セラムン二次創作小説『国家秘密の恋(クン美奈)』


ある日、出張から帰って来て職場に直接出社した俺は、出入口付近で野次馬が出来ていることに気付いた。

何だろうと思いながら通り過ぎようとした時、会話が聞こえてきた。


「やっぱこの子、可愛いよなぁ~」

「分かるわー。美人でスタイルもいいし、サイッコー♪ソソるわ」


何やら啓発ポスターのイメージキャラクターを見て騒いでいるらしい事が分かった。

フッ低俗な。どこの芸能人かは知らんが、美奈子以上の美人の上玉など存在しない。そう心の中で軽蔑の意を毒づいていた。その時だった。その中の一人が呟いた名前に、俺は驚愕した。


「うんうん、美奈子エロいよなぁ~」


美奈子、だと?まさか、なのか?いや、そんな名前は五万といる。落ち着け。同じ名前の他人だ。

一気に早鐘が鳴る心臓と動悸を人知れず落ち着かそうと深呼吸をして、ポスターを見て見る事にした。


「オカズになるプロポーションだよな♪」


男ばかりの会話では決して珍しくも無い、下ネタトークで盛り上がるポスター前。

美奈子が誰なのか気になった俺は、意を決してポスターに視線を移した。そこに映っていたのはーーー


なんと、俺の唯一無二の彼女ーーー愛野美奈子、その人だった。

嫌な予感的中と言ったところだが、美奈子はアイドルとして、そして一芸能人として事務所イチオシで順風満帆な芸能生活を送っていた。

政府が掲げる政策のイメージキャラクターとして抜擢され、ポスターを飾る仕事をしていてもおかしくは無い。何ら問題はない。

芸能界と言うところがどの様なところかも分からぬ俺如きが、彼女だと言うだけで仕事に口を出すなどあってはならない。美奈子を信じて一任している。


しかし、まさかこう言った形で美奈子が俺の仕事に関わってくるとは思いもしなかった。それも、何故か水着姿で露出度が高い格好で。

お陰で同僚達の聞きたくない部分を聞くことになるとは思いもしなかった。美奈子で、人の彼女で……等、胸糞悪いにも程がある。


「おう、西塔!お前も愛野美奈子ファンか?」


ポスターの前で凝視して固まっていると、ファンと勘違いされ、同僚に話しかけられてしまった。参ったな。どう説明するべきか悩む。


「いや」


短く答えることにした。職場でも無口で余り喋らないキャラで通している為、この返答でも怪しまれない。逆に喋りすぎる方が怪しいと言うものだ。


「相変わらず素っ気ねー。ま、お前のタイプとは違いそうだな。どっちかっつーと落ち着いた美人が好きそうだもんな」


おい、俺のタイプを勝手に決めるな!

誰が落ち着いていない美人だって。まぁ当たってはいるが、コイツはお前が知らない所に色々魅力がある。ほっといてくれ。


「こんな美人と付き合いてぇ」

「どんな奴がタイプなんだろうな?」

「恋人いるんだろうか?」

「うわぁ……彼氏がいるとか、考えたくねぇ」


結局はそこなんだな。分からなくは無いが、芸能人なんて所詮は高嶺の花と言う奴なのだから諦めろ。

そして、自分達の顔を見てから言え。まぁ、頭は申し分ないし、国家公務員と言う事で言えば普通の人より見込みはあるが。


「この子に彼氏がいたら、どうなんだ?」

「殺す!」


軽い気持ちで質問して、後悔した。これ以上ない程に低い声で最悪の単語が出てきたからだ。

芸能人のファンと言うものは、恐ろしいと感じた。そんなに好きなのか?

美奈子の彼氏として、これ程好きになって貰えているのは鼻が高いが、同時に危機感と命の危険を感じた。


「つーか、アイドルなのに彼氏いるとか、反則だし」

「有り得ねぇよな?裏切られた気分」

「例えいたとしても上手く隠して欲しい」


アイドルと言う存在は、恋人を作っては行けないと言う鉄の掟、暗黙のルールがあるらしい。

芸能界に関して余り詳しくは無いが、これは益々“俺が彼氏だ”と言わない方が良さそうだ。

俺たちの場合は、美奈子が芸能界に入る前から付き合っているのだから多目に見てほしいが、ファンにとってみればそれも裏切り行為に当たるのだろうな。


「とは言っても年頃の女だ。恋はしたいだろう」


こんな過激なファンのせいでアイドル、芸能人は理想のキャラクターにならなくてはいけないとは何とも悲惨な職業だと感じた。

どこまでが許容範囲なのか、探る。


「人を好きになるな!とは言わないが、熱愛報道はやめて欲しい。心が死ぬ」


なるほど、人を好きになることは止められないから仕方が無いが、付き合う事は許さないということが。やはりファンとは厄介な奴らだ。

自分がモテず彼女が居ないからと言って、それを好きな芸能人にも求めるなど、愚の骨頂。自惚れもいいとこだ。


しかし、そうか。芸能人のファンの実態を知ってしまった以上、細心の注意を払う必要がある事を知れた。


前世では“神の掟”の下、付き合う事すら許されず心を通わす事すら出来なかった俺とヴィーナス。

だが、現世では“神の掟”は無くなり、堂々と付き合えていたが、まさかここに来て障害が発生すとは思いもしなかった。


“美奈子と恋人関係にある事は秘密事項”


別に言うつもりも無かったが、益々公表は出来ない。

美奈子の立場もあるが、俺にも立場はある。

俺と付き合っている事もだが、恋人がいる事も口を滑らせてはいけない。美奈子にも、くれぐれも恋人がいる事や、そう言った類の発言は慎む様言って聞かせ、自分が置かれている状況を把握させておかねばならない。


しかし、堂々と付き合えると思っていたが、こんな所に落とし穴があったとは考えてもいなかった。

芸能人ってのも結構大変だが、堂々と出来ないのも辛いものだと改めて思い知った。





おわり




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