セラムン二次創作小説『雨季でウキウキ(ゾイ亜美)』





季節は雨季。所謂、梅雨で雨が多い。

ここ東京も例に漏れず、毎日毎日雨ばかり。流石に憂鬱になる。


「はぁ……」


外を見れば雨で、行き交う人は皆当然の事だけど、傘をさしてどこか足早で。そんな光景を見ていると自然とため息が出てしまう。

そしてもう1つ。私がため息を着いた原因が目の前に。


「彩都さん、ため息。これでもう9回目よ?」


雨宿りと言う体で入った喫茶店で、鞄から取り出された勉強道具。それを並べて当たり前のように医学部での勉強の予復習。

結局、勉強を初めてしまった彼女に置いてきぼりをくらい、尚且つデート感がなくなってしまった事を悲観していた。

原因の彼女からため息を指摘され、何言ってくれてるんだろうと思う。と同時に、勉強に集中して私の事など気にしていないと思っていたから、数を数えられていたことに驚く。


「そうは言われてもねぇ…」


私のため息に注目しているという事は、ちゃんと見ていてくれている証拠か。彼女も随分と恋愛偏差値上がってきたわね。なんて思う。

と言うか、それだけ大きなため息を着いていただけかもしれないけど。


「そんなにため息ばかりついていると、幸せ逃げていきますよ?」


幸せを共有する為の人が何を言ってるんだろう?

少しは勉強の手を緩めて私との時間を共有してくれたら良いのに。とは流石に頑張り屋の彼女に言い難い。


「こうも毎日毎日雨ばかりなのは流石に参るわ」


亜美が勉強で放ったらかしにされている事は言わず、天候に重視した。

雨ばかりで参っているのは確かだし、嘘はついてない。


「梅雨だから仕方ないわ。夏前にしっかり降ってもらわないと、水不足になっちゃうと困るし」

「それもそうだけど……」


日本に梅雨のシステムがあるのは、明けた後の真夏にほとんど雨が降らないから。

茹だるような暑さの夏は、水不足に陥りやすい。水分を取って熱中症にならない為にも、この梅雨は必須だ。

梅雨も憂鬱だけど、日焼け必死の暑い夏も私は嫌い。この二つを思うだけでため息の嵐だった。


「私は梅雨、結構好きよ」


勉強ばかりして出不精の彼女には梅雨はほとんど関係ない気がする。


「ちゃんと四季の現れだし、レイングッズを買うのも楽しいわ」

「レイングッズ……ねぇ」

「持ってないの?」

「余り興味なくてね」

「じゃあ、今から買いに行きましょう」


亜美は、生き生きとしだしたかと思うと、いきなり勉強道具を片付けて立ち上がった。

勉強は終わって、思わぬ方向にデートが再開される流れに、圧倒され一瞬、何が起きたか分からず、少し乗り遅れる。


「今から?」

「ええ、デパートへ行きましょう」


彼女の気が変わらぬうちにと私も続いて立ち上がる。

会計を済ませ、彼女と店を出る。

また雨の中、出かけるのか……とは思うものの彼女とのデート再開なのだから少しは気分が上向き思考になる。



デパートに到着するとそのままレイングッズコーナーへと足を運ぶ。

雨季だと言うこともあり、一通り物色するとその充実っぷりに感嘆した。


「へぇ~、色んなグッズがあるのねぇ……」


これまで色々なグッズがあるなんて、興味を持つ事もなかった私は、単純に驚いた。

これは確かに知ってしまうと梅雨も嫌じゃないかもしれない。


「でも、何がいいか分からないわね。これだけ種類があるんですもの」

「私が選んであげるわ!」


迷っていた私を見て、亜美は楽しそうにそう提案してきた。

その顔を見ると、本当に雨が好きで、レイングッズに詳しい事が伝わってくる。

と、同時に“私、ファッションには疎くて……”といつぞやにそう悩んでいた事を思い出す。

今の彼女は、そんな事で悩んでいた同一人物だなんて誰が想像出来るだろう。


「折りたたみ傘は持ってて損は無いわ」

「だったら、晴雨兼用が良いわよね」

「そうね、今は夏でもゲリラ豪雨や夕立が多いから」


今後の事も考えて、傘は晴雨兼用の折りたたみ傘にしようと提案すると、彼女も乗ってきてくれた。


「台風の時期にもなるし、骨がいっぱいの方が丈夫でいいと思うわ」

「そうね、すぐに折れてしまうのは嫌よね」


傘一つ取っても、種類は様々。私は、亜美に任せることにした。


「これなんかはどうかしら?」


持っていたのは、16本ある骨に緑のカラーが付いていて、外は淡い青系の折りたたみ傘。しかもワンタッチでオープンタイプ。

晴雨兼用でもありけど、男女兼用でもあり、私に合っていた。


「良いわね」


彼女が選んでくれたもの。文句なんてあるはずはない。

けれど、私の事を考えてくれているのが分かる物をちゃんと選んでくれていた。

二つ返事でOKすると、次の言葉を聞いて固まった。


「私もこれ、買おうと思うの」

「それって……」


所謂、“お揃い”って奴では?分かって言ってるのかしら、この子……。


「それと、私がプレゼントしてあげるわ」

「選んでもらった上、出してもらうなんて」


まさか、プレゼントするとまで言われると思わず、一体何が起こったのか?状況が飲み込めずに、置いてきぼりを食らった。


「遠慮はしないで。普段、ほとんど私の勉強に付き合わせたりしてるから。それに……」

「それに?」

「彩都さん、もうスグ誕生日でしょ?だから、何かあげたいって思ってたの」

「亜美……その気持ちだけで充分よ」


ヤダもう!何よ、この子。泣かせにかかってきたわよ。

思わず“気持ちだけで充分”とは言ったけど、そう言ってくれるなら亜美からのプレゼントは欲しいわね。しかも“オソロ”よ。

これ以上の誕生日プレゼント、ある?最っ高じゃない?


「他にも色々あるから見ましょう」


傘だけでは物足りないと思ったのか、せっかくだからと他のも見ることになった。


「レインコートなんかもあるわ」

「どうせならスタイリッシュなのが良いわね」

「そうね、彩都さんはモデルっぽいし、女性らしい骨格だから、そう言うのが分かる方がいいかも知れないわ」


見ると思いっきり男性用のパンツルックのものがあって、何だか気分が盛り下がった。これは却下ね。普通にコートがいいわ。


「これはどうかしら?」


亜美が持ってきたのは、薄手の生地の半透明の無地のレインコート。長さは膝上5cmと言った所。


「良いじゃない。亜美も同じの買いなさい」


ここまで来たら、運命共同体。全部亜美とオソロにして、憂鬱な雨を乗り切りたい。


「そうしようかなって、思ってたの」


ハニカミながら予想外な事を言う亜美からの言葉に、心を完全に持って行かれた。

何この子、可愛い。


「じゃあ、これで決まりね!」

「ええ、今度は足元かな?」


レインブーツのコーナーへと移動する。

その途中に、“レッグカバー”なる物が目に入った。


「これはどう?」

「ん~流石に無いわね。何かルーズソックスみたいで変よ」


そう、“レッグカバー”の見た目は、ルーズソックスみたいな感じ。こんなの履いてる人見た事ないし、履く人はそこら辺のイケてる女子高生くらいなもん。

それこそ、美奈子やうさぎ辺りが嬉々として履いてそう。だから、私は嫌よ。

て言うか、需要があるの?誰が買ってるのかマーケティングしたいくらいよ。


「クスクスっ言われてみれば」


笑ってスルーしてくれた。

で、当初の通りレインブーツコーナーにやって来た。


「レインブーツも、種類たくさんあるわね……」


本当、何がいいのか分からなくなるほど種類が豊富にある。

今回も亜美とオソロ決定なのだから、女性っぽいのが良いわよね。って、亜美に任せるけど。


「少し長めの方が安心よね……でも、長靴感が出過ぎてもダメだし」


レインブーツ選びは、亜美も迷うよう。

良いのがあれば良いのだけど……。


「これはどうかな?少しヒールがあるのだけれど……」


私に合いそうな適当なレインブーツが余り無かったのか、申し訳なさそうに言ってきた。


「素敵じゃない!私、ヒールは特に気にしないから」


ヒールと言っても、申し訳程度の高さ。全然気にならないわ。

私の返事を聞いて、亜美は心底ホッとしたようだった。


「じゃあこれで決まりね!」

「そうね、異論はないわ。レイングッズはこれくらいかしら?」

「スタンダードなのはこんなものかな?じゃあ、お会計済ませてくるわ」


レイングッズ3点を手にして、彼女はキャッシュコーナーへと向かって行った。

いつに無く生き生きしている彼女の後ろ姿を見送りながら私は、こんなウキウキした彼女が見られるのなら雨も案外いいかも知れない。そう思っていた。


「お待たせ」


数分後、会計から戻ってきた彼女の手元を見て驚いた。


「アンタそれ、本当にプレゼントじゃない?」


彼女が持っていた物には丁寧にラッピングされた箱がショッピングバッグに入っていた。

まさかこんな丁寧に本気のプレゼントになってくるなんて思いもせず、普通な驚いてしまった。

そして、少し時間がかかっていた理由に合点がいった。


「ええ、嫌だったかしら?」

「いいえ、驚いただけ。まさか、ここまでして貰えるなんて思いもしていなかったから」

「いつもわがまま聞いてもらってるお礼。全然大した事ないわ。まだまだ返し足りないくらい」


本当に、その言葉だけで今度は本気で充分だった。

彼女に付き合っていて、そりゃあ勉強ばかりだけど、そこが彼女の良いところで、私が好きになった理由でもある。

だから、本当に気を使わなくていいし、好きで付き合ってる所もあるからこんなにしてもらって悪いくらい。


だけど、ずっと梅雨の季節に生まれて、雨ばかりで嫌だったけれど、亜美のお陰で雨季の楽しさが少ししれた気がした。

彼女のお陰で視野が広がって、好きになれるような、そんな前向きにしてくれる尊い時間だった。


「ありがとう、亜美」





おわり



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?