見出し画像

PBL(プロジェクト・ベース学習)のススメ(4/5)

家庭学習や算数、国語の学習に主体的に取り組むようになった子どもたちの学びの質の向上は、次第に他教科にも広がりを見せ始めます。私が子どもたちと共に次に取り組んだのが 社会科における授業改善でした。

「子どもたちの主体的な学びの姿をあらゆる教科で実現したくなった」「特に社会科で深い学びを実現する方法をとことん追求してみたくなった」というのが本音です。小学校中学年段階においての社会科では一般的に「教科書の内容をおおむね指導書の通りに指導し、途中で社会科見学を実施し、見学の内容を何かしらの成果物にまとめ、学習のまとめを行い、単元テストを実施し、いくつかの項目で三段階評価する」という授業の流れが伝統的に踏襲されています。

私は3年生担任時に社会科においてPBL(プロジェクト・ベース学習)を導入し、そ れまでの社会科の学習を大きく転換することに挑戦しました。

PBL(プロジェクト・ベース学習)は日本では「問題解決学習」とか「課題解決学習」 とか呼ばれています。一方的に知識を与えられるような受動的な学びではなく、子どもた ち自らが問題を発見し解決する中で様々な能力を養うことを目的とした教育法のことで す。今回私が参考としたのは、MNCS(ミネソタ・ニューカントリースクール)が開発 した「エドビジョン型PBL」と呼ばれるものです。

私がPBLで社会科の学習を進めるようになると、何人かの先生から「従来の社会科の学び方は学習指導要領で定められ、教科書でも示されているものではないのか」「勝手に海外の違う指導法を取り入れてもいいのか」などという批判めいた指摘を受けるようにな りました。そのような場合、「PBLで目指すものは社会科の学習指導要領で示された目標に他ならないこと」「社会科の学習指導要領の目標を達成することが目的であり、その ための手段は従来の教科書通りの方法だけではないこと」「PBLにより今文部科学省が重視している主体的・対話的で深い学びがより促進すること」等と主張するようにしてい ました。

ここで確認しておきたいのは、我々が社会科の授業をする上で目指すべきものです。つまり社会科の学習指導要領に示された「目標」です。ここでは、第3学年の目標を引用し ます。

【社会編】小学校学習指導要領(平成29年度告示)

社会的事象の見方・考え方を働かせ,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次 のとおり資質・能力を育成することを目指す。
(1) 身近な地域や市区町村の地理的環境,地域の安全を守るための諸活動や地域の産業 と消費生活の様子,地域の様子の移り変わりについて,人々の生活との関連を踏まえて 理解するとともに,調査活動,地図帳や各種の具体的資料を通して,必要な情報を調べ まとめる技能を身に付けるようにする。
(2) 社会的事象の特色や相互の関連,意味を考える力,社会に見られる課題を把握し て,その解決に向けて社会への関わり方を選択・判断する力,考えたことや選択・判断 したことを表現する力を養う。
(3) 社会的事象について,主体的に学習の問題を解決しようとする態度や,よりよい社 会を考え学習したことを社会生活に生かそうとする態度を養うとともに,思考や理解を 通して,地域社会に対する誇りと愛情,地域社会の一員としての自覚を養う。

社会科の学習は学習指導要領で求められている力を子どもたちに身に付けさせるために行われるものです。我々教員には以上で示した学習指導要領の目標に向かって社会科の指導を行う「義務」と、学習指導要領の目標に向かって「最適な学習をデザインする自由」 があります。にもかかわらず、その「自由」はあまり認識されていません。多くの教員が 「従来通りの教科書の指導書に沿った指導をし、単元テストで評価しなくてはいけない」 という呪縛にとらわれすぎているのではないかと心配になります。

手段であるはずの「教科書の指導計画」が目的化してしまっている現実があるのではないでしょうか。指導要領「解説」には様々な内容が示されていますが、それはあくまで「解説」に過ぎません。我々が目指すべきは「学習指導要領」で示された目標の具現化であり、学習指導要領「解説」の内容をなぞった指導をすることではありません。この「解説」は、何かしらの法令によって作成されたものではなく、あくまで文部科学省による「指導助言」の一 環であり、法的には指導要領のような拘束力がないからです。

しかし、教科書会社が教科書を編集する際にはこの「解説」が非常に重視されます。文部科学省が発行したものであり、「解説」の執筆者のほとんどが中教審の委員だった人だからという事情もあるのでしょう。ですからどの教科書にも「解説」に書かれたことが記載され似たり寄ったりの内容になるになるのです。私たち教員が教科書をどう使って教えるかは、現場の創意工夫が入り込む余地が相当にあると言えるのです。

さて、私が初めてPBLを取り入れた3年生の単元は「工場の仕事」という11時間扱 いの単元です。その学習の流れを紹介します。

【1.問題の設定・焦点化】
プロジェクトの最初に行うことは、子どもたちがどんなことに関心があるか、どんな問題に取り組みたいかを明確にし、今後取り組むプロジェクトのテーマを決定することで す。この段階で大切なことは「プロジェクトに取り組む強い動機の獲得」です。私は子ど もたちに「みんなは大島に色々な工場があるの知ってる?」「どんな工場に興味があ る?」という問いかけを行い、たくさんの意見でホワイトボードを埋め尽くしました。 そして、その中で一番興味がある工場を選び、同じ興味をもつ友達同士でペアを作りま した。プロジェクト型学習を進める際には、学級で一つのプロジェクトにする方法、3~4人グループで行う方法ペアで行う方法個人プロジェクトにする方法等がありますが、今回は子どもたちの高い能力を踏まえ、ペアで行う方法を選択しました。

【2.企画・立案】
次に、MNCSの「プロジェクト学習企画書」をもとに作成した「プロジェクト学習きかく書」の1~9項目を完成させていきます。今回は初めてということもあり、一項目ごとに記入例を用意し、記入する際に考えていることをパワポで示し、丁寧に説明しながら進めました。


【3.探究】
企画書が完成し、いよいよ探究の段階に入ります。プロジェクトによりその方法は千差万別ですが、今回は初めてのPBLということもあり、全員が何かしらの「工場見学を行うこと」そして、まとめとしてペアで「新聞」を作成することをマストの課題としました。 実際にこの過程で行ったことは、工場見学に向けて工場の電話番号を調べること、自分たちで電話して訪問のアポイントを取ること、インタビューの準備をすること、実際に見学して写真を撮ったり、知りたいことをインタビューしたりすること、足りない情報はインターネットや図鑑等で調べることなどです。

【4.結果の整理・まとめ ~ 5.プレゼンテーション】
学校に戻ってからは、実際に「探究」したことを「新聞」にまとめる作業を行いました。 新聞づくりが初めてということもあり、新聞の型を示し、「新聞づくりの基本」をレクチャーする時間をとりました。そして初めての新聞を完成させるに至りました。新聞の発表会は、自分の興味関心からスタートしたこともあり、それぞれのプロジェクトに対する思いのあふれるものになりました。

【6.振り返り】
最後に今までの学びの過程を振り返り、良かった点や改善点を確認した後、次回にもう一度プロジェクトをするとしたらどんなプロジェクトを行いたいか等を共有しました。初めてのPBLを経験し、プロジェクト型学習の流れを理解した子どもたちは、その 後、第2回のプロジェクト「のこしたいもの、つたえたいものプロジェクト」、第3回「くらしを守るプロジェクト」、第4回「水はどこからプロジェクト」、第5回「ゴミプロジェ クト」をPBLで学び、回を重ねるごとに学習の質を高めていきました。

今後はPBLの課題としてあげられている次の4つの欠点を克服していくことを目指し ています。

1.チームのメンバー各々が何を学んだかを我々教師が正確に判断すること。

2.プロジェクトの中で低次のスキルを繰り返して熟練したレベルになること。

3.プロジェクト型学習が、低次スキルが自動的に使えるようになるというニーズに対応していないこと。→プロジェクト型学習用の教育オーバーレイの開発

4.情報を検索したり、サポートが十分ではなかったりと学習者の時間が無駄に使われることがあること。

探究はつづく…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?