セラムン二次創作小説『泡沫蝉時雨)
いつだって5人は一緒だった。
王子が月の王女と逢瀬を繰り返すまでは。
小さい頃からエンディミオン王子の側近として仕えていたジェダイト、ネフライト、ゾイサイト、そしてクンツァイトは腕っ節も然ること仲間ら、元気いっぱいで有り余っていた。
それは幼いエンディミオンも同じで、明るく活発などこにでもいる男の子だ。
そんな5人が集まれば忽ちやんちゃ軍団と化す。
今日もまた5人は活発に遊んでいる。
「セミが鳴いてるぞ」
1番のやんちゃ坊主のネフライトが、迷惑な程に鳴いているセミに反応する。
「ネフライトは昆虫好きだよなぁ~」
「煩くて暑苦しいセミなんて、鬱陶しいだけだろ?」
「頑張って生きてるセミになんて酷いことを言うんだよ、ジェダイトもゾイサイトも。マスター、リーダー、2人に何か言ってやってよ!」
「何とかって言われてもなぁ……なぁ、クンツァイト?」
「確かに煩くて鬱陶しいしなぁ……」
「2人まで……」
庭園近くで遊んでいるとあちこちでセミの鳴き声が聞こえる。
同時に鳴かれると鼓膜が破れるのではないかと思う程煩くハミングしている。
「何処にいるんだろう?」
四天王の中でも成長著しく、背の高いネフライトは、その身長を活かして木に止まっているだろうセミを探し始めた。
「見つけても逃げられると思うけど?」
「そーっと近づけば大丈夫だろう」
繊細さの欠片も無い豪快な男地球一みたいな奴が静かに近づけるとは4人は思えなかった。絶対、逃げられる。それが4人の共通予想だった。
「やめとけよネフライト。お前が捕まえられるとは思えない」
「失礼な奴だな!見てろよ!絶対!捕まえてやるから」
捕まえてやるどうするんだろうと4人は思っていた。
しかし、売り言葉に買い言葉で負けず嫌いのネフライトは物置小屋から虫取り網を人数分持ってきて全員に渡した。
「何だよ、これは……」
「虫取り網だけど?」
「俺たちも捕まえなきゃいけないのかよ?」
「時間内に多く捕まえた奴が少なかった奴の言う事を聞く!」
「何でもいいのか?」
「ああ、何でもいい!ノリがいいな、流石はリーダー♪」
「お前たちに勝って絶対、従わせてやる!」
「あーあ、面倒くさい事になったな……」
「クンツァイトはリーダーだから負けたくないんだよ」
「普段から従わされてるのに、ゲームに負けても従わされるとかどんな地獄なんだよ……。俺、負ける気しかしない」
「ジェダイト、気持ちで負けちゃダメだ!このゲームをした事を後悔するほどセミを捕まえれば良いんだよ」
セミの数を競っての所謂王様ゲームを開始しようとした所でベリルが通りかかった。
5人よりも歳が上のベリルにしてみればみんな可愛い弟の様なもので、虫取り網を持った5人を姉のような眼差しで遠くから傍観していた。
気配に気付いたのか、ジェダイトがベリルが立っている方向に顔を向けてきた。
「ベリル姉さん!」
この宮殿に遣わされて1年程だが、最初からジェダイトはベリルに懐いていた。
そっちのけでベリルの側までやってきて話しかけてきた。
「ジェダイト、何やら楽しそうだね」
「うん、セミの数を競うんだって。ネフライトが勝手に盛り上がってる」
「ネフライトらしいな」
「困ったもんだよな。クンツァイトもノリノリで……」
「リーダーとして負けたくないのであろうな」
「俺も頑張るから見ててよね!」
「ああ、負けないように頑張りな」
ベリルに応援され、ジェダイトは俄然やる気が漲ってきた。
不思議だが、ベリルから応援されると力が湧き上がってくる感覚がする。魔導師だからだろうか?
そんな事を思いながらセミを獲ることに必死になっていた。負けて命令を聞きたくない一心で。
そんな5人の姿を微笑ましく見守っているベリルは、いつまでもこんな日が続けばいいと願っていた。
やがて主従関係となり、王子を支えなければならない四天王。王子となり、地球国を反映させるべく公務に明け暮れる日々が訪れるその日まで。
こんな普通の日が続けばと想うベリルだった。
おわり