セラムン二次創作小説『美しい人(ジェダマズ)』


“何て美しい人なんだ”


それが俺が彼女ーーーセーラーマーズを初めて見た率直な第一印象だった。

勿論、今までも女性を見てきた。地球の民だって皆それぞれ違いはあれど、素敵な外見をしている。負けていないし、比べられるものでは無い。

けれど、数々の女性を見てきたが彼女は群を抜いて美しい。


「初めてお目にかかります。私は、月の王国シルバーミレニアムの第一王女プリンセス・セレニティの側近の一人、セーラーマーズと申します。以後、よろしくお願い致します」


そう挨拶した彼女は礼儀もビシッとして様になっていて美しい。

こちらに向かって歩いている時も遠くからでも分かる程、立ち居振る舞いが決まっていた。


王族だから決まっていて当たり前と言えばそれまでだが、そうでは無い何かを感じさせるものがあった。

それに、守護戦士には他にも会っていた。セーラーヴィーナスとは何度か顔を合わせたが、彼女の様な気品は無かったように記憶している。

礼儀は正しい。

しかし、ヴィーナスは活発で落ち着きが無い。四天王で言えばネフライトの様な豪快さと快活さがあると感じた。

勿論、ヴィーナスだって美しい顔だ。だが、やはりこういった印象を抱いているからか、心を奪われると言うほど惹かれるものがない。


月のプリンセスだって美しい人だと思う。

当たり前だが、気品もあるし礼儀正しい。それこそ空に浮かぶ月のように綺麗で眩しい人だ。

しかし、そんなプリンセス以上にマーズはとても美しい。

プリンセスと一緒にいても劣らないが、引き立ててもいる。ちゃんと立場を弁えている美しさだ。目立たないが、際立っている。矛盾した表現だが。

それに、隙がない。

聞けば彼女は火星出身で、戦いの星なのだとか。

そうか。美しいと感じていた作法は、戦術の中で身に付いたものだったのかと納得した。

作法だけでは無い。俺が感じた全ての事の説明が付く。流石だ。


今まで色んな女性を見てきたが、全てが備わっている人はいなかった。

彼女は正に全て備えた完璧な女性だった。

一目惚れーーー正にこれだった。

理屈では無い。彼女を一目見た瞬間から俺は、恋に落ちていた。


分かっている。彼女は地球人では無い。月の王国のものだ。プリンセス同様、恋愛は禁忌。例外など無い。

本当はこうして出会うことも無い人だ。

恋愛などご法度。所詮は叶わぬ想い。

彼女と想いを通わせるなど出来ない。未来は無いと分かってはいても、それでも彼女を思う気持ちは止められなかった。

例え彼女に想いを伝えなくとも、そっと心の中で思い続けるだけでいい。それが、俺にとっては幸せな事なのだ。

こうして互いの主君の護衛で時々逢える。それだけで充分だ。

マスターを守る側近になったその時から、ただひたすらに真面目にマスターだけに仕えて来た。

その俺が、こうして誰かを本気で好きになれたと言う事実が嬉しい。

俺はここ地球で、空に浮かぶ月を見上げ、マーズの健康と幸せをずっと祈っている。





おわり




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