインクまでしちゃって幸せそう。

一ヶ月振りのうさぎちゃんの心からの笑顔を見て、ホッと胸を撫で下ろした。

「うさに似合うと思って買ったから、当たり前だしモデルがいいしな」

「ありがとう、まもちゃん」

「愛してるよ、うさ。離れていても、ずっとうさを想っているから」

「まもちゃん……私も、ずっと大好き」

私がいても衛さんはうさぎちゃんに恥ずかしげもなく愛の告白をしていて、こっちが恥ずかしくなるわ。

きっとこの時の私は衛さんからしたら正に借りてきた猫と化してたのでしょうね。

「……ちょっと、トイレ借りるね」

慌てて席を立ってうさぎちゃんはトイレへと慣れたように駆け込んで行った。

「ルナ、うさを笑顔にしてくれてありがとな」

「ううん、私もうさぎちゃんの笑顔が見たかったから」

「……やっぱり笑ってないか、うさ?」

「ええ、留学するって聞いた日から笑顔が消えたわ。衛さんの前でも無理、してるんじゃない?」

「ああ」

「やっぱりね」

衛さんは気付いていた。だから、心配だったんだろうな。留学したいとは付き合ってから聞いていたけど、本当に留学する事が決まって納得してはいるものの、心が追い付いて来ないのだろう。

どんな事をしても笑顔にならないうさぎちゃんを笑顔に出来るのはずっと一緒にいた私だけと考えたのか。ここまでの事を予想出来ていたかは定かでは無いけれど、衛さんから信頼されたから今日、ここに招待されたのかもしれないと私は推測した。

「ルナ、これからもうさの事、よろしく頼むよ」

「勿論よ」

「我儘言っても、大目に見てやって欲しい」

「分かっているわ。私だって、鬼じゃ無いのよ」

「そうだな。頼りにしているよ、ルナ」

以前の、翔さんに恋をする前の私だったらきっと分からなかったうさぎちゃんの恋心。今は充分過ぎるほど分かるから、落ち込むなとかガミガミ言えない。

それに衛さんから信頼されちゃあ弱いわね。裏切るわけにはいかないもの。

「気を付けて、行ってらっしゃい。勉強、頑張ってね」

「ああ、ありがとう」

私が衛さんが旅立つ前に会えるのは多分今日で最後。だからエールを送る。

衛さんなら絶対、大丈夫。そう思っていたのに、旅立つ日にあんな事になるなんて、幸せの絶頂にあった私達は思いもよらなかった。





おわり




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