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ローカルのデジタルプラットフォームが近未来の生活に欠かせない。

近隣エリアでの生活に関する本を読んだ。”Abitare la prossimitá - Idee per la citta dei15 minuiti"という本だ。直訳だと「近距離に生活する- 15分都市への考察」という感じになる。英語版もある

Livable proximity

著者はエツィオ・マンズィーニ、共著者がイヴァナ・パイスだ。マンズィーニの本は『日々の政治』を2年前に訳したが、パイスの文章は初めて読んだ。マンズィーニはソーシャルイノベーションにデザインを持ち込み、この世界の第一人者だが、パイスはミラノのカトリカ大学の先生で、経済社会学が専門だ。

「15分都市」がこの数年、世界の各地で議論され、かつ実施に移されてきた。ぼくもマンズィーニにこのテーマでインタビューした。動画をアップしている。

本書の副題に「15分都市」があるが、本書は15分という行政が好きそうなターミノロジーから脱出することに狙いがありそうだ。マンズィーニの"Design, When Everybody Designs"と『日々の政治』が下敷きになり、彼が『日々の政治』の日本語版向けに特別に書いてくれた内容が起点になっている。

つまり、インターネットによって世界中に友達(らしき)ものはできたが、一人住まいの人間が病気になったとき、隣に住んでいる人に「薬屋で薬を買ってきて欲しい」と気楽に頼める社会になっていない。これは大きな問題だと指摘していたのだ。

構成は5つの章(といっても、5章目に5章という名称はない)に分かれ、そのうちの4章がマンズィーニの考察、最後の章がパニスになっている。マンズィーニは「近距離」と「ケア」の関係についても、奥深い考えを披露しているが、ここではパニスの部分についてだけ触れておく。

パニスはデジタルプラットフォームを研究対象にしている。

シリコンバレーで生まれたグローバルにスケールアウトしたデジタルプラットフォームが多くの便宜を提供しながらも、同時に社会的に弱い立場、普通の日常生活を送る人たちは不便をかこつことになっている。

Airbnbが外国からも観光客を呼び込んだはいいが、不動産価格の上昇を伴うジェントリフィケーションによって一般市民が生活しづらくなったのも一例だ。見知らぬ国の(観光地にはない)日常生活をリアルに体験したいとの欲求が、見られる立場の人間にとっては不都合を生むのである。

Uberは世界中に普及しているように見えるが、オフィスの数がそれだけあるわけではなく、先進国の重要拠点都市の論理が一方通行のように「普及」させることでUberは利益を出す。

それで、非重要拠点にある人たちの生活はどうなるの?

この視点でパニスはさまざまにシャープに切り込みながら、欧州で、あるいはイタリアで生まれたデジタルプラットフォームの数々を紹介していく。Airbnbは米国の本社と各地の家主だけが儲かる仕組みになっている。そして、前述したように、何気ない近所のレストランのメニューに記載されている値段が急に「目をむく」それになってしまう、とか。

そういう事態を回避するために2016年にできたFairbnbというプラットフォームは、以下のような仕組みになっている。

Fairbnbの仕組み

ゲストが払うお金の15%がコミッション。しかし、プラットフォームに7.5%、もう7.5%がその地域の何らかのプロジェクトのファンドとなる。

こうしたローカルに「生きる」プラットフォームが各地域に活用されている。

また、ミラノでは社会的なマイノリティにある人たちがおこすプロジェクトに必要な資金を集めるに行うクラウドファンディングに対して市当局が背中を押す。

とても逆説的だが、英語圏ではない国に生まれるデジタルプラットフォームは、これからさらに求められ可能性がある。発想自体に無理なスケールアウト志向がない限り、という条件だが。ローカルとデジタルプラットフォームのペアにはまだまだできることが多い。

2013年、フェイスブックにSocial Streetという申請要のグループがボローニャで生まれたが、こうしたお隣さんページが2020年12月時点で450ほど(イタリア国内外で)活用されている(ぼく自身も、ミラノのある地域の2万人強のグループに入っている。落とし物発見をはじめ、なにからなにまで情報交換が盛んだ)。

Social streetを観察しているグループによれば、登録者の50%はオンラインで知り合った人とオフラインで実際に会っている(なにせ、会おうと思えば5-10分で会える)。そして25%は緊密な関係をもつコラボレータ―にまで発展している。近距離の人たちの間のオンライングループが如何にオフラインの生活を充実させるに有効であるか、がよく分かる。

だからこそ、グローバルプラットフォームに「お世話になり過ぎない」のがリスク回避にもなる。ロングサプライチェーンからショートサプライチェーンへの流れとあるところで背景は重なるが、それは極一部である。もっと人が生きる実態そのものに沿った話だ。

リモートワークが普及した現在、住むところを中心にした、この近距離空間のデジタルプラットフォームのあり方はより重要度が増している。近未来のあり方を示しているのだ。





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