セラムン二次創作小説『自慢したい彼女と独占欲が強い彼氏(まもうさ)』
side うさぎ
遅刻寸前で入って来た教室に、ショートホームルームが終えてからも息が上がっていたあたしは、息を整えていた。ホッと一息ついていると、ゆみことクリに話しかけられる。
「相変わらず遅刻ギリギリね、うさぎ」
「よくもまあ飽きないよね。鍛えてるの?なんてね」
「アハハハハ〜」
三学期が始まり、一ヶ月近く経っても遅刻と遅刻寸前を繰り返していた。
まもちゃんと付き合い始めて2ヶ月程経つと言うのに進歩のない自分に凹みそう。せっかく一緒に登校する事になっているのに、いつも待たせてばかりで。
早く起きて少しでも長く過ごしたいと言う気持ちはあるのに、身体が言う事を聞いてくれない。だって、だってさぁ!
「寒くて布団から出られなくってぇ……」
情けない話、元々寝子な上に今は真冬。寒くて起きるのが辛い。夏生まれの私は、寒い冬が嫌いだ。
「分からなくもないけどさ」
「でも、たまに早く来れる時もあるわよね?」
「なるちゃん!」
流石は親友。ちゃんと見ててくれてる。助け舟にほっとする。
だけど、なるちゃんが会話に入って来て、事態は思わぬ方向へ行くなんて、この時の私は予想だにしていなかった。
「奇跡に近いよね。何かあったの?」
「ええ〜、何にもないよぉ」
「嘘ね、うさぎ。知ってるのよ?」
「そうよ、観念なさい!」
ついついはぐらかしてしまったけれど、ゆみことクリがそれを許してはくれなかった。
意味深な笑顔をして私を見てくる。何だか怖い。
「何なに?何か知ってるの?」
いつもと様子の違うゆみことクリを見たなるちゃんは、二人に質問をした。
「それがね、見ちゃったのよ私たち。ね、クリ?」
「そうなのよ。ねぇ〜、ゆみこ」
二人して顔を見合せてニヤニヤ。したかと思えばそのままのニヤケ顔で私の顔を覗いてくる。
「さあ、うさぎ!逃げられないわよ」
「え、何?」
「私たち、見ちゃったんだから!」
「だから、何?」
二人とも前のめりで覗いて来たかと思うと、両手を机に強く叩きながらついて来る。必然的に二人の顔がドアップになり、怖い。
「放課後に男の人と一緒にいると・こ・ろ!」
「腕、組んでた。あの人は、誰?」
「え、うさぎ彼氏出来たの?」
うっわぁ。あっちゃあ。バレちゃった!
って、どーどーと付き合っているのだからバレるのは時間の問題なのは分かっていたけれど。
「え、あ、いや、あの、その、それは……」
思わずしどろもどろになる。
こう言うの初めてだから、どうすればいいのか分からない。どうしたら正解なのかな?
自慢、とかしちゃってもいいかな?
今は前世とは違うわけだし、見られたからって誤魔化さなくてもいいんだよね?
彼氏だって、付き合ってるんだって事情を知らない友達に話しちゃっても美奈ちゃん達怒らないよね?分かってくれるよね?
応援、してくれる、よね?
だって、どーどーと付き合えるんだよ?
それってすごい事なんだよ!
前世からしたら、尊くて素敵なことなんだもん。
「えっと、うん……か、彼氏、だよ」
暫くの葛藤の末、意を決してゆみことクリの質問に肯定の言葉を絞り出した。
うっわぁ、言っちゃった。言っちゃったよぉ。照れちゃう!
ゆみこやクリ、なるちゃんの反応が気になる。恥ずかしいよお!
「やっぱりぃ〜!」
「きゃあああああああ」
「うっそぉ、うさぎに彼氏?どんな人?」
各々三者三様の驚きを見せる。でもみんな驚きを隠せない様だった。
そりゃあそうだよね。好きな人がいることなんて言ってなかったもん。
「ここの生徒じゃないよね?見た事ない人だったし」
「そうそう、違う制服で落ち着いた感じの人だった」
「ええ、そうなの?私も見たかったなぁ。ってか、彼氏出来たなら教えてよ。私たち、親友でしょ?」
「ごめんね、なるちゃん。何か、実感なくってさ」
タイミングを逃して彼氏が出来たことをなるちゃんに言えずにいた私は、そう咄嗟に誤魔化した。実感ないのも本当。
本当は出来れば真っ先になるちゃんに紹介したかった。だけど、していいものかも分からなくて、今まで来てしまっていた。
親友のなるちゃんにはこう言う形で知られたくなかったかも。もっと早く言えばよかったかな。ちょっと悲しそうななるちゃんの顔を見て心がチクッと傷んだ。
「仕方ない、許してやるか!」
「ありがとう、なるちゃん」
「その代わり、今度ちゃんと紹介してね」
しょうかい……?て、あの紹介の、事?
知り合いに誰かを教えるって、あれ?
なるちゃんにまもちゃんを見せるの?
まもちゃんを誰かに紹介しちゃっても、いいの?え?何それ、素敵過ぎない?
「私たちにもちゃんと紹介してよ!」
「そうよ、遠目で見ただけだしさ」
そっか。ゆみことクリだってソッと遠くで偶然見てただけだもんね。
きっと本当は声をかけたかったのを邪魔しちゃ悪いと思って我慢してくれてたんだろうな。
「うん、まもちゃんに話しておくね♪」
まもちゃん、快諾してくれるかな?
なんて考える暇もなく、その後は一時限目が始まるまでまもちゃんに関しての質問ばかり。所謂、ガールズトークが展開されて、やっぱり女の子は恋愛話好きなんだなと思った。
side 衛
「衛先輩!」
学食を一人で食べていると、浅沼に話しかけられてハッとなり顔を上げる。
「ご一緒してもいいですか?」
「ああ」
三学期に入って浅沼に会うのは初めてか。
高校と中学じゃ校舎も違うし、中々合わないもんだな。なんて俺は呑気に学食を食べながら浅沼との相席を快諾していた。
「久しぶりですよね、こうして会うの」
「そうだな。元気、だったよな?」
「ええ、勿論!衛先輩は?」
「ま、いつも通りかな」
当たり障りの無い挨拶程度の会話を展開する。浅沼とは大体こんな感じだ。気を使わなくていい後輩と言うのは心地がいい。
そんな浅沼との会話がまさかの展開になるとはこの時の俺は思いもしなかった。
「またまたぁ〜」
「ん、なんだ?」
「衛先輩、彼女、出来たんですよねぇ〜」
「ブッ!はあ?」
浅沼の爆弾発言に俺は、食べていた物をぶちまける程に驚いてしまった。
え、彼女出来たって断定した?確信しているということか?何故だ?何故、浅沼に知られているんだ。
「どう言う事だ?」
自分でも驚くほど低い声で詰問していた。
浅沼には付き合っている人がいる事は愚か、好きな人がいることすら言っていない。そんな間柄でもなかったし、言う必要も無いと感じていた。
「見てたんですよ。衛先輩が女の人と腕を組んで歩く姿を」
うさこと歩いている所を目撃されていたとは。俺とした事が、迂闊だった。
もっと周りを警戒するべきだった。誰が見ているか分からんからな。平和ボケして警戒心をなくしていた事に気を引き締めなければと改めて感じた。
「後、その後に紹介してもらったんですよ」
「は?誰が誰に?」
「月野うさぎさんを、まこと先輩に」
「え、まこと先輩って?」
浅沼が次から次へと口にした言葉に俺は衝撃を覚えた。
うさこの名前をフルネームで言い当て、まこと先輩と言うどこかで聞いたような名前。考えたくは無いが、まさか……
「木野まことさんです」
やっぱり。ひょっとしなくても、まこちゃんだったか。
二学期のいつだったか、浅沼が背の高い異性と仲良くなったと嬉しそうに言っていたけど、それがまこちゃんと言うことか。
あの頃はまだ互いに正体は知らず、ましてや仲間でもなかった。
うさこと付き合う事になって初めて顔を合わせただけだ。
まこちゃん、余計な事をしてくれたな。
「まこと先輩と衛先輩、知り合いなんですよね?快く彼女さんを紹介してくれましたよ」
浅沼は機嫌の悪い俺を臆すること無く思った事を話してくる。
まぁ、もう紹介してしまった事は仕方が無いとはいえ、俺はうさこを誰にも紹介したく無かったし、する気もなかった。
それが例え浅沼であってもうさこを紹介したいと思っていなかった。取られるとかそう言う風には思って無いが、うさこは俺だけのうさこだ。誰の目にも触れさせたくは無い。
「思っていた人と違ってました。どっちかって言うと、火野さんでしたっけ?火野さんの方がお似合いかと」
「俺のタイプをお前が勝手に決めるな!」
「す、すみません。そう、ですよね」
浅沼の言葉に俺はあからさまにムッとする。うさこを否定された気持ちになったからだが、浅沼はそのつもりは無いだろう。
だが、俺はレイちゃんは苦手だ。気が休まらない。どこか堅苦しい印象だ。
それに四人は、アイツらの……
「うさこの良さは、俺だけが知っていればいいから!」
これ以上の詮索は許さない。その思いも込めて強めにうさこへの愛情を宣言する。
するとその言葉を聞いた浅沼は、ニッコリと笑顔で言い放った言葉に俺は大きなため息と後悔をする事になった。
「衛先輩、彼女さんの事、本当に愛しているんですね」
「はぁ……」
おい、浅沼。何故、そうなる?
まぁ、事実ではあるが……
浅沼に知られてしまったのは仕方がないが、クラスメイトや知り合いに見られないように警戒しなければ。どこで誰に会うか分からないからな。
悪い狼からうさこを護らなければと俺は改めて気を引き締めた。
おわり
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