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Webメディアの編集ライターは読者をバカにしたら終わり

Webメディアで記者とかライターとか編集とかをやっていると、必ず「読者はバカだ」と憤慨したくなる日があると思う。あらかじめ宿命づけられた闇落ちのようなものである。


●記事がスカったときに編集ライターは闇落ちする

どういうときに闇に落ちるのか。Webメディアでは、努力と反響(PVやシェア数など)が必ずしも比例しない。1週間かけて書いた記事の反響がスッカスカで、30分で書いた記事が10万PVをたたきだしたりもする。

だいたい、1週間かけて書いた記事は思い入れが深く、30分というのはそうでもない。だから心の片隅で、「この1週間かけて書いたやつがメチャクチャ読まれてほしい。メチャクチャ面白いと思うから……」と望みをかける。しかし、現実はそんなかけた時間もかけた努力も思い入れも関係ない。PVやシェア数だけが結果として残る。

そうなったとき、「読者はバカだ!」と言いたくなる。バカだ!という直接的な言葉ではないにせよ、「(この記事のよさを)わかってない」「(このテーマの価値を)知らないのか」と言いたくなる。

ただ、広告モデルのメディアをやっているなら(そして多くのWebメディアは広告モデルである)、読者はバカだと考えるのは長期的に見てメディアを殺す。1PV(はつまり0.何円を示す)はビジネス的には平等だ。30分で書いた記事の1PVを軽んじて、1週間かけた記事の1PVを重く扱っていては、メディアは続かない。前者の読者をバカにして、後者の読者を大事にしたら、採算がとれないメディアのできあがりだ。

(そもそも、広告モデルにおけるいい読者というのは、短期的に見れば記事中に表示される広告をたくさんタップ&クリックしてくれる読者になるわけだけど、この辺は完全に話がそれるので割愛)

しかし人間は(巨大な主語)気合を入れた記事がスカると悲しみのあまり闇落ちし、読者を呪う魔女となってしまう。ヤフコメなんかで全然読めてなさそうなコメントを見たらさらに加速する。つまり終わりだ。そこでソウルジェムの濁りを吸い上げるために、気合の入れた記事がスカッたときに(よくある)自分が念じていることを書いておきたい。


1.記事に足りないところはなかったか

私が初めて会社員として記事を書いたのは新卒で配属された「ITmediaビジネスオンライン」というメディアで、そこには小林編集長(ITmedia NEWS→ITmediaビジネスオンライン→現ねとらぼ)というイカす上司がいた。

ネットメディア生まれネットメディア育ちの私の文体は上司にとってはかなりゆるく見え(実際当時は今よりもっとゆるかった)、取材記事に「ブログじゃねえんだぞ」とマジおこされたことは覚えている。

イカす上司が教えてくれたのは「読まれるニュースには3つのうちどれかがある。逆にこの3つがないニュースは読まれない」ということ。

ひとつは「速報性」。どこよりも早いかどうか。

ひとつは「新規性」。新しい情報が含まれているかどうか。

そして最後は「独自性」。これまでにない視点で論じているかどうか。

この3つは今でも念仏のように唱えている。メディアによってどのパラメータが重視されるかは違うが、記事が読まれなかったとき、この3つのどれもなかったとしたら、そりゃ読まれなかったぜ……修行のやり直しだ……とする。


2.タイミングを確認する

掲載タイミングをミスると記事は不発になる。例えば、山ちゃん蒼井優結婚のとき、各ニュース配信プラットフォームはトピックスもランキングもその話題ばかりだった。そんなタイミングで芸能ニュースを出しても埋もれる。もし本当に反響がほしいのなら、急いで山ちゃん蒼井優関連の記事を出した方がいいし、それ以外の記事はちょっと保留しておいたほうがいい。

Webで読まれる時間というのはもう完全に公式があって、平日の朝夕(通勤時間帯)とお昼休み。深夜の2時とかに掲載したら、読んでくれるのは仕事に疲れた人か遊びに疲れた人くらいになってしまう。

タイミングをミスったときは大いに反省するか、もしくはしれっとツイート再投稿などをしよう。それでも伸びなかった場合は布団の中でちょっと泣こう。


3.そもそもの期待値設定を見直す

日本ではとにかく芸能ニュースが読まれ、かためのニュースは読まれにくい。そういった読まれやすい読まれにくいの傾向は、データでも実感でもたまっているはず。

読まれにくいとされるテーマを扱っているのに、読まれやすいテーマと同じくらいの期待値を設定していなかったか。「これだけ読まれてすごーい!」というくらいの自分なりの(現実に即した)反響を設定するよう見直そう。

「これはあんまり読まれないだろうけど、でも取り上げる価値がある」というネタがある場合、もう腹をくくって目標値をガン下げして載せる。そうすれば読まれなくても期待との差がガクーンってなってないのでそこまでつらくない。もしすごい読まれたら「うちの読者最高~!!!」とアゲになるので一石二鳥だ。

ただ注意したいのは、「これはあんまり読まれないだろうけど、でも取り上げる価値がある」ネタばかりを出すと、それはそれでメディアが終わってしまうということ。このネタを出すなら、一緒に「これはめっちゃ読まれるはず」という企画を進めておかねばならない……。


これらを見直してもなお「いや、このよさがわからない読者がダメなんだ」という気持ちになりそうなときは(よくある)、あたたかいお風呂に入り、快適なベッドで8時間以上の睡眠をとりましょう。あなたの記事はまだちょっと世界に早かっただけで、いつか世界が追い付くから……(と祈ることで闇落ちを防ぐ。これもよくやる)。

Webメディアは「PV絶対主義」というところはほとんどなくて、むしろいま声が大きいのは「PVが絶対の価値じゃない」といっている人たちだと思うのだが、PVはメチャクチャ価値があるし、適当に読まれた1PVもじっくり読まれた1PVにも短期的には優劣はない。「人間の興味」みたいなものが数字に出てくるので面白い。逆にそのPVという関心に向けて記事を投げ込むのが面白い仕事だと思うのですが、それは闇落ちと常に背中合わせ。闇に落ちずに仕事をしていきたいですね。

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