セラムン二次創作小説『運命に導かれ(A美奈)』


「運命に導かれ」


アイドルになって順調に仕事をしていたある日、海外で雑誌の撮影をすることになった。

久しぶりに海外へ行けると知り、俄然張り切った。場所を聞くまでは……


「中国ですって?」


マネージャーの口から出てきた国の名前を聞いて驚きを隠せず、大声で叫んでしまった。


「ああ、中国だ。何かあるのか?」


中国。何も無いとは言えない国だ。流行病の震源地と言われているところ。


ってのは置いておいて、そう。この国には色々因縁がある。

最上エースのヒロイン役をオーディションで射止め、女優デビューをした場所。

そして、エースが敵の幹部ダンブライトと知ったと同時に前世での事を思い出し、自分がセーラーヴィーナスとして覚醒した。

好きだと気づいたと同時にエースをこの手で葬った場所でもある。

そんな因縁の場所である中国。

これは今回も何かあると思っておいた方がいいかも。


「やって来たわよ、中国!」


あっという間に時は経ち、中国での仕事の日がやってきた。隣の国って事で飛行機ですぐ。何か拍子抜け。

って、待て待て。着いたばかりよ。気を引き締めて仕事しないと。何があるか分からない。


「待ってなさいよ、エース!」


中国で仕事だと聞いた時から私は密かに決めていた。エースを倒した場所へ行こうと。

その理由は伝えずにマネージャーからフリーの時間を作ってもらっていた。更に集中して頑張ればもっと自由時間が確保できるし、何なら中国の仕事終わりに何日間か休みまで設けてくれていた。


「まぁここまで休み無く頑張っていたからな。ご褒美って訳では無いが、中国の仕事とまとまった休暇は俺からのプレゼントだ」


何てマネージャーは言ってたけど、一緒に同行して激務してたから彼も休みたいだけなのでは?って私は疑ってる。

だけど、人の好意は親切に受けておこうと思う。


仕事のある場所は、エースを殺した場所から結構距離がある。日本以上に広い中国。ちょっとした所でも何時間ってかかる。

だからこそ、このマネージャーのファインプレーには藁にも廃る思いだった。


「よし、エースに会いに行くわよ~♪」


現地での仕事を、今までに無いくらいの集中力で片した私は、予定より2日も早く終えた。

逸る気持ちを抑え、荷造りしてエースとの思い出の場所へと向かって出発した。


「久しぶりの海外なのよねぇ……」


最初に行ったのはハワイ。のはずが何がどうなったか行ったのはギリシャ。そして次が中国。

そこからはセーラー戦士として忙しくしていた上にまだ学生。来るチャンスが中々無かった。

やっと来られたと思ったら、また中国。これは、きっと運命と言う名の何かだ。


「着いた!」


飛行機で移動すること五時間。……って五時間?はあ?日本から中国までもそんなかからないし、何なら東京からだと新幹線で九州まで行けそうよ。ふざけてるの?


「本当に広いわね」


広さに殺意を覚えながらも真っ直ぐに向かった先は、私がエースを倒したホテルへと一目散に向かった。


「やっと、来れた……」


あのホテルは当然無いけれど、高層マンションが聳えたっていた。そう、例えるなら亜美ちゃんの億ションの様なマンションーーーいや、これも億ションか?


「エース……」


どこら辺で倒したのかはもう跡形もなく無くなっていたから分からない。

住民に邪魔にならない場所へと移動して、出発前に買っていた花ーーー私にピッタリだと言ってオーディションの時にくれた思い出の花、ダリアを適当な所に手向けた。


「久しぶりね、エース」


高層マンションで、ウルってた涙が引いたけど、手を合わせて目を閉じてエースの事を考えていると込み上げてくるものがあった。


「ずっと来れなくてごめん、エース」


エースがどんな野暮を芸能界で抱いていたかは分からない。だけど、エースの意思は引き継ぐわ。


「立派なアイドルやってるのよ」


プリンセスを守る四守護戦士のリーダーゆえ、恋も夢も諦めなければならない。

そう思っていたけど、志半ばで死んだエースの為にも私はアイドルでカリスマになってみせるから。


「恋だってやってるのよ」


あんな事言われたけど、やっぱり女として生まれたんだもん!

前世とは違う。自分の運命は自分で切り開く!

私を誰だと思ってるのよ?愛の女神よ?

恋愛の神様が恋を放棄するのはダメでしょ?なんてね。


「あ、相手はあんたの元上司だけどね」


それは嫌かも知れないけど、アイツ以外に付き合っても嫌でしょ?


「あ、そうそう。ここで買ってくれた指輪も付けてきたのよ?ピッタリでしょ?」


どこに埋っているか分からないけど、エースに見えるように。丸で芸能人の結婚会見みたいに付けてる手を見せた。


「エースとは短い間だったけど、想い出も貰った物も多いな……」


出会い方から最期まで、劇的な映画のワンシーンの様だった。だからこそ深く想い出として刻まれている。

おでこにチュー、唇にもキスしてくれたし、ハグだって……ずっと、、、


「ずっと忘れないから、エース」


そう呟いた後、キラキラ光る物が視界に入ってきた。

近付いて見てみると、宝石の様だった。


「まさかこれって……だんぶり石?」


かつてエースが敵として名乗っていたダンブライトの翡翠だと私は直感で気づいた。


「“俺はここにいる”そう言いたいの?」


ダンブライトの、エースの最期のプレゼントかな。

あれから10年近く経つのに、ずっとここで私を待っててくれたのね。


「これ、日本に持って帰って大切にするから」


だから、私が恋も仕事も使命も。挫けないように見守っていてね。


「じゃあね、エース」


サヨナラは言わないでおいてあげるわ。

だって、思い出の中で生き続けているから。

それに、この指輪と翡翠もあるもんね!


「アイツがいないと静かだな」


仕事から帰宅しながら空を見上げた公斗は一人、呟いた。夕日が赤く、丸で恋人のリボンの様に燃えていた。

それに呼応するかのように、一番星が綺麗に光る夜空で、公斗は美奈子を思い出さずにはいられなかった。


「中国から無事に早く戻って来い」


秋の少し肌寒い風が、公斗を寂しくセンチメンタルにしていた。





おわり



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