随想③


本が増えた。
志賀直哉、永井荷風、谷崎潤一郎、直木三十五、山本有三の全集で本棚が埋まった。
『文藝春秋』も増えた。追悼号、好きな作品の初出……
このコレクションに何の意味があるのだろう。
燃やすとは言わないが、無意味が並ぶ本棚。

「手に職をつけろが母の教えでして……」
好待遇、資格持ち。
四年間を自分の興味に振った自分を呪った。
文学など知らなければ今頃は……

将来性がなさ過ぎたのだ。
無駄なものを知らなければ良かった。
もっと役に立ったならどれだけよかったか。

やはり好きなもので飯を食いたいという理想がある。
それには能力も環境も何もない。
努力だけでどこまでのし上がれるか。
好きなものに愛された者がいる。周りの人に愛された者がいる。
そんな人間を憎しみ、嫉妬の毒を浴びせる私。

「好きだ」
何度見たかわからない展示は自分の愛を確かめるためのもの。
展示を説明する言葉は自分の知識を確かめるためのものだった。
私はこの男を後世に残すために生きているのだ。
それ以外の夢も希望もない。
未来の彼を構成するものに、私の存在が居たなら――

「いつかはできるようになる」
「いつかは好きになるよ」
その「いつか」が私に来るとは思えなかった。

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