セラムン二次創作小説『逢魔時のいたずら(ジェダレイ)』




「御機嫌よう、火野さん」

「さようなら、気をつけて」


すっかり遅くなってしまった。レイは、腕に着けた時計をチラッと見ると17時をとっくにすぎ、18時近くになっていた。

普段は帰宅部で、五限目の授業を終えると神社の仕事があるため、真っ直ぐ家に帰る。

しかし、文化祭が迫っていて連日、その準備で遅くなっていた。文化祭に興味はなく、不参加の予定だったが、超常現象研究部部長である更科琴乃直々のオファーと推しの強さに負け、参加することにした。

ここの所、毎日琴乃と一緒に準備をしていた。


「すっかり遅くなってしまったわ」


琴乃と別れ、バス停へと向かう。

TA女学院の生徒は皆お嬢様で、ほとんどの人が送り向かい付きだが、レイは違う。

父親とは相変わらず確執があり嫌っている。その為、用意された送迎はずっと断り続け、バス通学を続けていた。

そんなレイは学園の中でも希少な存在だった。


「新しい敵も現れたし、用心しなきゃいけないのに……」


学園の中に侵食して来るとは思いもしなかった。

しかし、確実に敵が迫り来るのは確か。用心してかからなければならない。学園に残っていたのはそう言う理由でもあった。


「何も無ければいいけれど……」


戦士である以上、戦いは付き物。それレイも覚悟は出来ている。うさぎを守り、敵を倒す。この霊感と言う異能はその為にある。

その第六感が胸騒ぎがすると察知していた。

不安を抱えつつ、来たバスに乗った頃にはもう18時を過ぎていた。


「18時か……」


普段は学生で混んでいる時間帯に乗るレイだが、今の時間はそれ程人もおらず、空いた席に座る。

そこで何気なく呟いた言葉にレイはハッとなり思い出す。


「魔の六時のバスか……」


あれからもう半年以上も前の事。忘れていた訳では無いが、戦いや忙しい日々の中思い出すことをしていなかった。


“魔の六時のバス”と言われ、人がさらわれる現象。事もあろうに、祖父が加担されていると責められ、霊感で場所を特定するよう言われ、兎に角最悪な出来事だった。

しかし、普通の人間では太刀打ち出来ない敵の仕業だった。その主犯格がジェダイトだ。


「別に、彼の事なんて何とも……」


うさぎがプリンセスとして覚醒した直後から、今日まで前世の事は思い出していた。当然、ジェダイトの事も記憶が蘇っている。前世で彼に淡い恋心を抱いていたことも。


あれ以来の六時台のバスへの乗車。

そして新たな敵が現れたこと。

ただそれだけだった。

ただセンチメンタルになっているだけ。

下校も遅くなり、すっかり暗闇の中で気持ちが沈みがちになっているだけだとレイは言い聞かせる。


「流石に消えたりはしないわね」


もうジェダイトはいない。拐う人もいないのだから心配する必要も無い。

過去に思いを馳せていると、下車する仙台坂上へと到着し、アナウンスが流れる。

ハッとなり、レイは慌ててバスを降りる。


「ジェダイト……」


仙台坂上で降りたレイは、そこに立つ青年を見て驚き声を出す。

そこには死んだジェダイトが立っていた。

レイにはハッキリ見えていた。

しかし、その姿はハッキリとはしない。青白く光っている。


「やあ、見えるんだね?」


咄嗟に声をかけたレイは、しまったと後悔した。時すでに遅し出会った。

今更である。会話をするか、レイは迷っていた。


「相変わらずマーズは綺麗だ」


レイの心とは裏腹に、ジェダイトはレイに喋り続ける。


「昔も今も、変わらない。本当に綺麗だ」


変わらないのはジェダイトも同じだとレイは心の中で思った。自分の意に反して、ずっとしゃべり続けている。


「どうなされたの?」


何故今更出てきたのか、レイは単純に知りたかった。

喋り続けるジェダイトに鬱陶しいと感じ、本心を知りたくて喋りかけてしまった。


「ずっと君と話したかった」

「それだけですの?」

「それだけじゃ、いけないかい?」


ジェダイトは、マーズとまた話したかったのだと。ただそれだけの理由で、幽霊となって出てきたとサラッと言ってのける。


「あの時の事、後悔してるかと思って」

「あの時?」

「俺を殺したこと」


ジェダイトの言う通り、後悔した事もあった。

だけど、敵として現れ、レイを攫った。身の危険を感じた。直後、戦士として覚醒して、迷わず葬った。

前世でも、敵として立ちはだかったジェダイトにとどめを刺したのは他でもない、マーズだ。


「……して、いませんわ!」


少し、言い淀むが力強く言葉にする。そうする事で自身に言い聞かせた。後悔しない様に、戦士として生き、貫くことを。


「あはは、だよな」


要らぬ心配だったとジェダイトは笑顔で納得した。

もしもマーズが後悔しているようであれば、後押ししようと考えていた。


「俺、前世も今も、マーズに殺されて嬉しかった。幸せだったよ」

「バカ!」

「うん、バカだよな」

「私、過去は振り返らない主義ですの」

「ハハ、キビシー」


戦いの戦士らしい言葉にジェダイトは納得した。


「ありがとう、マーズ。感謝してる。会えて嬉しかったよ」


マーズに伝えたい事を言葉にし、感謝を述べるとジェダイトは未練が無くなったのか、消えてしまった。


「私は、迷惑だったわ!もう、二度と現れないで!」


男なんてろくでもない。私の人生に男なんていらない。頼らなくても生きていける。戦士なんだから。

ジェダイトが消えたと分かった後に、レイはそう呟きその場を後にした。

その後、仙台坂上のバス停には白い花が手向けられていた。





おわり




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