セラムン二次創作小説『Heart of Sword(クンヴィ)』



シュッバサッシュシュッシャッ


「ハッ!フッ!ヤァー!ハァー!」


この日、クンツァイトはいつに無く真剣に剣の稽古に励んでいた。

その顔に余裕など無く、まるで鬼の形相。

そして鬼気迫る感じで剣の素振りをしていた。


「クンツァイト、今日はいつも以上に精を出してるな。この前ヴィーナスに負けたのがそんなに悔しかったか?」


そこにゾイサイトが通りかかり、凄いオーラを放ち素振り稽古をするクンツァイトに話しかけた。


「この前は怠けていたツケが回って来た。ただそれだけの事だ」

「素直じゃないなぁ……。ま、そういう事にしておいてやるよ」


ゾイサイトの言う様に、この前ヴィーナスと手合わせをした。

護衛でも何でも無いのに地球へと降り立ち、真剣な面持ちで申し出てきた。


「クンツァイト様、剣のお手合せをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」


コイツは本当にヴィーナスなのか?と疑いたくなる程丁寧な口調とスマートな働きで頼まれ、思わずOKしていた。


「御意」

「ありがとうございます」


丁寧にお礼を言い、頭を垂れて礼をしてくるヴィーナスに、なる程やはり彼女もまた王族である事を思い知る。

手加減はいりませんと言いながら手合わせを始めると、そんな余裕などまるで無くなる程強い腕っ節に驚きを隠せなかった。

女だと思って油断していたが、考えを改めさせられるほどの腕前に感嘆の意を示す。


カキーンッ!シャッ!


女性特有なのか、身のこなしがしなやかで無駄な動きが一切なく、優雅な剣さばきに思わず惹き付けられそうになる。

きっと毎日欠かさず鍛錬を怠らず、努力した結果なのだろう事が伺え、尊敬すら覚えた。

“女性だからって甘く見ないで頂戴”そんな言葉が聞こえてきそうだ。

俺とて別に甘く見ていた訳では無い。

ただやはり何処かでヴィーナスは女だから手加減してやろうと言う気持ちは持ち合わせていた。


しかし、ここまで剣の腕前を見せ付けられてはこちらも敬意を示して全力で今持てる術をぶつけなければならない。雑念は無用。まさに真剣勝負。

手加減しても勝てないし、手を抜くのは剣士として廃る行為でもある。

戦士としてのプライドも高く、身体能力も高いヴィーナスに手加減と言う同情等は一切必要無い。そう感じていた。

真剣な面持ちのヴィーナスを目の前に手加減は彼女を侮辱する行為に値する。


「ハァッ」

「クッ」


ヴィーナスがより一層力を加えてきてこちらの剣に体重をかけてくる。

何処にそんな力があるんだ?恐ろしい奴だ。

剣を持つ腕は細く、筋肉等着いている様子はない。

軸となる足はピンヒールで高く、中々踏ん張りが効かなそうに思うし、脚も腕と同じで細い。ーー一体どこにそんな力が……?


「フゥッ」

「キャッ」


やっとの思いで力いっぱい押してヴィーナスを何とか自分から離した。

勢い良く回転したが、すぐに体制を整えこちらに向かってくる。


キィーン!


再び剣が交わりまるで十字架のように重なり合う。力と力の戦いに両者1歩も譲らぬ攻防戦。

この場において勝つのは恐らく耐久性、持久力のあるものだろう。

どちらともなく十字に交わったままの剣をそのままに歩を進め、その場をクルクルと回る。

睨み合い駆け引きが始まる。


「ハァッ!貰ったぁ」


ドサァッ


一瞬の隙を狙い仕掛けた俺は勝った、そう思っていた。

しかし、実際勝ったのはヴィーナスだった。

地面に盛大に尻もちを着いて何が起きたか分からず呆然としている俺の目の前にはヴィーナスの聖剣の尖端が既の所で止まっていた。


「勝負あったようね?」


ヴィーナスは左手は腰に当てて笑顔で、しかし、息も絶え絶えに清々しい出で立ちでこちらを見下ろしていた。

勝った、そう思っていたが実際は負けていた。

事態を把握出来ず、俺は負けた事が受け入れられ無かった。俺が尻もち……だと?

女に負けた?この俺が?

地球じゃ負け知らずとして君臨して来たこの俺が、月の住人の、それも女に負けた?

プライドが許さなかった。

しかし、今持っている全力で戦い負けたと言う事実は“上には上がいる。精進せよ”との思し召しのようで、鍛錬に精が出るというものだ。身が引き締まる思いだった。

手加減して負けていたらもっと悔しいだろう。


ヴィーナスの腕前は確かな物だと証明する形にもなった。

プリンセスの側近リーダーをしているだけあり、強い。


「やっぱりクンツァイトは強いわね」


そう楽しそうに言いながら手を差し伸べて来た。

一瞬、その手を取りそうになったが、思い止まる。

もしもこの手を今取ってしまうときっと取り返しが付かない。そう瞬時に感じたからだ。


「お見逸れしました、ヴィーナス殿」


素直に負けを認めて敬意を示す。

着いていた尻もちも自分で起きて立つ。


これがヴィーナスとの初手合わせだった。

前々から彼女が手合わせをしたがっているのは知っていた。

しかし、彼女が女だという理由からブレーキをかけていた。

やはり下に見ていたのだと思う。

そしてもし負けでもしたら……と言う思いもあった。

実際は負けても、“所詮月人だから身体のメカニズムが違う。負けて当然”と言う気持ちが強くなった。

そして負けた事で自分の弱さを知り、欠点を受け入れられた。とても充実感があった。

相手が他でもないヴィーナスだからなのだろう。

これが他のやつならプライドをへし折られていたのだろうと思う。


ヴィーナスは俺が認めた唯一無二の女だ。

月の姫君を守る為、きっと毎日鍛錬しているのだろう。

手合わせした剣はとても重く、ズッシリしていた。細腕で振るには相当な力と筋肉が必要なのは一目瞭然。きっと腕も鍛えているに違いない。

脚もヒールを履いているからそれなりに鍛えられているのだろう。



「ヴィーナスが持っていた剣、これよりはるかに重かった……」


つまりは完全なる敗北。マスター付き四天王リーダーの名が廃る。

そしてプライドがへし折られる。


「へぇー、そんな風に感じなかったけど。あの子、やるなぁ」


ゾイサイトも感心していた。

月は地球と違い重力もあるだろう。月であの剣を振るとなると相当力がいることは一目瞭然。



いつだったか一緒に走った事があったが、余裕綽々だった事を思い出す。


やはり月人ぱねぇ……。




おわり



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