セラムン二次創作小説『愛の花(クンヴィ←アドニス)』




夕刻。すっかり日が暮れて夜になろうとしていた頃。部下であるアドニスは一日の職務の報告へ直属の上司クンツァイトを訪ねてきていた。

これはクンツァイトの部下となり、最初からの決まり事で一日の報告をしてその日の職務を終える。報連相ーー仕事をしているものの義務であり、当たり前の行為だ。


「ご苦労だった」

「お疲れ様でした」


短いがクンツァイトはアドニスの一日の労働を労う。アドニスも一言、挨拶を交わす。

特に多くを話さないクンツァイトに配慮して、その日もそそくさと部屋を後にしようと踵を返そうとした。その時だった。アドニスの目にここにはない物が映り、驚いてその場に立ち止まった。


「ん、どうかしたか?アドニス」

「あ、いえ。美しい花が飾ってあると思いまして」


立ち止まったアドニスに気付き、クンツァイトが質問をすると遠慮がちにアドニスは言葉を紡ぐ。

そう、驚いた事は花が飾ってあったことだ。アドニスがここに配属されてから今までクンツァイトの執務室には仕事関係のものは一切無く、殺風景でいかにも真面目な人柄を表していた。

しかし、どうだろうか?いきなり鼻が飾ってある光景はまさに滑稽だった。


「ああ、その花か」

「ええ。どなたかからの贈り物ですか?」


アドニスはクンツァイトの性格上、自身では絶対に手に取らないだろうと思っていた。性格を熟知した結果の質問。

しかし、次のクンツァイトの言葉に衝撃を覚える事になった。


「否、私が自分で取ってきた」

「そう、だったのですか。それは、失礼致しました」


誰かに貰ったものだと思い込んでいたアドニスは、クンツァイト自身が用意したものだと知り衝撃を受けた。

真面目で寡黙なクンツァイトが花に興味を示すとは、半ば信じられなかった。


「いや」

「クンツァイト様、変わりましたね」

「変わった?私がか?」

「ええ、以前でしたら花を愛でるなんて発想は持ち合わせてらっしゃらなかったので」

「……そうだったな」


クンツァイト自身も自分の変化に気付き、戸惑っていた。

アドニスの言う通り、以前の自分であれば花が咲いていても全くと言っていいほど興味は湧かなかった。なのに護衛で入った森に咲いていた花に目がいった。

そして、何を思ったか身体が勝手に動き、その名も知らぬ花を積んでいた。


「綺麗ですね。黄色くて、落ち着く色です。それでいて元気になれる様なそんな暖かな花です。欄に似ていますが、それよりは少し大きい花で色も違いますね」


アドニスは花を見た素直な感想を述べる。少しばかりだが、花の知識もあり色々考えるが、今まで見たことの無い美しい花だった。


「名前は私にも知らないが、知り合いに似ていると思ってな」


アドニスの言葉に、正に似ていると思った想い人であるヴィーナスを思い浮かべていた。

何故アドニスが会ったことも無いヴィーナスの特徴を花を少し見ただけで言い当てるのか。クンツァイトは不思議でならなかった。

そして次の瞬間閃いた。


「アドニス、お前にも似ているな」

「え?」


そう、アドニスもヴィーナスと同じ金星の出。

今は月の王国の姫君の側近戦士のリーダーをしているが、元々は金星のプリンセス。アドニスが知っていてもおかしくは無いし、知っていて当然である。

そしてそんなアドニスもやはりどこか金星の雰囲気を纏っている。全く性格などは違うが、日頃からヴィーナスに似た所をクンツァイトは感じていた。


「アドニス、お前といると心が休まる。お前が来てから随分と助けられている。これからも期待しているぞ」

「いえ、私は何も」

「謙遜するな。働き者のお前を買っている。これからも宜しく頼む」

「勿体なきお言葉」


普段は寡黙で言葉少ななクンツァイトからの褒め言葉の数々に、アドニスは動揺を隠し切れない。本当に変わった。そう感じた。

ふとクンツァイトを見上げると、何と笑顔を向けていた。元々整っているいい顔をしているクンツァイト。異性からの評判は勿論、同性からも定評があった。

そんな彼の中々見せない笑顔に、アドニスは不覚にもドキリとしてしまった。


そして、変わった要因であるヴィーナスと先日一緒にいる所を偶然たまたま居合わせて見てしまったアドニス。

ヴィーナスにもこの笑顔をたまに見せているのかと思うと、勝ち目が無いことを悟ってしまった。





おわり




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