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マンズィーニに「15分圏内の街」について聞きました。

9月末にエツィオ・マンズィーニ『日々の政治 ソーシャルイノベーションをもたらすデザイン文化』の翻訳出版が終わったら、即、彼にインタビューをして、即、動画配信しようと思っていました。いやいや、多忙な彼の時間を拝借し、その動画を編集してYouTubeにアップするのは、そんなに楽なことではなかったです。なぜって、なによりも彼はストーリーテリングの専門家でもあるから、こちらの提案や質問が大雑把だと、多忙のなかでも鋭いフィードバックがくるわけです。ぼくは「う~ん、やられた・・・」と唸ること多々です。

それにですね、ぼくはYouTubeを視聴者として眺めることはあっても、自分でチャネルをつくってアップしたという経験がなかったのです。だからYouTubeというメディアの使い方をまったく知らず、即ち、どういう戦略をたてると良いのか、ド素人もいいところなわけです。

ですから、実のところ、先月、トスカーナにいるマンズィーニにZoomでインタビューした後に、こういう諸々のことをネットで情報収集しながら、チャネルの名前を決めて、ロゴとバナーのデザインをするという芋ずる式の作業をしてきたのです。はい、YouTuberの偉大さがよく分かりました。

もともと本の翻訳からして、出版社の決まらない段階で翻訳をはじめたくらいです。ですから、このプロジェクトは、はじめから何から何まで、手作りに近いので、こうした動画もその手法で立ち向かうしかない・・・。

というか、正直言えば、こういうゼロから自分でやって学ぶことこそがこの種の仕事(彼の業績や世界でどういう評価を受けているか、日本でまだ一部の人を除いて知らない人が多いという状況からスタートして、その考え方をじょじょに紹介していくという作業)の醍醐味なんです。

翻訳をどなたかに下訳をお願いしたら、ぼくがある表現について考える時間が少なくなるんですよ、逆にね。そんなのもったいないじゃないですか!せっかく、世界で頻繁に引用されるデザイン思想家の頭の内を覗ける機会で、かみ砕いてぼく自身の言葉にできる契機でもあるのです。だから、動画も同じ。

というわけで、ここで今回のYouTube公開の舞台裏をお話します。

チャネル設定をどう決めたか?

当初、この動画は『日々の政治』の日本語読者向けをメインに用意しようと思っていました。しかし、インタビューでマンズィーニに話してもらった言葉を聞いているうちに、日本向けだけではもったいないと思い始めます。また、この本の内容が日本の読者にとってそうとうに理解しづらいだろうことは、訳者あとがきに書いた通りなのです。あまり性急に「こうすれば理解しやすいよ!」みたいなアプローチはマッチしないだろうと考えました(だから、アマゾンレビューで「分からない」というコメントを見ても、まったく驚きません 苦笑。ここからがスタートなのですから)。

もう少し、とっかかりのよいベルガンティの「意味のイノベーション」にして、この3年間半、一筋縄ではいかないことを痛感しているので(よって、このマンズィーニの本で鳥瞰的な見方を提供しようと彼の本を翻訳したのですが)、動画は英語読者をメインの対象にしていこうと急遽、方針変更しました。それならば、ミラノ工科大学でデザインを教えるぼくのパートナー、アレッサンドロ・ビアモンティと一緒に「ひそか」に進めている「デザイン文化」に関するリサーチ&啓蒙プロジェクトとリンクさせられると考えたのです。

デザイン文化については、今、武蔵野美大の山崎和彦さん、静岡大学の本條晴一郎さん、近畿大学の⼭縣 正幸さん、名古屋商科大の澤谷由里子さんというデザイン+経営学の混合チームで一緒に読書会をしており、先月はじめ、その一部の様子をXデザイン学校の公開講座でもご紹介しました。また、7月に武蔵野美大のイベントでぼくが話した内容は、日経新聞COMEMOの記事「「デザイン文化」をデザインするーミラノデザインウィークの変遷」にも書いています。

このデザイン文化のリサーチとアレッサンドロとの活動をつなげていくに、チャネルは英語版で設定しようと決め、名前を" Design Culture Leaning Platform" としてロゴをアレッサンドロに数時間(!)で用意してもらいました。


構成をどう考えたか?

YouTubeド素人のぼくでも、長い動画は見られないくらいは知っています 笑。マンズィーニが話したのは2時間近かったのですが、全部をアップするわけにもいきません。彼の個人的経験に過ぎることは、彼も公にするのを好みません。しかし、若干、個人的エピソードも入れたいとぼくは希望し、2人で話し合ってきめたのが、以下のような構成です。

パート1は「(徒歩)15分圏内の街とは何か?」というものです。 a 15- minute cityと英語で表現されている、都市の単機能ゾーニングのような考え方を排した生活圏の再構成を目的にしたプロジェクトですね。『日々の政治』でも、マンズィーニの日本語版あとがきに、物理的な近隣のコミュニティを作り直す必要性を説いていますが、バルセロナやパリ、あるいはミラノでも推進されている「徒歩15分圏の街」のコンセプトについて話してもらいました。

英語読者をメインとしたので、サムネイルは英語の本の表紙を使うことにしました。

これから3週にわたってアップしていく内容は、パート2が「どうソーシャルイノベーションは起こるか?」、パート3は「近隣の事例;トスカーナでの生活のしかた」です。大きな都市だけでなく、地方の小さな街での近隣のつきあいについてマンズィーニの生活圏について話してもらいました。最後のパート4は、「マンズィーニがどのような経緯で、デザインを使いながらソーシャルイノベーションにコミットするようになったのか?」です。

このチャネルをどう発展させていくか?

マンズィーニの動画が終わったら、次はベルガンティに話してもらおうかと考えています。デザイン文化はですね、組織であれ、地域であれ、こんなにカオスな状況ではますます必要だとの認識が高まっていると思うのですね。でも、どう手をつけたら良いかよく分からない。

上述のデザイン文化の勉強会には、来年に入ったら、アレッサンドロのみならず、リトアニアのカウナス工科大学のルータにも協力してもらう予定です。ルータは大学のデザインセンター長であり、リトアニア政府のデザイン政策の委員会のメンバーとしてもデザイン文化の定着に尽力している人なのですね。で、その彼女のミラノ工科大学での博士論文の指導教官がアレッサンドロだったので、もうこのテーマの強力な布陣をもって前進(試行錯誤)というわけです。


写真©Ken Anzai


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