見出し画像

てきし…中国の横笛「笛子」のハナシ

はじめに

ご存知、中国は長い歴史がある国で、その長さと相まって国土の広さ故に多層的な文化の魅力に溢れています。その中にあって、紀元前からその存在が確認されている楽器の一つにして、長短様々あるものの、全国各地でほぼ同じ形のまま数多くの音楽に加わり、その音色が愛されているのが竹製の横笛「笛子(てきし・dizi)です。新中国の成立後、伝統曲を整理した独奏曲や新たな作品たちの数々が世に送られ、また今も次々と現代曲が生み出されているのは、その人気の顕れの証だと思います。今日はその笛子にスポットを当ててお話ししたいと思います。

江南絲竹合奏風景。曲笛を吹くワタクシ

【新規生徒さん随時募集中です。ホームページからお問い合わせください】

現在「笛(てき・di)」と付けば横笛、「蕭(しょう・xiao)」とあれば縦笛を指しますが、古代では呼び名に混同が見られました。なので地方音楽の中には今でも笛子を「横蕭(おうしょう・hengxiao)」と呼ぶ場合もあります(福建や広東など)。ジャッキー・チェンの名作アクション映画「酔拳」の中で酔八仙の技を紹介する時に「韓湘子,吹蕭!(仙人かん・しょうし、蕭を吹く!)」と言っているのに横笛を構えたポーズをしていて違和感を覚えていましたが、縦横の区別が実は曖昧だった時代の名残が今もある訳です(とりわけ方言には古い漢語の特徴や語彙がそのまま残っていたりするのです)。大人になって謎が解けた時はモヤモヤが晴れてスッキリしました。因みに、琉球で使う横笛を「ファンソー」と呼ぶのはこの「横蕭」が由来ですね。

「笛蕭(てきしょう・dixiao)」とまとめて呼ぶ事も多く、その表現の通り笛子の奏者が「洞簫(どうしょう・dongxiao。竹製の縦笛。構造も音色も日本の尺八を思わせる穏やかな音色の楽器)」も持ち替えて担当する事が多いです。個人的に洞簫が大好きなので、その話しはまたいずれ。

G管洞簫。縦に構えて左端の空いている穴から息を吹き込んで演奏します

「北高南低」?

さて、中国では同じ構造の笛子であっても、揚子江を挟んだ北方と南方の2系統で大きくスタイルが異なります。それを使う笛の種類(音域による分類)で呼び分けます。主に北方で使われる短く高い音域の笛を「梆笛(ほうてき・bangdi。詳細後述)」と呼び、それよりは低めのキーの、南方で多く使われて来た笛子を「曲笛(きょくてき・qudi。詳細後述)」と呼びます。「南船北馬(南方は船を使った輸送手段が多く、北は馬を使った陸上での移動が多いという地域による違いの例え。ここでは割愛しますが、中国武術の南北の違いの時にも良く引き合いに出される表現です。「南北少林」や「南北酔拳」などスタイルの違いをタイトルに入れた映画もたくさんあるので観てみてください)と言った表現に見られるように、中国では各地域によって気候風俗習慣、あらゆる事が大きく違います。加えて、中国語は同じ漢民族同士でも言葉が通じないほどの方言差があります。中国音楽は各地のお芝居と密接な関係がありますから、使われている言葉の違いも音楽に大きな影響を及ばしているのは疑いの余地がないでしょう。私の高胡・廣東音樂の師匠も私が広東語を勉強している事を喜んで「広東語が話せないと分からない事がある」とおっしゃってました。当然音楽の好みも地域差がある訳ですね。

そして、以前は地域間の交流もなく、いち地域の音楽を演奏するプレイヤーたちは他のスタイルの事は知らないし、ましてやそれを演奏する必要自体がなかった訳ですが、現代教育を受けた音楽家たちはこれらを巧みに使い分けるのが一般的になっています。

上)梆笛(F管)
下)曲笛(D管)
筆者蔵楽器
一番左側の穴が吹口で、右隣が笛膜(後述)そして6つの穴を開けたり閉じたりして演奏します。一番右側の2つは「出音孔」で演奏には使いません。

さあ、中国の横笛「笛子」の世界を実際にちょっと聴いてみましょう!

北方の華「梆笛」

ここから先は

3,782字 / 4画像

¥ 888

いつも温かいサポートをどうもありがとうございます。お陰様で音楽活動を続けられます!