セラムン二次創作小説『ぴんきーぱにっく(まもうさちび)』


“セーラームーンは無敵だよ”

物心着いた時から父であるキング・エンディミオンから繰り返しクイーンが昔戦士だった頃の話を御伽噺の様に自慢話として聞かされていたスモールレディは、いつしか過去の両親に焦がれてよく夢に見るようになっていた。


この日もいつもの様に“伝説の戦士セーラームーン”に助けられる夢を見て目が覚めたスモールレディは眠気眼に全く見覚えのない部屋のベッドで寝ていた事に気付き動揺する。


寝ていたベッドの傍らでは心配そうにスモールレディを覗き込む顔が2つ、衛とうさぎだ。


「良かったぁ~、気がついた?」

「あたし…」

「何も覚えてないのかい?空から落ちて来てそのまま気絶したんだ」


見覚えのない部屋で、知らない人にとても心配されてわけも分からず混乱する。混乱している頭で気絶する前の事を必死で思い出そうとするも当然何も覚えておらず、落胆する。


正にここは何処?私は誰?状態である。

最も、自分は誰だかはちゃんと分かっているスモールレディだが…。


☆☆☆☆☆


それは数時間前に話は遡る。


多忙を極めるキングとクイーンだが、この日はスモールレディと過ごそうと思いスケジュールを調整して1日休みを取っていた。

と言うのもこの日は3月3日の桃の節句、正にピンク色の頭のスモールレディにピッタリな日だった。

イベント事が好きなクイーンがどうしても娘と過ごしたいとキングを口説き落とし、ヴィーナスやクンツァイト達を説得して頑張って勝ち取ったたった1日の休みだった。


束の間の休みでもとても嬉しくて、ずっと2人を連れ回し遊んでいた。


それはとても穏やかな日常で、平和そのもの。


クイーンが地球を統司してからはずっと平和な日常が続いていて、天候は銀水晶でコントロールされているからずっと天気はいいし気温も丁度よく調整されていた。


時空もプルートが絶えず守っていて、全く異常もなく平和そのもの。


しかし、何の異常も無かったはずなのにスモールレディたった1人が何故か過去に飛ばされてしまった。


☆☆☆☆☆


自分の置かれている状況に全くついていけず、気絶する様に寝てしまったスモールレディはまた夢を見ていた。


パパとママに手を引かれ、笑顔で楽しむ自分の夢。

それは数時間前の紛れもない3人の姿。


目が覚めたら元の世界に戻ってパパとママと一緒にいて楽しんでいるんじゃないかと期待をしながら目覚めたが、その淡い期待は脆くも崩れ去ってしまった。


「君はスモールレディ…だね?」


こくりと頷くスモールレディは、考える力を総動員して、やっとの思いで言葉を紡いだ。


「あたしを知っているの?やっぱりここって…」


その先は流石に続けられなかったが、それを察したうさぎが言葉を受け取り続けた。


「少し成長したあなたが数年前に何度かここに遊びに来たのよ?」

「今の君と同じでその時は俺ら2人が驚いてたんだけど、今回は逆みたいだな?」


優しく微笑みかけ、不安な表情をしているスモールレディを柔らかく包み込むうさぎと衛。


「ねぇ、せっかくだからこの時代の麻布十番を少し散歩してみない?あっちとだいぶ違って楽しいよ?…って言っても私もあっちの世界はほとんど未体験なんだけどね笑」

「取り敢えず気晴らしにって事で、どうだい?」

「…行ってみよっかな?」

「OK、決まりだな!」

「今日はね、こっちの世界では桃の節句って言って雛人形を飾って女の子のお祝いをする日なの。見に行かない?と言っても家に来るとママ達が混乱しちゃうから火川神社言ってみよっか?神社も珍しいよね?」

「だな。よし、決まり!行こうか!」


行き先が決まり、衛のマンションを後にする3人はスモールレディを真ん中に挟み、手を繋いで火川神社に歩いて向かう。

その姿は他の人から見ると仲睦まじく親子そのものだ。

道中、うさぎはレイに事情を説明して許可を取っていた。


「レイちゃん大丈夫だって♪雛人形はみんなで飾ってるからあるし大丈夫だけど、和永さんもいるみたい」

「びっくりするだろうけど、前に話したから大丈夫だろ?」


雑談しつつ向かう衛とうさぎだが、混乱と不安からか無口に2人の話を大人しく聞いていた。



火川神社に到着すると衛がスモールレディを抱っこして長い石段を昇る。

小さなスモールレディには自分で登ることが出来ないと判断した衛の計らいだ。


階段を登りきったところでレイが和永と待ち構えていた。


「いらっしゃい、スモールレディ」

「この子が前に衛達が話してた例の…?」

「そう、未来から飛ばされてきてしまったみたいだ」

「どうなってるんだ未来は…恐ろしい」


静かにみんなのやり取りを聞くスモールレディは、この2人も見覚えがあるから若かりし頃のマーズとジェダイトだとぼんやり考えていた。


「中に入って雛人形見ていって」


案内され、雛人形が飾られている部屋に入ると、とても立派な雛人形に圧倒されて驚くスモールレディ。


「うわぁー、すっごい!こんなの見た事ない」


漸くこっちの世界に来て元気が出たのか純粋に驚き、興味津々で雛人形を食い入るように見る姿を見て衛とうさぎは心底ほっとする。


「パパ…ママ…」


ふと我に返り、寂しくなってしまったのか突然泣き出してしまった。

思えばこっちの世界に来てから戸惑いはしているものの、泣く精神状態ではなかったのか涙を見せていなかった。

ここに来てほっとして両親が恋しくなったのか、緊張の糸が切れたように泣き続けた。

その間、優しく寄り添ってあげるうさぎと衛は、そんなスモールレディを見て未来に返してあげる事を決意した。


「お家に帰りたい?」

「パパとママに会いたい…」

「じゃあ、帰ろっか?」

「そんな簡単に帰れないだろ?どうするんだよ?銀水晶か?」

「フッフッフップルートから貰った鍵があるのよ!これで帰りましょ♪」

「そんなもの持ってたのか?よく無くさないで持ってたな?」

「銀水晶と一緒に大切に保管してたもん!」

「…あたし、帰れるの?」

「そうよ、しっかり送り届けてあげるからね!」

「大丈夫なの?とっても心配だわ」

「大丈夫だ。俺も着いていくから」

「けど、2人ともキングとクイーンには見つからないようにしなきゃいけないのよ?」

「あっちのプルートに預けるから大丈夫だって!」


どこから来るのか自信満々のうさぎに不安しかないレイ。衛も着いているとはいえ、心配しかない。


「じゃあレイちゃん、和永さん、お邪魔しました!ここで時空の鍵使って行っていいよね?誰もいないし」


横着にも火川神社で飛ぼうとするうさぎに頭を抱え、より一層の不安を募らせる。


「では行きます!…ってあれ?呪文って何だっけ?私、知らないや。アハハハハハァ~」


一同、大ゴケである。


「…時の衛人よ 時空の扉 天空を裂き 我に開け放てー我は汝の真の名を呼ぶ 全能なる時の神ー衛人の父ー『クロノス』よ 我を導きたまえ 我を守りたまえ 光の道を我に!」


すっとぼけて頼りないうさぎからスモールレディが鍵を取り、呪文を唱える。

うさぎと衛は驚いたが、流石プリンセスとしてしっかりと教育を受けていると思った。

そして時空の狭間が開き、吸い込まれて行った。


しばらく時空を飛んでいたが、予定通り扉が見えて来てホッとする。

そしてうさぎはフッと思い出した。この時代のプルートはあの戦い以前のプルートだから自分たちを認識していないのでは?と。

また消去されそうになるのは嫌なので見えない位置でお別れする事にした。


「スモールレディ、私達はここまででお別れにするわ。パパやママ、マーズ達によろしくね」

「元気でな、スモールレディ」

「ありがとう、過去のパパとママ。さようなら」


笑顔でさようならの挨拶をしてその場を駆け出してプルートが待つ時空の扉を目指すスモールレディ。


合流するのを見届けた衛とうさぎはホッとして元の自分たちの時代へと時空の鍵をせつなへ意識を集中させて帰って行った。


元の世界に戻ったスモールレディはプルートの元へ心配して来ていたキングとクイーンに出迎えられ、無事クリスタルトーキョーへと帰ることが出来た。


何故自分だけが時空を超えてしまったかは謎だが、過去の両親を見たいと言う潜在意識が飛ばしたのかもしれない。





おわり



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