セラムン二次創作小説『バレンタイン大騒動』
衛は今、目の前の状況に困惑していた。その状況とは、朝も早くから揃いも揃って男六人が衛のマンションへと集合し、皆手にはバレンタインのチョコレートを片手にーーー若干1人は両手いっぱいに持ってやってきたからだ。
面子は公斗、勇人、彩都、和永の四天王に加え、エリュシオンからエリオス、そして極めつけは浅沼と言う六人だ。
昨日はバレンタインデー。その翌朝だからバレンタインのチョコレートを渡しに来たのは理解出来る。
だが、問題は翌日の早朝と言う時間帯だ。
普段なら早起きの衛はとっくに起きている時間帯。それでも早朝の訪問は非常識であり、迷惑だ。
そこに加えて、バレンタイン当日はうさぎと過ごしており、そのまま甘い時間を迎える事となり、二人で朝を迎えていた。
そんな中、一番乗りで来たのは四天王リーダーである公斗で、早朝6時台にやって来る張り切りっぷり。
チャイムがなり、慌てて下半身だけを履いてドアを開けると両手いっぱいに某高級チョコレート店の紙袋を持って堂々と立って待っている公斗が視界に入り驚いた。
「何故、そんなに早くに?」
早朝の訪問、疑問に思うのも当然の事である。
ましてや寝起きな上に、寝不足で身体もダルい。幾ら頭が良く、察しが良い衛と言えど頭は回らない。
「バレンタインデーだったからな。当日は遠慮したが、翌日は一番に渡したかったのだ」
衛の質問に、公斗は端的に答える。早朝という事もあるだろうが、色々説明不足だ。
前世から変わらぬ友の“行間を読み取れ”と言う言葉足らずな所に衛は、少しホッとした。
つまり、公斗が言いたかった事はこうだ。
“昨日のバレンタインデー当日はうさぎさんと過ごすだろうと予想していたから遠慮したが、翌日は大丈夫だろうと考えていたが、他の四天王も同じ考えで翌朝渡しに来るのでは無いかと危惧した結果、一番で渡したい気持ちが前のめりし過ぎて早くからの訪問となった”と言う事らしい。
その言葉通り、公斗の訪問をキッカケに、次から次へと来る事になった。
2番手は、火川神社でバイトをしていて朝起きが得意な和永。3番手は朝早くから勉強する事が習慣づいている彩都。そして4番手と5番手は何と!浅沼と勇人と言う組み合わせに、何故一緒に来る事になったのかとその経緯が気になる同時の登場に、衛は一気に目が覚め、頭も冴え渡った。
そして最後は最も遠くからの訪問者、エリオス。
エリオスの訪問もまた衛にとっては想定外。エリュシオンと言う場にいて、地上の事情に疎いはずのエリオスは、バレンタインと言うイベントを知っていたのだろうか?
次から次へとチャイムがなるので、夜更かしして身体を動かして疲れ果てて爆睡していたうさぎも、騒々しさに目が覚めてしまい、着替えてリビングへと起きて来た。
状況を理解出来ずにいるものの、取り敢えず訪問者にお茶を出して笑顔で振舞った。
「朝早くからすみません、うさぎさん」
「いえいえぇ~、まもちゃんが愛されてる証拠なので、私も嬉しいです」
一人合流する度に何故か公斗はその都度うさぎに謝っていた。しっかりしたリーダーであり、長男だと衛は感心したが、誰が一番早く来て迷惑かけたのかと心の中で呆れていた。
公斗以外のバレンタインギフトはこうだ。
和永はリ○ツ、彩都は自分で作ったと言うガトーショコラとチョコケーキ。そして、一番の期待は勇人。まことと言うプロの先生のもと、チョコレート関係のお菓子を手作りし、綺麗にラッピングまでして持ってきた。
エリオスは市販のバレンタインギフト。
そして意外だったのが、浅沼だ。チョコレートではなく、コーヒーセットを持って来た。
「浅沼はチョコじゃないんだな?」
「それも考えたんですけど、衛先輩がチョコレート好きって知ってる人達から大量に頂くのでは無いかと思いまして、違う角度から攻めてみました」
チョコレートだと面白味にかけるのと、他の人と溶け込んでその他大勢で終わりそうだと考えた浅沼は、敢えて違う物を送るという勝負に出た。
そこで、強烈な印象を残して抜きん出ようと浅沼は考えていた。中々の策士である。
「いやぁ~、それにしてもこのマンション懐かしいなぁ~」
「確かに。3年以上はいたっけか?」
「色々思い出すな」
「何だかんだ、楽しかったわよね」
勇人の一言を歯切りに、四天王は次々と思い出に浸り始める。
四人は、メタリア戦後から蘇るその日まで石となり、衛のマンションへと居候していた。その間、意思も持っていた為、色々見聞きしていた。そして四人でお喋りをして過ごして来た。
このマンションにはそれ以降一度も来ていないという訳ではなく、個々で訪れてはいた。
しかし、こうして四人全員集合したのは蘇って以来となる為、感慨深く思い出に浸りたくなったのだろう。
そんな四天王とは別に、余り事情の知らない浅沼がいる中、妙な話に花を咲かせている事に衛はハラハラしていた。
「ゲフンゲフンッ」
話が尽きないので空気を読み、衛は咳払いをして静止させることにした。
「所でお前たち、その……彼女はいいのか?」
そして、話をすり替える作戦に出た。
「問題ない。先程まで一緒にいた。快く送り出してくれた」
「私も問題なしよ!皆みたいに一晩を共に過ごして無いもの(涙)」
「俺もバイト前に来たから大丈夫さ」
「俺は夜更かしして今に至るぜ」
公斗も勇人も、衛とうさぎと同じでバレンタインと言う日を甘く過ごしていたらしいことが話から伺えた。
話の内容に察した浅沼とエリオスは、顔を真っ赤にして下を向いて恥ずかしがっている。新鮮だが、ウブな二人の反応に衛は可愛いと思ってしまった。
そんなエリオスは、ちびうさとは実際問題どこまで行っているのだろうかと、未来の父親としてはかなり気になった。自分に言う資格は無いが、節度を持って、大切に育んで欲しいと願った。
「エリオスはちびうさとは、どうなの?」
そこに空気読めない系女子、うさぎがお節介にもいらん質問をして割り込んできた。うさ、余計な事を……と彼女であるうさぎに、頭を抱え悩む事になった。
「小さな乙女は、未来で修行や勉学に励んでらっしゃるので、会える時間は限られています」
「そうか」
「寂しいね?私なら、耐えられない」
余り進展していない様子で衛はホッとした。その隣で、うさぎは会えない事への寂しさに寄り添い、自分の事のように心を痛めていた。
「エリオスさんも、彼女いたんですね?良いなぁ……」
ここで、唯一彼女がいない浅沼がエリオスにも彼女がいると知り、羨ましがり、悔しがり、そして嫉妬した。
決して悪くは無いルックスと優しい性格に加え、エリート校に通う程の頭の持ち主。にもかかわらず、彼女いない歴は年齢とイコールを更新し続ける残念っぷりの浅沼一等。
告白はされるものの、タイプじゃないのか断り続けていると耳にする。やはり、まことを忘れられないのか?と衛は考えていた。
そして、この場において“まこと”と言う固有名詞を出していいのかと思慮深く考え込んだ。
「それにしても、有難いが凄い量だな」
暗い空気になってしまった事もあったので、衛は話題を変えることにした。
「それは大丈夫だろ?うさぎさんと食べればいい」
「と言うか、それ前提で大量に買ってきてるわけだしな」
「何なら俺が手伝ってやっても良いぜ?」
「っつーか、それはあんたが食べたいだけでしょ?」
各々、一人分とは言い難い量のチョコレートに、再び困惑した衛だが、うさぎと食べる事前提と聞き、言葉に詰まる。
前世では禁断の恋に、形上は反対していた四人が、うさぎを衛の恋人として認知して応援してくれていると遠回しだが、伺えたからだ。
「お前たち……」
「わーい♪私まで頂いちゃって、いいんですかぁ?」
「無論だ。寧ろ、食べて下さい。衛をこれからも頼みます!」
「ま、仕方ないから衛はあんたにあげるわ」
「俺たちに、レイ達を紹介してくれた人でもあるしな」
「うさぎちゃんは俺たちの恋のキューピットだから、これくらいならお安い御用さ」
「はい!喜んで!みんなも、美奈P達をよろしくお願いします」
「任せて下さい」
感極まった衛に対し、食べてもいいと言われたうさぎは無邪気に喜んだ。ジーンとしていた気持ちが引っ込みそうになったが、その後の五人のやり取りに、再び心が温かくなった。
このバレンタインギフトは、四人にとって色んな意味を持つ事を知った衛。早朝と言う迷惑極まりない時間帯ではあったが、とても嬉しく感謝した。
「おっと、仕事の時間が近づいている。ここでお暇させて頂く」
「じゃあ、私達も帰るとしますか?」
「長いは禁物だからな」
「邪魔したな!」
「僕も学校あるので、帰ります」
「朝の啓示の時間がありますので、プリンセスと仲良く過ごして下さい」
六人は、それぞれの事情で長居をする事無く、30分程滞在して帰って行った。
残された衛は、何だかドッと疲れた様な気がしたが、うさぎはマイペースだった。
「はぁー、疲れた」
「みんな、まもちゃんの事大好きなんだね♪」
寝ている所を起こされたにも関わらず、怒るでも無く笑顔でそう言ってのけるうさぎを見た衛は、うさぎが幸せそうならいいやと思うのであった。
おわり
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