セラムン二次創作小説『Endless sorrow(アルルナ)』





目覚めたルナは、目の前に広がる光景に動揺し、絶句した。

言葉が出てこない、とはこの事で。色んな衝撃に打ちのめされていた。

それは、一緒にこの地に飛ばされてきたアルテミスも同じようで、それでもルナよりは動揺していないが、目に見えて驚きを隠せない様子だ。


「これは……」


幾らか時間が経ち、漸く言葉を発するが、この一言が精一杯で、これ以上言葉が続かない。いや、見つからない。


「ここは……」


更に気持ちに一向に整理がつかない様で、一言発するのがやっとだった。

アルテミスはそれを黙って見守り、ルナ以上に寡黙に黙り込んでいた。


「……マウ星、よね?」

「……みたいだな」


その単語をルナの口から出て来るのを待っていたかのようにアルテミスは同調する。

そのアルテミスの同意に、顔を合わせることも無く、やっぱりと言ってガッカリして押し黙ってしまった。


「あのティンにゃんこが言っていた通りだな。こんな無惨な姿になっているとは」


にゃんこの絶望の言葉を思い出しながらアルテミスは悔しさを滲ませ、苦虫を噛んだ様に惨劇に変えた故郷の星を前に悲しんだ。

最も、マウ星にいたのはざっと46億年も前のこと。その時の記憶と変わっていても当たり前だ。いい意味で変わっていたりもしただろう。

しかし、この場合はそうでは無い。ギャラクシアの攻撃で死の星へと変えられたのは間違いない。セーラーマウも殺られてしまったと言う。

もう、復興は不可能なのだろうか?

いや、それは然程問題では無いかもしれない。隣で絶望しているルナを見れば、他に心配する事があるとアルテミスは現実に引き戻された。


「どう、して……マウ、星、な、の?」


ルナが零した言葉に、色んな絶望の意味が込められているとアルテミスは感じ取った。口に両手を当てて、今にも泣き出しそうだ。

きっとルナは、何故地球でも無ければ月でもないのだろうと考えているに違いない。

それは、生まれ故郷だからと言う回答は正解ではない気がするのでアルテミスも黙るしか無かった。


「それに、この姿……」


ルナとアルテミスは、人間の形のままマウ星に飛ばされ蘇った。

にゃんことの戦いはにゃんこが人の姿をしていたから、同じ様に人間になって戦った。しかし、にゃんこはブレスレットのお陰で兎に角強く、戦闘経験が不足していたルナとアルテミスは圧倒的力不足で猫の姿になり、敗北。そのままギャラクシアにトドメを刺され、無念の死。

それが蘇ったと思えばマウ星にいるわ。挙句に何故か人間の姿だわと謎だらけ。ルナが絶望するのも分かると言うものだ。


「私たちは、どう足掻いてもマウ星の住人ってことなのね……」


憂いを帯びた顔でそう蚊の鳴くような声でルナは呟いた。

アルテミスもその言葉に納得せざるを得無かった。マウ星で過ごしていた時は人の姿をしていた。

しかし、月へ遣わされた時にクイーンたるその人から着任式の日に猫の姿に変えられた。驚きはしたが、過ごしていく中で人間の時より割と便利な事に気付き、結構気に入っていた。

やがて月が滅びてコールドスリープして地球へと送られ、目覚めてもマウ星で人間として生きていたことは心の片隅に追いやり思い出すことをしなかった。

しかし、月でも地球でも無くマウ星に人の形で蘇った。その事実は、どう足掻いてもうさぎ達とは違い、結局転生していないことの証なのだとまざまざとルナの思い知らされた。


「ダイアナ!ダイアナがいないわ!」


ルナがハッと気付いたように未来の愛娘がいないと悲鳴に近い叫び声を上げた。

確かにダイアナも未来からにゃんこの戦いを止めに来て、一緒にやられ、更にギャラクシアに殺された。本来なら一緒にここにいてもおかしくは無いのだ。

しかし、いないということは、それ即ち。


「あの子はきっと未来の地球であるクリスタル・トーキョーだろうな」

「……そう、よね」


いくら自分たちの娘と言えど未来の子。更に彼女は地球産まれの地球育ち。きっと今頃は同じく蘇ったであろうスモールレディと再会し、泣きながら抱きしめあっているだろう。

ルナもどこかで分かっていた。アルテミスの言葉に素直に、しかし、無理矢理納得する形で同意した。


「もう、ダイアナとは会えないのね……」


お別れくらい言いたかったとルナはポツリと呟いた。

蘇った途端に色々な現実と向き合わなければいけなくなるなどと想像していなかった。初めての死と転生。うさぎ達とは全く違う状況ではあるものの、一度命を落とし、また生まれ変わるということがどう言ったものなのか。ルナはこの時初めてうさぎ達の苦労を身をもって知った様な気がした。

それでもうさぎ達とは比べ物にならないとは思うが、ルナはうさぎが地球で暮らしたいと月の祈りの塔で宣言した時のやり取りを思い出し、申し訳ない想いに襲われた。


「そうだな。もう一目会ってゆっくりお別れしたかったよな」


そんなルナにアルテミスは寄り添い、優しく同調した。


「でも、近い未来、必ず会えるんだ。それまでダイアナの事は記憶の中で生きているよ」

「そうね」

「さて、帰ろうか?」

「ええ」


ルナは、マウ星の復興を手伝わなくてもいいのか?

恐らく生き返っているであろうセーラーマウやにゃんこに一目会って行かなくていいのかは敢えて聞かず、アルテミスの提案に力強く頷いた。

今はきっとそのときでは無いし、自分たちもこの星の人々も心と体の傷が癒えてから。きっとその日は必ず訪れると信じていた。


「でも、どうやって帰るの?」

「うーん、どうやって帰ろう?」

「え、ノープラン?」

「アハハハハハ」


言い出しっぺのアルテミスは、全く帰り方について考えていなかった。ルナは、それを聞いて呆れ返った。


「まぁ、うさぎのシルバークリスタルが導いてくれるさ!」


それしかない!それでなくちゃ!とアルテミスは力強く言い切った。


「そうね。祈りの力は、いつだって奇跡を起こしてきたもの」

「ああ、額の三日月も元に戻っているしな!」


確信があった訳では無い。

けれど、この目で何度も銀水晶が起こす奇跡を目撃して来た。

クイーンが二人を求めてくれたように、うさぎもきっとルナとアルテミスを必要としてくれているだろう。

二人は手を繋ぎ、心を一つにして祈った。

暫くすると二人は光に包まれ、マウ星を後にした。





おわり





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