セラムン二次創作小説『サシ飲み(クン美奈)』



ある日の夜、公斗は西麻布の雰囲気の良いバーである人物を待っていた。


前世からの美奈子の側近である猫のアルテミスだ。


と言っても猫の姿のアルテミスと店では話す事は出来ないため、自由自在に人間化出来る身体を活かしてバーに来るよう伝えていた。


呼び出したのは他でも無い、公斗本人だ。


そして呼び出したのにはちゃんとした理由がある。


話しておきたい大切な事があったからだ。


どうしても話さないといけないと思い、呼び出すことにした。


予定より早く着いてしまった公斗は一人で今後の話をどう話そうかと考えながら一杯ウォッカを飲み干す。


全く美味しくもない考えをアテに飲んだ為、どこに入ったかわからず微笑する。


「すまない、待たせたな」

「いや、こっちが呼んだんだ。気にするな」

「それもそうだな。ここに来るまで色々大変だったからな」


人間化した待ち人、アルテミスが約束の時間より少し過ぎて到着し、公斗に謝りながら隣の席に座る。


聞くところによると美奈子を捲くのが大変だったり、ルナに口裏合わせてもらうのに苦労したり、更には人間化するタイミングを逃して手間取って遅くなったとの事だった。

コイツはコイツで色々と苦労をしているようだ。同情はしてやらんが。


「それは大変だったな」

「美奈にはルナとデートだって言ったら“良いわねぇ~ラブラブで!コッチはバイトだって相手にして貰えないってのに!”って嫌味言われたよ」

「それは苦労かけたな」

「仕方ないさ、言う訳にはいかないだろ?」


それもそうだ。まさかそのバイトの俺がコイツを呼び出したのだから。きっと話すと「2人だけってズルくない?私も混ぜなさいよ!」とか「もしかして2人ってそーゆー関係?出来てんの?」とどんどん話が逸れるのが目に見えてわかる。

そして話の内容が美奈子の事なのだから言えるわけも混ぜる訳にもいかない。


「で、俺をこんな所に呼び出して話って?…まぁ大体想像は着くけどな」

「ああ、もうアイツから聞いているとは思うが、俺と美奈子、付き合う事になった」

「ああ、美奈から聞いた。…で?それだけか?」

「俺の口からも直接お前に報告しておきたいと思ってな。前世からの美奈子の相棒であるお前とは1度ゆっくり話す機会を設けなければとも思ったからな」

「俺は話す事は特に無いけど」

「まぁそう言うな。1度も2人でゆっくり話した事が無いだろ?この機会でもないともう二度とない」


そう、前世から今に至るまでコイツとはサシで話したことは一度もない。

いつも美奈子、もしくはヴィーナスがそこにいて彼女を介してのみの関係だった。


別に今までは話す必要も無ければ話したいとも思っていなかった。

最も、俺とて今も別に話したい訳では無い。

美奈子と付き合う事になったから話す必要があると思い男同志腹を割って話す機会を設けたに過ぎなかった。


当のコイツもまた嫌そうな顔をしているが、きっと話したいことがあるはずと感じた。


「まぁ、それもそうだな」


せっかく苦労して来たからにはこれだけで帰るのも嫌だったのだろう。渋々会話をするのに了承したのか俺と同じウォッカを飲みながら話に乗ってきた。


「美奈子の事は大切にする」

「当たり前だ!大事にしてくれないと俺が許さないからな?」


今まではなんでもない風を装っていたが、やはりずっと美奈子の傍にいただけあり、色々複雑で思うところがあるのだろう。途端に攻撃的な雄猫の顔になって凄んできた。

コイツもまた美奈子を大切に思っていて心配しているんだろうことが分かった。

そして入り込めない絆のようなものも雰囲気で瞬時に感じ取ってしまい、嫉妬に駆られる。虚しいだけだと言うのに。

俺とは全く違う、愛や恋とは違う古から彼女の側でずっと見てきた相棒としての家族以上の感情だ。分かっていながらも入り込めない時間の長さを感じてどうしようもない感情に埋め尽くされてしまう。


「分かっている。心配するな」


前世からずっと恋焦がれていた。

互いに主君を護るリーダーと言う立場上、想いを伝えること無くクンツァイトとしての前世の生涯は幕を閉じた。

だが、再転生して全ての記憶を取り戻し、マスターを護りたいのと同じようにヴィーナスを愛していたこと、そして同じように今の彼女である愛野美奈子をヴィーナス以上に愛しく思った。

そんな太古の昔から焦がれていた彼女とやっと恋仲になれたのだから傷つけるようなことは絶対にしない。神に誓ってだ。

それに彼女は愛の女神だ。跳ね返ってきそうである意味怖い。


「美奈はこれまで色んな事を我慢して来たんだ。恋も夢も。前世のプリンセスであるうさぎを護るリーダーとして、ずっと頑張って来た。最初は恋もしていたけど、尽く失恋していて、それでも明るくしてて見てて痛々しいこともあった」


コイツ曰く、それでも戦士として目覚めた当初は前世の記憶は無く、惚れっぽい性格で色んな男を好きになっては叶わず、それでもへこたれることなく前向きに頑張っていたとの事だった。

前世の記憶を取り戻してからは恋を封印し、主君であるプリンセスを護るリーダーとして責任感を持ち、戦士として立派に敵と戦ってきたという。


知っている。前世もそうだった。ずっと見てきた。誰よりも姫思いで責任感が強く、決して弱みを見せないし、妥協を許さない。そんな彼女だからこそ惹かれたのだから。

そしてそれは現世でも変わっていないことは敵の手に落ち、実際戦って分かった。姫を傷つけようとした俺を躊躇無く殺した。前世でも同じだった。他でも無いヴィーナスが洗脳して闇落ちした俺を殺して解き放ってくれた。


きっと俺と再会するまでうさぎさんを次から次に現れる強敵から並々ならぬ思いで守ってきたのだろうことは容易に想像出来る。


「でも安心しろ。美奈はお前にずっと惚れてるよ。今まで好きになってきた奴らは何処と無くお前にそっくりな奴ばっかりだったよ。男にモテて何人かは付き合ってたが、やはりお前の事忘れられなかったのか長続きしない中途半端な恋愛だったよ。そこんとこよろしく頼むよ」

「そうか」


よろしく頼まれたのと、美奈子がずっと俺を潜在的に俺を求めてくれていたことが単純に嬉しくなり、顔は真顔のまま心で喜んだ。


「まぁ俺も似た様なもんだ。過去の恋愛は散々だった。今思えば美奈子を潜在的に思っていた事、マスターを大切に思っていたことを相手に見透かされていたのかもしれんな」

「そうなのか?結局お前達は主君命だから本気の恋が出来にくくなってたのかもな?美奈に関しては愛の女神なのに叶わない恋ばかりなのは相棒として傍で見てて痛々しかったよ。幸せにしてやってくれよな!」

「ああ、幸せにすると誓うよ」

「美奈は愛の女神だけど恋に免疫ないし、素直になれないことも強がる事もあると思うけど、受け止めてやってくれ。まぁ美奈もお前の前では弱みも見せるかもしれないけど」

「受け止めてやるさ、心配しなくとも」


まるで心配性の親父のように美奈子の事を説明して来るコイツにちょっと若干イライラする。

そんなに俺が頼りなく見えるか?

とは言え、ずっと傍で何でも見てきた奴が自分以外の奴と付き合うんだ、心配しない方がおかしいし気持ちは分からなくもない。


これから先、美奈子と俺が何かあったら確実にコイツにすぐにバレるのも目に見えて分かる。美奈子自身も態度に出やすいことは分かっているし、何より一緒に住んでいるからな。今までもそうだしこれからもだろうから仕方ないが人間化出来る異性が同じ屋根の下に住んでるのはモヤモヤする。何かないとも限らん。まぁコイツにも恋人がいて子供がいる未来があるらしいから、万が一って事はないと信じたい。


「お前は美奈子の事はどう思っているんだ?恋愛感情は無いのか?」

「無いね!色々知りすぎて女として見れない。いい女だとは思うけど、俺はルナ一筋さ!大切な相棒でそれ以上でも以下でもない。安心しろ。育ての親みたいなもんだからな。美奈も俺に対してそんな風には思ってないよ。ぞんざいに扱われてきたからな…。お前はどうなんだ?」

「前世から変わらずずっと、愛してる。これからもこの想いは変わらない。美奈子以外は考えられない」

「そうか、それを聞いて安心したよ。2人とも大人だからな、あんまり干渉したりしないから上手く付き合って行ってくれ」

「ああ、分かったよ」


おそらく全てコイツの本心だろう。恋愛感情がない事が聞けてホッとした。余り干渉しないとか言ってたけど、きっとこれは無理だろう。心配性のオヤジだからな。


「で、お前の散々な恋愛って?」

「もう勘弁しろよ…」


腹を割って男同志話が出来たのは有意義で、言いたい事や聞きたかったことが聞けたからこの場を設けたのは間違ってなかったが、もう二度とサシ飲みは勘弁だと思った。

意地悪な顔で過去の恋愛を聞こうとしてきたコイツの顔を見てどっと疲れた。


しかしこれで何の蟠りもなく美奈子と堂々と付き合う事が出来る。

まず初めの難関は突破したという事でとりあえずホッとした。


美奈子との関係はこれから共に付き合っていく中で築き上げていけばいい。ゆっくり俺たちのペースで絆を深め、時間を共有し、思い出を作って行ければと思う。


「冗談だよ。お前の過去に興味無いよ」

「それは良かった」

「…でも、もし万が一お前が美奈を傷つけたら俺が美奈を貰うから、覚悟しとけよ?」

「やっと本心見せたな?肝に銘じておく」


やはりコイツは侮れない。

しかし、何があっても俺はこの先美奈子だけは譲らない。離さない。例え何かを犠牲にしてもーーーー。

但し、衛は別だがーーーーー。



おわり



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