安部公房『壁』を読んで

全編を通して悪夢って感じ。名前をなくした主人公が混沌とした世界の中でみんなにめっちゃいじめられる。味方になってくれるかと思った女の子やパパも、実は敵なのか味方なのか分からないし。てか誰が敵なのかすら分からない。そんな中でひたすら追われたり小突かれたり捕まったり監視されたりされる。途中で読むのが苦しくなっちゃったよ〜。

でも1951年にこんなカッコイイ景色が思い浮かぶなんてすごい。著者は砂漠とか砂とか渇きとかが好きそうだな〜って思った。「自分の身体の中にある砂漠に現れた巨大な壁のドアを開けたらバーに繋がっていて、バーのドアを出ると自分の部屋に繋がっていた」的な奇想天外な場面移動がかなり新鮮に感じられた。内部の世界と外部の世界が実は同質のものだったり裏返ったりするみたいなのは後の作家にもかなり影響与えたんじゃないかな。

全編を通してニヒルなユーモアが散りばめられていて面白かった。第一部と第二部が中編で第3部が短編集になってるんだけど、短編すごかったね。終始、メッセージ性・「作者が伝えたいこと」があるような無いような…みたいなぼかされ方がもどかしいんだけど、現代社会(とりわけ資本主義社会が生み出した搾取の構造)への批判めいたものは第3部の短編のいくつかに如実に表れているね。

むっちゃ長い詩・絵本みたいな感じだ。読むのにまあまあ体力がいるものの、誰もがとっつきやすいし、小説の面白さを味わえる。カフカとかダリの影響をめっちゃ受けてると思う。人間ドラマはないんだけど、それが逆に人間的というか。そんな感じの印象を受けた。

カフカ、リルケ、石川淳とかも読んでみようかな〜。 おわり

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