偶然咲いた花
「絶対に今じゃなきゃいけない」
生きていく中で、そんなことを思う瞬間がある。
気温は低いのにどこか暖かい、そんな日のこと。
その瞬間は偶然訪れた。
恋から離れて仕事ばかりをしていたワタシの前に突然現れた恋の種は、煙草をくわえていた。
友達の友達。俗に言うとそうなんだけど、
それとは少し違う気もして。初めての感覚だった。
特に何をしゃべるわけでもないのに「この人だ」と、そう思った。
その人を含めた集団とワタシたちが流れるように渡った2軒目で、その人が極度の人見知りであることと、今は北海道で働いているということを知った。
人数も減った23時。
少なくなった中にはワタシもその人も残っていて、なんとなくカラオケBOXに渡り、当たり前に歌を歌って、気がつくとみんな寝ていた。
寝損なったワタシ。と、その人。
誰かの睡眠にこんなにも感謝する日はもう2度とこないと思う。
感謝すべき眠りの火を絶やさぬよう、ワタシたちは喫煙所や近所のコンビニを渡り歩く。
退出時間までの1時間を残して、こっそり部屋に戻った。
24歳。もういい大人だし、しれっとキスの1つや2つされるかもなんて思ったりしたけど、その人はなにもしてこなかった。
それはおろか、私の提案で始めた指スマやら名前はないであろう、指の本数が増えてく謎のゲームやら、叩いてかぶってじゃんけんぽんやらで時間を潰した。「変な時間だな」とそんなことを思った。
でも、花が咲いたなら間違いなくこの瞬間で、私はこの人を"大切にしたい"と、本当に自然とそう思った。
5日後には北海道に帰ってしまうーーー。
連絡を取り合いながら、離れ離れになるその事実が頭を巡った。
きっと、その人もそうだったのかもしれない。
この偶然が些細な出来事なら、それはそれでいいんだけど。ただもう一度会いたい。純粋にそう思った。
その人が帰ってしまう前日に、ワタシたちはもう一度会うことにした。
その日はあっという間にやってきて。大切に、この偶然が些細な出来事にならないように、「ワタシは君が好きだよ」の想いを忍ばせて一緒に過ごした。
たかが偶然、されど偶然。なかったことにはしたくない。
でも、このまま帰してしまったら、せっかく咲いてくれた花は満開を迎えることなく散ってしまう。
そんなことを思っていた。その人も、そんなようなことを思っていたんだと思う。
「絶対に今じゃなきゃいけない」
同じ気持ちだったと思う。同じ瞬間に、同じ気持ちでいたんだと思う。
ワタシの元に訪れた小さな偶然は、ワタシたちをきちんと、繋いで大きな花を咲かせてくれた。
満開かどうかはわからないけど、それはきっともっともっと先のことな気がした。
遠い場所で相手を思って、花を育てて。
たまに会えたときに小さな花束を贈り合う。
そして、またいつか
「絶対に今じゃなきゃいけない」って
そんなタイミングで、満開になるんだろうなって。
電話越しの彼の寝言を聞きながら、そんなことを考えている。
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