セラムン二次創作小説『Precious Time(まもうさちび)』


「そ、そんなぁ~~~~~~~~」


ある日の休日、月野家のリビングに、いや、近所に響き渡るほどの迷惑なうさぎの大絶叫が響き渡る。

何故うさぎが絶叫するに至ったかというと、それは数分前の母親育子からのある言葉だった。


「7月の期末テストまで遊ぶの禁止!勿論、あなたの誕生日も勉強よ!分かったわね?」


三年生になり、受験の年になった。

しかし、相変わらずうさぎはその自覚は無く、5月の中間テストの結果はどれも良いとは言えず、散々なものばかり。

6月に入っても勉強をする気配が無いばかりか、衛の事で浮かれているうさぎに育子ママの堪忍袋の緒が遂に切れ、激怒したのである。


「嘘でしょ!?酷いよママ……まもちゃんと過ごす初めての誕生日なのに……」

「酷いのはあなたの成績でしょ?恨むなら日頃勉強しなかった自分を恨みなさい!勿論、衛くんとも会うのは禁止よ!」


正論で畳みかけてくる育子ママにぐうの音も出ないうさぎはリビングにいた父親に助けを求める。


「パパァ……」

「まぁ、仕方ないんじゃないか?受験生だし勉強は避けては通れないしな」


唯一味方をしてくれると思っていた父親にまで見放されてしまう始末。

それもそのはずで、うさぎに彼氏がいる事を知り、会えない口実があるならそれでいいと内心ホッとしていた。

そうとは知らないうさぎは当てが外れて目に見えてとてもガッカリする。

そんな傷心のうさぎに弟の進悟が追い打ちをかける。


「悔しかったら俺みたいに満点取ってみろよ!」


そう言って見せてきたのは先日受けて戻ってきた満点のテスト用紙。

水戸黄門のスケさんカクさんよろしく“この紋所が目に入らぬか!”ばりにドヤ顔で突きつけてくる光り輝く満点のテスト用紙にうさぎはたじろいだ。

そして思った。同じ兄弟にもかかわらずどうしてこんなに違うのかと。同時に己の馬鹿さ加減に嫌気がさした。


「そーよ!もっと頑張って勉強していい成績取りなさいよ!」


応戦してきたちびうさも水戸黄門のスケさんカクさんみたく満点の答案用紙をうさぎの目の前に持ってきて威張り散らかしている。

完全にカウンターパンチを食らったうさぎは気力なくリビングを立ち去って行った。


2階の自分の部屋に入るとリビングで様子を見ていてそのまま付いてきたルナが話しかけて来た。


「育子ママの言う通りよ。観念して大人しく勉強しなさい!将来クイーンになるんだから勉強はとっても大切よ!それにね、彼女がバカなんてまもちゃんがあまりにも不憫よ」


やっと喋れると思ったのか、無言だった反動で言いたい放題言ってきた。

傷心の心に塩が塗られ、余計に気持ちが沈むうさぎに今度はまた追ってきたちびうさからトドメの一撃を食らわされた。


「昔のママがこんなにバカだなんて娘の私もすっごく可哀想よ!」


そう、ちびうさは未来の衛とうさぎの娘。

未来から修行にやって来たのだ。

衛の血を引いているだけあり、頭がいい。

うさぎの未来の姿であるネオクイーンセレニティがとても偉大だった為、過去へ来ておっちょこちょいでバカだったからとても驚き、ガッカリしていた。同時にホッとしたのも事実。

だけど、まさかこんなにバカだったとは想定外でとても衝撃だった。


「2人して酷いよ……」

「事実なんだから仕方ないじゃない!」

「そうよ!勉強してないうさぎが悪い!」

「まもちゃんと誕生日にデート出来るって思ってたのに……」

「大丈夫よ、うさぎ!私もその日は誕生日だから、代わりにまもちゃんとデートしといてあ・げ・る!」

「どうしてそーなるのよ!」

「うさぎに代わって、まもちゃんとデートよ~♪アハハハ~」


そう言ってちびうさは楽しそうにうさぎの部屋から出ていった。

部屋に残されたうさぎは通信機を取り出し、衛に連絡を取る事にした。


「うさ、どうした?敵が現れたのか?」

「……ううん、そうじゃないの」

「どうした?元気無いな?」


目に見えて落ち込んでいるうさぎを見て衛はとても心配になる。

その優しい声と眼差しに、家族の前では我慢していた涙が止めどなく溢れだしてくる。


「うさ?」


いきなり泣き崩れるうさぎを目の前にして、どうしていいか分からず衛はただただ狼狽えるばかり。

そこにまだ部屋にいたルナが泣いて受け答え出来ずにいるうさぎの代わりに説明しようと通信機に近付いてきた。


「ルナ、一体うさに何があったんだ?」

「うん、ただのわがままよ!心配する程ではないわ!自業自得だもの」

「どういう事だ?」

「あのね、中間テストの成績が悪くてママに怒られて期末テスト終わるまで遊ぶの禁止された、それだけの事よ!」

「ちょっと待て、って事はうさの誕生日は……」


ルナから紡ぎ出された言葉に愕然となり、衛は確認の言葉を言い淀んで続けて言えなくなった。


「そう、当然会えないわね?まぁ仕方ないわよ。うさぎちゃんの将来の為だもの、少しくらい我慢出来るわよね?これからいくらだって誕生日祝えるんだから」


言葉が続けられない衛に変わり、ルナが言葉を引き取り、色々尾ひれはひれ付けて説明してきた。

確かにルナの言う通り30世紀までずっと過ごすという未来が約束されている。いくらだってうさぎの誕生日を祝えるのは事実だが、そう言う問題では無い。

“15歳の誕生日”は1度だけだ。

そしてあろう事か、付き合って初めてのうさぎの誕生日。

そんな特別な日に会えないと言う事実に衝撃を受け頭が真っ白になる。

衛は初めてのうさぎの誕生日をどう過ごそうか?何をプレゼントしようかと最近そればかり考えていたし、昨日までうさぎに必要以上にアピールされていた事もあり、うさぎの喜ぶ顔がみたくて色々考えていた。

それだけにとても残念な事だった。

うさぎ同様、衛にとってもこの“うさぎの誕生日は会えない”と言う言葉は死刑宣告ぐらいの破壊力を持っていた。


「まもちゃん?大丈夫?」


うさぎと同じく固まったまま黙ってしまった衛を心配したルナは話しかける。


「その代わりにちびうさちゃんがデートするんだって言ってたわよ?」

「……ちびうさ?どうして?」

「ちびうさちゃんもうさぎちゃんと同じ誕生日だからだそうよ?」


だからと言ってうさぎの代わりにはならないだろうと思いつつも、衛はそれならちびうさにも誕生日プレゼントをあげないといけないと瞬時に頭を切りかえた。


「そっか、ちびうさもうさと同じ誕生日なのか……」


衛はその時初めてちびうさの誕生日を知った。

うさぎの誕生日を知ったのもブラックムーン一族との戦いが終わって暫くして落ち着いた時だった。

うさぎとちびうさが同じ日と言う事は未来の自分であるキングエンディミオンは毎年この時期とても大変な思いをしているのではないかと未来の自分に思いを馳せ、労をねぎらう。


「そうみたいね?偶然にしては出来すぎてるけど……」


ジト目で何か言いたそうにルナは語尾に何か含みを持たせてくる。

それは未来の俺がした事だから今の自分に言わないでくれと心の中で思った。

気まづくなり、飲みかけて冷えそうになっているコーヒーを一口すする。


「じゃあその日はうさじゃ無くてちびうさと会う事になるのか……」


辛いが、さっさと事実を受け入れる事にした衛。

しかし、実際口に出すとズッシリと悲しみがのしかかってきて殺傷能力が半端じゃなかった。


「うぇ……まもちゃん……」


漸く口を開いたうさぎだが、辛くて言葉が続かない。

自分とは違い、案外とあっさり誕生日だけでは無く暫く会えない口実を受け入れてしまった衛に衝撃を受け、言葉が出てこない。涙も収まらない。


「うさ……仕方ないが、うさの将来の為だ。期末テストいい点取って育子ママ見返して思う存分会えるようにしような!」

「まもちゃん……うん、うん、そーする!」

「それに会うなとは言われたけど、話すなとは言われてないわけだろ?毎日通信機で連絡取ればいいよ。それなら顔も見られて一石二鳥だ!」


衛に励まされ、漸く前向きに考えられる様になるうさぎ。

それを見ていたルナは単純で良いなと呆れていると衛からのとんでもない提案に驚いて目がとび出そうになる。


「通信機はそんな事に使う為に渡したんじゃないわよ!まもちゃんともあろう人がそんな悪知恵働かせるなんて……」


信じられないと悪態をつくルナ。


「頼むよルナ、うさのやる気をあげるためにもさ?」

「お願いルナ!分からないところとか聞きたいし」


それらしい事を言っているが、結局衛を前にすると絶対勉強などしないだろうとルナは見透かしていた。それだけに黙って見過ごせない。

発言しようとしたその時、通信機の向こう側で電話がなる音がして遮られる。


「電話だ。じゃあ、また」

「うん、まもちゃんまたね♪」


電話がなった事でこの日の通信は強制終了した。




「はい、地場です」

「まもちゃん、ちびうさだよ♪」


一方、衛は通信機を切り、電話に出ると先程話しに出ていたちびうさからだった。


「ああ、ちびうさか」

「なぁにぃ~その微妙な返事は?うさぎじゃ無くてガッカリしたって感じ?」

「いや、そんな事ないよ!」


うさぎとの通信していて、暫く会えないと言う宣告と通信を遮られたことにより、多少ガッカリしてはいた衛だが、それが隠せず出てしまっていたのか、ちびうさに見透かされてしまったようで慌てて取り繕う。


「本当にぃ?声に元気ないよ?」


ちびうさはうさぎと違い感がいい。

この性格は自分に似ているところだと衛は思っていた。

だからこそ誤魔化せないと考え、観念する事にした。


「いや、本当にうさだとは思って無かったんだ。通信機でギリギリまで話していたから」

「だからまもちゃんの通信機に繋がらなかったんだ……」

「そっちにかけてくれてたんだな、ごめんちびうさ」

「良いわよ!どーせ話が長いって分かってるもん!……うさぎと話したって事はあの事はもう聞いたの?」

「ああ、聞いた」


“あの事”とは成績が悪いうさぎとは期末テスト終わるまで会えないと言う事。

だが、衛は絶賛その事で絶望中の為、手短にしか答えられない。

受け入れはしたが、言葉にすると現実味が増して波のように一気に押し寄せて来るような気がして言えずにいた。

そんな衛の事を勘のいいちびうさは読み取った。


「うさぎと会えない事がそんなにショック?一生会うな!とか、別れろ!って言われてるんじゃないんだから……。ほんの3週間程度じゃない」

「そうは言ってもな……」

「私なんてパパとママにもう3ヶ月以上会ってないのよ?」


それを言われるともう何も言えなくなる。

まだ幼いちびうさはセーラー戦士修行の為、両親と離れて月野家で暮らしている。

そのちびうさに言われると弱音は吐けない。


「そうだったな。すまないちびうさ……寂しいよな?会いたいか?」

「寂しいし会いたいけど、立派な戦士になるまで帰らないって決めたから」

「そうか、偉いな!俺らもちびうさ見習わないとな」

「まぁ私は900年生きてパパとママと過ごしてきたからね!2人共公務が忙しくて会えない時もあったけど……」


30世紀にいても多忙な両親とはあまり会えず、寂しい思いを抱えている事を知った衛は心を締め付けられる思いだった。

そして将来、うさぎと結婚してちびうさを授かったら寂しい思いを最小限に出来るように努力しようと違うのであった。

衛自身もちびうさくらいの時期は両親が他界し、親戚の家を転々としていた過去があるから寂しい気持ちはよく分かる。

小さい子供に寂しい思いをさせるのは間違っているとやるせなくなる。

きっと未来の2人も寂しいのは嫌いだから分かって努力はして来ただろうと思うが、それでも埋めきれず寂しい思いをさせてしまっているのだろうと衛は悔しさを滲ませる。

公務や仕事は2人で抱え込まず戦士達と分担しようと心に誓った。


「ちびうさは大人だな!俺は全然ダメだ。うさと少し会えないくらいで心が折れそうになってる」

「えへへー照れるなぁ~♪まもちゃん、大丈夫だよ!うさぎの代わりに私がまもちゃんとデートしてあ・げ・る♪」

「ありがとな、ちびうさ」

「あ~まもちゃん、本気にしてないでしょう?私、本当にまもちゃんとデートするからね!」


こんなチャンスは滅多にない為、デートにこぎつけようと必死になるちびうさ。

弱っている衛の心に寄り添って、あわよくば、うさぎから彼女の座を奪おうと意気込んでいた。


「分かった分かった」

「だからね、6月30日絶対!空けておいてね?うさぎの誕生日だけど、私の誕生日でもあるから祝って欲しいの♪」


この前、ムゲン・C・パークに連れて行って欲しいと頼まれたのと同じテンションでお願いされる。オネダリにとても弱い衛は承諾する事にした。

どうせうさぎには会えない。代わりにはならないが、未来から来た娘を祝えない両親の代わりに祝ってやろうと考えた。


「分かったよ。行きたい所とか考えておいて!誕生日プレゼントのリクエストとかある?」

「わぁ~い、ありがとうまもちゃん♪当日一緒に見て買ってもらうから大丈夫だよ!じゃあね!」


誕生日当日、会える事になった事が嬉しくて約束を取り付けた所でちびうさは電話を切った。

ちびうさのお陰で衛は絶望的な宣告から浮上出来たのであった。



翌日、いつもの様に学校に登校したうさぎ。

亜美やまことに昨日の出来事を話しながらため息混じりに嘆いた。


「私達は受験生なんだから、勉強するのは当然よ!期末までと言わず、受験が終わるまでやるべきね!」


勉強の鬼である亜美はうさぎの状況に同情など全くしなかった。それどころか育子ママより恐ろしい事を言ってくる。


「両親がいると色々言われて大変そうだな。受験勉強しなきゃいけないのは分かるけど、新たな敵や新戦士とか現れて、正直それどころじゃないよな?」


勉強嫌いなまことはうさぎの置かれた状況に同情してくれる。成績が悪いのも戦士として頑張っているから仕方ない事もフォローしてくれる優しさでうさぎはホッとした。


「そーだよね!私達、勉強どころじゃなかったよね?成績悪いのは私達が悪いわけじゃないわ!次から次に襲ってくる敵のせいよ!」


強い味方を得たうさぎは浮上して意気揚々と戦士として頑張っている事を主張する。

しかし、そうは問屋が卸さなかった。


「それはね、現実逃避と言う名の甘えよ?敵は私達の私生活なんて知らないし、先生や家族だって私達が置かれてる状況なんか分からない。時間を見つけてやればいいだけなんだから」


ド正論で畳み掛けてくる亜美にうさぎもまことも何も言えなくなる。


「いい機会だわ!週一回勉強会しましょう♪分からない所は私がみっちり教えてあげるわ!」


何も言えなくなっている2人を他所にボルテージが上がった亜美は週一回の勉強会を提案してくる始末。

追い討ちをかけるその言葉に更にうさぎは落ち込む。衛と会える日が益々減る事が暗に示された形だからだ。当然と言えば当然だが、寂しい。

しかし、勉強の鬼の亜美に泣き言を言っても通用しない事が分かっているため、受け入れる事にした。


そしてトドメはなると海野、ゆみとくりだ。

昨日の出来事を話すと4人に大爆笑される始末。それだけならまだしも海野からとんでもない提案がなされた。


「受験勉強兼ねてテスト勉強みんなでしましょう♪期末テストのヤマ、かけてあげますよ?」


有難い申し出だが、海野より衛に教えてもらいたいと思っていたうさぎは断ろうとした。


「いいわねぇ~♪すっごい助かる!」

「めっちゃありがたい!」

「ラッキー」


うさぎの思いとは裏腹に3人はノリノリで提案に乗ったのだ。


「私、亜美ちゃん達とも勉強会するんだけど……」

「じゃあその日とかぶらなきゃいいって事よね?」


それはそうなのだが、そういう事でも無くてなるべく回避したい方向だった。


「そうよ、うさぎの為の勉強会よ!」

「うさぎがいなくてどうするの!!」


なるを筆頭にゆみもくりも捲し立てて勉強会参加要請を出してくる。

みんなうさぎを心配している事が伝わるが、余計なお世話である。

しかし、申し出を無碍に断る訳にも行かず、押し切られた形で週一回の勉強会を渋々承知することにした。



全ては自分の成績が悪い事、そして何より自分の為であることは頭では充分すぎるくらい理解していた。しかし、心は別だった。

衛と付き合って初めての誕生日を過ごす予定だった。

とても楽しみにしていたのに、いきなり潰えてしまい悲しかった。

“仕方ない”の一言ではとても済ませられないくらい気持ちが落ち込む。

それでも何とか期末テストを目標に放課後は真っ直ぐ家へ帰り、寝る時間まで集中力が続く限り勉強した。

毎日通信機で衛から激励の連絡が来る事がうさぎが頑張れる最大の理由だった。


「うさ、頑張ってるか?」


通信機はラブラブするためでは無いとルナからお叱りを貰ったが、“衛から連絡を入れる事、うさぎからは絶対連絡を入れない事、最長10分まで”この3つを約束する事で承諾を勝ち取った。

そして専ら連絡が入るのは決まって夜遅く、22時を回ってからだった。

邪魔では無い時間帯にと衛が気を使った結果だった。


「まもちゃんと会えなくて心が折れそうだよぅ……」

「俺もうさに会えなくて寂しいよ」

「ちびうさが毎日押しかけてるんだよね?ごめんね、邪魔して」

「いや、お陰で楽しいよ!ちびうさなりに俺たちに気を使ってくれてるんじゃないかな?」

「私には嫌味にしか映らないけど……」


ちびうさ的には滅多にないチャンスに衛との仲を深めたい一心だった。

けれど衛にうさぎ以外の悪い虫が寄ってこないようにと言う目的も実はあった。

衛は顔も良く、頭もいい。そしてそこに加えて色気も半端ではない。挙句に優しいときたもんだ。女性に兎に角モテまくる。美女が放っておかない。

当の衛はうさぎしか見えていないのが現状で、他の女の人には丸で興味はない。

うさぎと会えない間に付け込まれ、ほかの女になびかないようにとちびうさなりの牽制方法だった。

衛の事は大好きだが未来の父親である為、不本意ではあるが未来の母親であるうさぎ以外の女性とくっつかれるのはやはり面白いものでは無い。何より2人が結婚してくれないと産まれない。それがちびうさにとって何より怖かった。

そしてうさぎの方にも邪魔して気が散らないようにと配慮していた。遠回しで不器用だが、ちびうさなりにうさぎの受験勉強を応援していた。

勘のいい衛には伝わっている部分もあったが、鈍いうさぎにはさっぱり伝わっておらずただただ衛を独占するお邪魔ちびでしかなかった。


「まぁそう言ってやるなよ。アイツも両親と離れて暮らしてるんだ、こうやって通信機ですぐに連絡取れる俺らとは違って中々難しいんだし」

「……まもちゃんがそーゆーなら仕方ないわね。だけど、邪魔だったら遠慮なく追い返していいからね!まもちゃんちびうさに甘いからさ……」

「そんな事ないぜ?ちびうさ、うちで大人しく宿題して分からない所俺に聞いてくるんだ」

「へぇー私と違ってちびうさは勉強熱心で偉いわね!」


うさぎは進んで勉強しない自分に対しての皮肉だと思った。衛の血を引いてるだけあり、勉強は苦ではないらしい。伊達に満点はとってない。

差を見せつけられてまたうさぎは凹んでため息をついてしまう。


「うさはうさのペースで頑張れ!俺はうさは出来る子だって信じてる」

「うん、頑張る!」


衛に励まされ、単純なうさぎはすぐに浮上し、いい点を取れるよう頑張って勉強しようと改めて誓いを立て、そこでこの日の通信を終えた。


「じゃあ、うさ、おやすみ」

「おやすみなさい、まもちゃん」


名残惜しいが時間が限られているため仕方が無い。

育子ママから怒られた日からルナはサボったり寝たりするのを厳しい目で監視する役目を独自で担っている。その為、息抜きも出来ない。そして衛との通信時間も誤魔化せない。



毎日平日は学校へ行き授業を受ける。

そして学校が終わればどこにも寄らず全く家に帰る。

帰って寝るまで期末テストの勉強。

合間に夕飯と衛との通信。

これがうさぎのルーティーンとなっていた。

しかし、いくら毎日衛と通信機で顔を見て話しているからと言ってもそれだけでは足りない。

会いたい気持ちが募っていく。

だが、学校が終わる時間になるとルナが毎日迎えに来て衛と会うことが叶わない。

目を離した隙にうさぎはきっと寄り道したり、衛と会うだろうと読んでいたルナが散歩がてら学校まで迎えに来るのである。

つまり、放課後から寝るまではルナの厳しい監視下にある。わかってた結果とは言え息が詰まる。


毎週土曜日は亜美主催の受験勉強をまことの家で5人で朝から夕方までする事になっている。

そして日曜日は海野主催で海野宅でなる達5人で勉強会。

そんな鬼スケジュールで衛と会う時間が無い。

衛は頭がいいからちびうさと同じ様に教えてもらいたいとルナに申し出たものの結局健全な勉強など出来ずろくな方向にしか行かないと却下されたのだ。なんて世知辛い世の中だとうさぎは呪った。


衛と会えないストレスレベルがピークを達したうさぎはいつもの正門とは違い、裏門から出てルナの包囲網をかいくぐり、寄り道をしようと試みた。

違う裏門から出ていつもと違う道を通って帰るという作戦は甲を制し、ルナに会うことなくうさぎは一ノ橋公園へと向かう。

きっとルナは正門で待っているだろうと良心が傷んだが、衛と少しでも会いたい一心だった。

とは言え会う約束はしてはいない為、会えないかもしれない事は承知の上だった。

ただ、遊びを禁じられる前は学校の行き帰りは毎日必ず衛と一ノ橋公園で会うと言う暗黙の了解をしていた。

ここが良くも悪くも2人には思い出深い場所だった。会えなくとも思い出に浸りノスタルジックな気分になりたかった。


いるわけが無いと思いつつ公園に到着したうさぎは周りを見渡すが、やはり衛はいなかった。


「ガッカリするな、うさぎ!分かってた事じゃない!」


自分自身に喝を入れつつ、お互いの物をトレードしようと約束したベンチに腰かける。

今日はトレード品の懐中時計は残念ながら持ってきてはいない。

勢いでここに来たから仕方が無いが、手持ち無沙汰に寂しくなる。

ルナに怒られるのが目に見えてわかるので、後10分程勉強して待ってみようと思い、教科書を鞄から取り出す。

梅雨の合間の快晴でとても気持ちがいい日だった為、気分転換にもなった。

青空の下での勉強も悪くないと思いながらもやはりこんな日は思いっきり遊びたいとも思っていた。成績が悪いゆえ、不自由な生活になった事をまた激しく呪う。


「うさ?」


教科書と睨めっこしていたら会いたくて仕方ない愛しい人の声で愛称を呼ばれ、うさぎはハッとした。

(嘘?でもまさか?そんな……)と遠藤として戻って来た時と同じ様に同様する。

呼ばれた方向に顔を上げて確認する。


「……まもちゃん!どう、して?」

「うさの方こそ、何でここにいるんだ?」


2人とも訳が分からないと言った様子で驚いている。

確かにここはいつも放課後に待ち合わせている場所ではあるが、遊び禁止令が出てからはそれも無しにしていた。


「じゃあ、俺はここで」

「あ、ああ、浅沼、ありがとな!」

「久しぶりのうさぎ先輩、堪能して下さい!」

「浅沼くん、ごめんね?ありがとう!」

「全然!邪魔者は帰るので遠慮なくラブラブして下さい」


衛と一緒にいた浅沼は気を利かせて慌てて帰って行った。

うさぎと会えなくなってから衛は可愛がってる後輩の浅沼と一緒に帰ることが多くなっていた。勿論、衛先輩大好き芸人の浅沼は喜んで引き受けてくれていた。


「まもちゃん!」


浅沼がその場から離れた途端うさぎは、泣きながら衛の胸にダイブして来た。それを衛はキツく抱きとめる。


「会いたかった!会いたかったよぉ……」

「俺も会いたかった」


何週間か振りの再会と抱擁だった。


衛もまた会いたくて、来ないと分かりきってはいたものの日課で公園に毎日寄り道しては少しうさぎを待っていた。

だけど、やはり毎日うさぎは現れない為、そろそろ来るのをよそうかと思っていた矢先の事だった。

一人で待つのは寂しくて事情を話して浅沼に付き合って貰っていた。うさぎと同じで長くは待たず帰っていた。早く帰らないとちびうさがやってくるからだ。


うさぎが泣き止むまで衛はずっと抱きしめていた。久しぶりのうさぎの感触に、浅沼の言う通り堪能していた。

そしてまた期末テストが終わるまで会えない事が確定している為、今のうちにうさチャージをしておきたかった。


「どうしてまもちゃんここに来たの?」


泣き止んだうさぎは顔を上げて先程の問いを聞いてきた。


「会えないって分かっててももしかしたらって足がここに向かうんだよな。通り道でもあるし、来ないのも違うかと思ってな。うさは?ルナの監視が厳しいんじゃなかったのか?」

「私もまもちゃんに会いたくていつもと違う道を通ってここに来たの。……ルナには後で怒られると思うけど、限界でした」

「そっか……じゃあ今日は通信機での連絡は止めた方がいいか?それとも俺も一緒に怒られるべきか?」

「ありがとう、まもちゃん。優しいね!だけど、私が勝手に来たんだもん!1人で怒られるよ……」


怒られるのは慣れているから、とうさぎはバツが悪そうに言いながら笑顔で断ってきた。その笑顔がとても眩しかった。

久しぶりのうさぎの笑顔に癒されてホッとする。

このままずっと一緒にいたい。時が止まればいいのに。2人とも同じ気持ちだった。

まるで出会ってお互いの正体を明かしたあの時のような、ドキドキとしてときめいていた。


「何か変な気持ちだね?通信機で毎日顔みてるのに、久しぶりに会うからドキドキしちゃう」

「俺もヤバい!帰したくない……」


そうは言っても今のうさぎは期末テストを突破する為、少しの時間も惜しんで勉強しなければ行けない。

そして衛の家にはそろそろちびうさがやってくる。

2人に残された時間は決して多くはない。


「あたしも……帰りたくない!ずっと一緒にいたいよぉ……」


久しぶりの再会にもかかわらず少しの時間しか過ごせないことにやるせなさを感じ、またうさぎは泣き出してしまった。

とめどなく流れる涙を衛は指で優しく拭う。


「途中まで送って行くよ」


少しでも長く過ごしたかった。

そして元気になって笑顔で帰って欲しかった。

衛の申し出にたちまち泣きやみ、笑顔に戻るうさぎ。


「うん!ありがとう、まもちゃん♪」


お互いの手を絡め、公園を後にする2人。

うさぎの家に近づく事はまた当分会えなくなる事を安易に示している為、2人とも足取りはかなり重い。

しかし、それでもうさぎの家に近づく為、名残惜しいがそこでさよならをする事にした。


「送ってくれてありがとう♪じゃあね、まもちゃん!」

「ああ、今日は連絡はしないけど、勉強、頑張れよ!夏休みも会いたいからさ」


惜しみつつもうさぎは家へと向かう事にして踵を返す。

それを学校の正門で待てど暮らせど出てこないうさぎに逃げられたのでは?と探していたルナに見られていた。


「ちょっと!あんた達、なぁにやってんの?」


最初からマジ切れでまくし立ててくるルナに2人はたじろぐ。


「これは一体どういうこと?何で2人が一緒にいるの?」

「ごめんなさい、ルナ!」

「すまない、ルナ」


素直に頭を低く下げて謝る2人を見てルナは怒る気力を少し奪われる。


「ま、まぁ少し厳しくしすぎたかしらね?うさぎちゃんも頑張ってたし……」

「ルナ、ありがとう!大好き♪期末テストまで頑張るわ!」

「ルナ、ありがとな!期末テスト終わるまで会うの我慢するよ」

「私だって鬼じゃないわよ?これでうさぎちゃんが頑張って勉強してくれるなら文句はないわ」

「するわ!あと10日、頑張るぞ~!」

「じゃあ勉強する為に帰りましょう」


そう言ってルナは衛にペコりと少し頭を垂れて会釈するとうさぎの肩に乗り、家へと帰るよう促した。


「じゃあまもちゃん、期末テスト終了した日にね」


左手を上げ、大きく手を振り笑顔で家へと帰って行った。それを少し寂しい気持ちで見送り、衛も家へと帰って行った。


いつもより少し遅く帰宅すると育子ママが腕を組んで待っていた。少しばかり怒っているようだ。


「おかえり、うさぎ。ここ最近では遅い帰宅ね?」

「えへへぇ~ごめんなさい!梅雨の合間の快晴が気持ち良くて少し気分転換してきちゃった。公園で少しだけ勉強してきたから許して!お願いママ」

「仕方ないわねぇ……また頑張って勉強しなさいよ?」

「はーい♪」


ここ最近頑張っている所を見ていたからだろうか?ルナも育子ママも多目に見てくれてホッとしたうさぎは部屋へと向かい、部屋着に着替えるとまた勉強を始めた。

衛と会ったことによりうさぎの士気は上がり、それから毎日寄り道もせず勉強に励んだ。



そしてあっという間に日は過ぎて、運命の日の一つである6月30日になる。ーーそう、うさぎの誕生日だ。

来る日も来る日もテスト勉強で案外と充実していたのか、思いの外早くこの日を迎える事になった。

記念すべき衛と初めて過ごすはずだった1回の15歳の誕生日。

しかし、受験生にも関わらず酷い成績をたたき出した中間テストのせいで会うことが許されないまま当日を迎え、うさぎは意気消沈していた。

誕生日だけれど、こんなに全然嬉しくもない誕生日を迎えるなんて……と言う感じである。

一方のちびうさはうさぎと違い、朝からウキウキしていた。


「今日は放課後まもちゃんとデート♪」


あからさまなアピールに大人気なくイライラするうさぎ。

ただ、平日なのが幸いして夕方までは学校の為、会えない事を考える時間が減るのはありがたい事だった。


「あんた、まもちゃんに迷惑かけちゃダメよ?わがままとか言わないようにね!」

「うさぎじゃあるまいし、大丈夫よ♪」


余裕のないうさぎとは違い、ちびうさは余裕綽々だ。


「2人とも、喧嘩してないでサッサと朝食食べて学校行きなさい!」


起きて制服と私服に着替えてダイニングで言い争っていると育子ママに怒られる。

その鶴の一声で2人は大人しく朝食を食べて学校へと向かっていった。


学校へ行くと親友のなるを筆頭に次々祝いの言葉を言いに来てくれる。勿論、亜美とまことの2人も。

亜美からは受験に役立つ問題集を特上の笑顔でプレゼントされた。

レイの時にもあげていたから嫌な予感はしていたが、やはりだった。

この調子で美奈子とまこともプレゼントは問題集なんだろうと同情した。


学校があったから色んな人が祝ってくれ、プレゼントもみんなから貰い、帰る頃には両手いっぱいに抱える程の量になっていた。

有難いと思いながらもふと寂しくなる。

これだけプレゼントを貰いながらもやはり衛から当日に直接貰えないことに悲しくなる。

やはりちゃんと当日に会って直接祝って欲しかったし、プレゼントも衛から欲しかったと思ってしまう。

でも中間テストの成績が尽く赤点オンパレードの酷い成績で、勉強せざるを得ない。

誕生日と期末テストが近いのも問題だ。

この分だと高校に行けても誕生日は期末テストの何日か前って結果になって勉強に追われる羽目になるのだろうと絶望した。


そんなどうする事も出来ない事を思いながら家へと帰宅すして大人しく机に向かい、大人しく勉強する事にした。

いつものちびうさの騒がしい声が聞こえてこないことに気づき、衛の家にもう行ったことが伺え、うさぎはまた凹む。

今頃は衛とデートか……本来ならばそれは私がするはずだったのに、と悔しさが滲み違うと思いながらもちびうさを恨みたくなる。


「うさぎ~ご飯よ~」


悔しい思いを抱えつつも、その思いを振り払う様に一心不乱に勉強していると夕飯が出来たようで育子ママに呼ばれる。

リビングへと降りていくとちびうさはいないが、父親と弟が既に座って待っていた。


「うさぎ、誕生日おめでとう!」

「バカ姉貴も15歳か~もっと年相応に落ち着いて欲しいよ」

「進悟、アンタって子はもっと可愛げのあることが言えないの?お姉ちゃんを敬いなさい!」

「敬いたいのは山々だけど、頭と言動が伴って無いんだよなぁ……彼氏に愛想つかされないようにしろよ?」

「余計なお世話ですよーだ!」

「2人とも、それくらいにして食べましょう。うさぎ誕生日バージョンで腕によりをかけたから豪華よ!」


15歳なんて別に特別ではないけれど、母親にしてみれば多分これが家族最後でうさぎの誕生日を祝える最後だと言う思いがあり、ついつい作りすぎてしまった。

今年の誕生日ももしかすると祝えなかったかもしれない。

綺麗な水晶をペンダントにして貰ったあの日、今にもいなくなるのではないか?と不安に思っていた。

だからこそ母親にとってはうさぎとの時間は貴重だった。

心を鬼にして期末テストまで娯楽禁止で勉強させたのだ。成績が悪いうさぎのおツムのお陰でもある。

ピザやサラダ、ハンバーグにグラタン、そして極めつけは得意のレモンパイがある。

勿論、ケーキも用意してある。

ここ最近頑張って勉強しているうさぎの為、昼からずっと準備していた。


「いただきます♪」

「召し上がれ。うさぎ、お誕生日おめでとう」

「ありがとう、ママ♪」


作りすぎたかと思ったが、流石育ち盛りの大食い娘、勉強でエネルギーを使ってる事も相まってか、取り分けられてる分全て完食する。


「ぷはぁ~美味しかった♪満腹満足!ご馳走様でした」


完食して満足したうさぎは思い足取りで部屋に向かい、勉強を再開する。


「ただいま~」


暫くするとちびうさが帰って来る。

勢い良く階段を駆け上がり、一目散に2階へと上がるとうさぎのドアをノックもせずに勢い良く入って来る。


「うっさぎぃ~お誕生日おめでとう♪これ、まもちゃんと私からのプレゼントよ♪」


注意する暇もなく、間髪入れずにちびうさが言葉を発する。

祝いの言葉とプレゼントに怒る気力もなくなるうさぎ。


「あ、りがと……」

「どういたしまして♪選んだのは私、買ったのはまもちゃんよ!送って貰ってまだ家の前にいるから、直接お礼言ってきたら?」

「で、でも……」


衛に会いたいが、勉強する様言われている為迷いながら部屋にいるルナをチラッと見る。


「仕方ないわね!今日まで頑張って来たからご褒美に少しだけ許してあげるわよ!」

「ありがとう、ルナ!大好き」

「但し、ママの許しがあればね?」

「ママの許し、貰ってくるわ!」


ちびうさから渡されたプレゼントを持って慌ててリビングへと降りていくと育子ママはいなかった。


「パパ、ママは?」

「衛君と喋ってるみたいだぞ」

「そっか、ありがとう、パパ!」


慌てて外に出ると育子ママと衛が喋っている姿が映る。どうやらちびうさを送ってくれたお礼とうさぎと会えなくしてしまったことを謝っているようだった。


「ママ!まもちゃん!」


2人を呼びながら近づく。


「うさ!」

「あら、うさぎ、出てきたの?」

「一言お礼、言いたくて……」


そう言いながらうさぎは育子ママの方をチラッと見ると育子ママはうさぎに近づいてきた。


「夜ももう遅いから少しだけなら良いわよ。余り遅くなっちゃダメよ?」

「ママ、ありがとう!」

「ママだって鬼じゃないわよ?誕生日に彼氏と一緒に過ごしたいって乙女心、分かるわよ♪うふふ」


そう言って育子ママは家の中へと入っていった。

許しを得たうさぎは勢い良く衛の胸の中へとダイブし、ギュッと抱きしめた。

衛も負けじとうさぎを抱きしめ返す。

公園で会った以来の久々の抱擁に2人は人目もはばからず熱く抱きしめ合った。


「まもちゃん……会いたかったよぉ」


そう言って我慢していた分、涙がこぼれた。


「俺も会いたかった」


きつく抱きしめあっていた身体を離し、月野家を離れる為、恋人繋ぎをして公園へと移動した。



公園のベンチに2人で腰かける。


「まもちゃん、プレゼントありがとう♪」

「どういたしまして♪開けてみて」


そう言われ、開けるとそこには自身の誕生石であるムーンストーンで出来た可愛いハート型のネックレスだった。

手に取ったうさぎからネックレスを取り上げると衛は首に付けてあげた。

華奢な身体のうさぎによく合うこじんまりした可愛いネックレスだった。


「可愛い♪嬉しい!大切にするね?」

「喜んでくれて俺も嬉しいよ。選んだのはちびうさだから俺の趣味じゃないんだけどさ」

「ううん、それでもまもちゃんからの愛を感じるよ♪」

「ならよかったよ」


自分で選んだものでは無い物でもそう言って喜んでもらえて衛は嬉しくて目頭が熱くなった。


「うさ、15歳の誕生日おめでとう♪」

「ありがとう、まもちゃん♪」

「うさが産まれて来て、俺と出会ってくれて、俺を好きになって、俺と付き合ってくれてありがとう!」


前世での恋人であり、再転生して出会い恋に落ちる事が約束されていたとしても奇跡的な事だと改めて思っていた。

もしかしたら運命の歯車が少しでもズレていたなら今こうしてここにいなかったかもしれない。

特に衛は6歳の時に事故にあった。それ故に当たり前の普通の幸せに縁遠い所で生きてきた。うさぎ以上にこのミラクルロマンスを感じていた。


見つめ合った2人はどちらともなく目を瞑りながら顔を近づけキスをした。

1ヶ月ぶりくらいの口付けだった。

この前いつもの公園であった時は既のところで思いとどまった事と、夜も更けて暗くなり誰もいなかったこともあって、口付けは次第に長く深いものになる。

2人とも夢中でお互いの舌を絡め、激しく求めあった。

外だという事を忘れそうだったが、既のところで止め、唇を離す。


「そう言えばちびうさとのデートはどうだったの?」

「あ、あぁ……」


聞くか迷ったが聞いてみると衛の返事は何だか覇気がない。


「どうしたの?」

「あぁ、楽しかったぞ」


言葉少なに答える衛にうさぎはそれ以上聞けなくなった。そして後でちびうさに聞いてみようと思った。


「……じゃあ、そろそろ帰るか?」

「う、うん……」


今度はうさぎが言い淀む。

帰りたくはないからだ。

だが、ルナと育子ママの信頼を裏切るわけにもいかない。

束の間ではあるものの会えないと思っていた衛と誕生日に会えた事は単純に嬉しかった。

腰も足取りも重くその場を離れ、月野家へと2人で帰っていく。その間の2人はまた暫く会えなくなると言う事実で無口になっていた。


「送ってくれてありがとう♪……じゃあ、また、ね?」

「あ、あぁ、勉強頑張れよ!おやすみ」

「おやすみなさい」


衛はうさぎを家の前まで送ると踵を返して自分のマンションへと帰って行った。


一方のうさぎは家へと入るとリビングへと行き、育子ママに帰った事を報告し、お礼を言った。

そして2階へと上がるとちびうさの部屋へと向かった。

先程から気になっていた衛とのデートの詳細を聞こうと思ったのだ。


「あ、あの……さあ?……さっきはありがとう」

「良いわよ、別に」

「素直じゃないんだから!で、まもちゃんとのデート?は、どうだったのよ?」

「あぁ、うん、楽しかったよ?」


ちびうさの方も歯切れが悪く、言葉少なだ。

あれだけ楽しみにしていたのにどうしてだろうと思ったが、それ以上は何だか聞いてはいけないような気がした。

珍しい喧嘩でもしたのかな?と考えた。


実際は喧嘩をしたわけではなかった。

2人が言い淀んでしまったのは他ではないうさぎが原因で少し気まづくなってしまったのだ。


それは数時間前の事に話は遡る。

ちびうさは約束通り衛のマンションへ行き、デートをスタートした。

最初は楽しそうにしていた衛だが、段々と心ここに在らずで上の空になっていった。

うさぎとは違い、敏感に察知するちびうさははしゃいでいる自分とは裏腹に余り楽しんでない様子の衛に気づいてしまった。

気づかれてしまったことに気づいた衛は罰が悪そうになる。

ちびうさに悪いと思いつつ、やはりうさぎと会えない事に寂しさが募り、段々と元気がなくなり落ち込んでしまった。

そんな衛の気持ちに気づいたちびうさは衛に提案した。


「ねぇまもちゃん、うさぎの誕生日プレゼント一緒に選ぼう」

「あぁ、そうだな!何がいいかな?うさは何が喜ぶだろう」

「まもちゃんが選んでくれたものなら何でも嬉しいと思うよ?」

「そんなもんか?」

「うん♪」


当日は会えない事が確定していたのと寂しさでうさぎのプレゼントをこの日まで買う気分になれなかった衛。

気を使って何も言わずうさぎのプレゼントを一緒に選ぶことをちびうさに提案されて、衛は少し気分が少し上がる。

ちびうさと一緒にいるのにうさぎの事を考えてしまって気を使わせて人として最低だと衛は自分を責める。

ちびうさはもう大分両親と会えず寂しい事を表にも出さず1人で頑張っているというのに、少し会えないくらいで寂しがるなんて贅沢な悩みだと自分を叱責する。

ちびうさとうさぎのプレゼントを選んでいる間はうさぎの事を考える事を許されている為、不謹慎だが嬉しくて楽しい時間を過ごした。


「まもちゃんって本当にうさぎが大好きだよねぇ~。うさぎがいないと全然ダメダメなんだから!」

「アハハ、ちびうさには嘘が付けないな……」

「あったり前じゃない!何年パパとママを近くで見てきたと思ってんのよ?」

「……未来の俺もうさがいないとダメダメか?」

「残念ながらね?」

「変わらないんだな……面目ない」


そんな調子のデートだったが夜も更けてすっかり暗くなった為、夜道は危険だから月野家までちびうさを送っていくことになった。



そして月野家の前に来ると衛はますますうさぎに会いたい気持ちを募らせ、2階のうさぎの部屋を見上げる。


「うさぎ呼んでくるからちょっと待ってて!」


そんな姿を見たちびうさはそう言い残して慌ただしく家の中へと入っていった。

ちびうさの気遣いに嬉しく思うが、会えるとは限らない為、期待せずに待つことにした。

するとちびうさが2階に駆け上がって行って帰った事を察知した育子ママが玄関に出てきて衛は驚きつつも会釈をした。


「衛くん、今日はちびうさちゃんをありがとう♪」

「こんばんは。いえ、ちびうさも誕生日だったので……」

「それとうさぎの事、ごめんなさいね?会えなくして……。恨んでるでしょう、きっと」

「いえ、そんな!受験生なので勉強するのは当然の事なので……」

「うさぎが出てきたら、残り一緒に過ごしてあげて」


そんなやり取りをしていたらうさぎが出てきて、と言う流れだった。


そんな事とは知らないうさぎはちびうさの部屋を後にして、自分の部屋へと戻って行った。


「ルナ、ただいま~ありがとう、まもちゃんの事許してくれて♪」

「お帰りなさい!楽しかった?」

「うん、久しぶりの生まもちゃん、やっぱり暗闇でもかっこよかった♪」


そう言って首にかかって胸の上で光る物を見せて喜ぶうさぎ。


「こんな素敵なプレゼントまで貰っちゃって、幸せだなぁ~♪」

「良かったわね!じゃあ、期末テスト最終日まで頑張れるわね?」

「……う、うん。よし、やっるぞぉ~」


それからのうさぎは期末テストの当日まですごい集中力で頑張った。

その頑張りは見事成績に現れ、全科目平均点に到達させ、衛とのデートを勝ち取ったのであった。


「そう言えばこの1ヶ月間、敵が大人しかったように思うけど、空気読んでくれてくれたのかな?」

「ん?そうかもね?」


家に買ってきたうさぎは敵の襲来が無かったことに気づいて疑問をルナに問いかけた。

勉強でそれまで敵が襲ってきていないことも気に止めていなかったが、勉強から解き放たれて余裕が出てきたことでふと湧いた疑問だった。

期末テストを終わるまで忘れていたうさぎだが、実は当初遊びを禁止された時から敵が来たら必然的に衛に会えるし、敵と戦うのは怖いけどストレス発散にもなるから敵の襲来に少し期待していた。

しかし結果は物の見事に裏切られ、期末テストまで連絡すら無かった。

不謹慎だったが結構ガッカリしてしまった。


そうかもと答えたルナだが、本当は知っていた。

何度か敵が襲って来ていたが、うさぎには勉強に集中してもらおうとレイ、亜美、まこと、美奈子とちびうさ、そして衛にうさぎに連絡入れずに戦ってもらっていた。

レイとまことは常々プリンセスであるうさぎを戦いの最前線に引っ張り出して、結局自分達の方が守ってもらってしまっている形になっていた事に悩んでいたから良い機会だと受け入れた。

勿論、リーダーの美奈子も快諾した形だ。

うさぎに輪をかけて頭の悪い美奈子は期末テスト勉強を逃れられるならと人一倍張り切っていた。そしてテスト結果は火を見るよりも明らかで、母親に怒られる羽目になってしまったがーー。


セーラー戦士にとって1番の敵で手強いのは“定期テスト”なのかもしれない。




おわり



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